M&A体験談メディア「M&A CAMP」を運営するダイアリー社長が、自社の会社売却をやめてIPO(上場)を目指すと宣言。複利で長期保有する合理性、東京プロマーケットからのステップアップ戦略、亀山敬司氏との対談を通じた本音を共有する。
M&Aに関する情報を発信するYouTubeチャンネル「M&A CAMP」。元々は運営元であるダイアリーが過去にWebサービス「タイ.com」を売却した経験から、売り手と買い手の情報格差をなくしたいという思いで立ち上げられた。チャンネル開設からおよそ1年が経過したいま、運営者自身が出した結論は意外なものだった。
「M&Aもいいなと思っていたんですが、いろいろ考えた結果、上場しようと思いました」
M&A情報を発信する立場でありながら、自社についてはIPOを選択した――その理由と過程を、本人がカメラの前で率直に語った。
方針転換の背景には、複利を効かせた長期保有のほうが合理的だという発想がある。
「1億円の事業や数億円の事業をいっぱい作って売却しまくるよりも、毎年20〜30%で成長し続けたほうがいい。最初の1億円が30%成長で1.3億円になる段階では3,000万円しか伸びませんが、これが10億円なら3億円、100億円なら毎年30億円増える計算になる。複利ってすごいなと思ったんです」
テクニックを駆使して会社を分けたり、細かく事業を切り出したりするよりも、一社にリソースを全集中させて長期で伸ばすほうがいい。そう考えた結果、過去に分社化した「M&A CAMP」と「ダイアリー」も再び一社に統合する方向で動いているという。関連当事者取引などの上場審査上の都合もあるが、それ以上に「自分のリソースを集中させたほうがいい」という判断が大きい。
直接のきっかけは、2026年2月の資金調達後に複数の企業から寄せられた資本業務提携や買収の提案だった。
「すごく魅力的な提案もありました。ただ、その時に考えたんです。仮に会社を売ったとしても、結局またYouTubeをやるなと。だったら、まだやりきれていない状態で売却するよりも、ちゃんと長期で持ち続けて企業価値を上げ続けるほうが、未来としてワクワクした」
コンテンツ事業は一生やり続けたい――その自覚があるからこそ、短期的な売却益よりも長期での価値創造を選んだ。
上場ルートとしては、いきなりグロース市場ではなく、まず東京プロマーケットを経由する段階的な戦略を選んでいる。
東京プロマーケットは特定投資家しか株式を売買できないため、誰でもいつでも株を買える状態にはならない。とはいえ、上場企業としてのガバナンス体制や組織設計を整える過程は経験できる。最短で2027年秋ごろの上場を目指すという。
その後はグロース市場、または名古屋証券取引所、さらにはプライム市場へとステップアップしていきたい考えだ。
「いきなりグロースに上がれるなら上がりたい気持ちはあるんですが、段階的に進めるのが今の自分の考えです」
グロース市場の上場維持基準が厳格化され、上場後5年で時価総額100億円に達しなければ退場させられるなど、ハードルは年々上がっている。それでも「次やればできると思っているので挑戦したい」と語る。
上場審査の過程では、年間で2,000万円規模、3年間で4,000万円程度のコストがかかる。決して安くはない投資だが、その過程で得られるものに価値を見出している。
「いままで感覚的に経営してきて、属人性を減らすとか全く考えていなかった。でも上場審査の過程で、ガバナンス体制やマニュアル作り、組織体制を強制的にちゃんと作っていくことになる。コーチングサービスとしてもいいなと思いました」
平均年齢24歳の若い組織だからこそ、整っていない部分が多い。それを整えていくこと自体が会社の成長につながる――そう捉えれば、上場審査のコストはむしろリターンが大きいという発想だ。
上場後の株主との関係についても明確な方針がある。
「短期的には日和って見えるかもしれませんが、長期で見たら合理的だと証明するには一定の時間がかかる。なので前提として、自分自身が筆頭株主として66%以上は株式を持ち続ける状態のほうが、一旦はいいだろうと思っています」
もちろん株主からの意見は積極的に聞きたい。ただ、社長として、筆頭株主として信頼を1つずつ積み重ねていくことが基本姿勢になる。「いきなり株主をめっちゃ増やすことはしないと思います」と語る。
方針を周囲に伝えたところ、ほぼ全員から反対されたという。唯一肯定的な反応をしたのが、対談相手として登場したDMM.com創業者の亀山敬司氏だった。
「みんなに『絶対無理』『向いていないからやめたほうがいい』と言われました。そんな中で、亀山さんだけが『いいんじゃない、色々やってみたら』と言ってくれた」
亀山氏自身はDMMを非上場会社として経営しているが、上場することで得られる経験には肯定的だ。「色々やってみたいんでしょ?」という亀山氏に対し、本人は「ドM気質」も自認しつつ、外部からの厳しい目線に身を置く環境そのものに価値を感じていると応じる。
また、「DMMや田端さんと関わったら上場できないのではないか」というスタートアップ界隈の噂についても、実際の審査基準にはそうした要素は存在しないと考えており、「亀山さんと関わっていても上場できることを証明したい」と語った。
上場した瞬間に成長が止まる、いわゆる「上場ゴール」にだけはなりたくない。それは、これまでさまざまな経営者にインタビューしてきた当事者だからこその実感だという。
「自分たちでコンテンツにしてきて、当事者になったらそうなる理由も分かるなと思います。でもそうならないように、本質的にプロセスで自分たちが成長していくところに価値を見出したい。そっちのほうが楽しいので、上場したとしても次の目標が決まると思うし、そこまで執着しすぎないほうがいい」
メジャーリーグでいえばダブルAレベル。上場はマイルストーンであって、ゴールではない。
東京プロマーケットへの上場には監査法人とJ-Adviserと呼ばれるアドバイザーが必須となる。今回はJ-Adviser業務として日本M&Aセンターに依頼することが決まった。
「進み隠さず、いろいろ皆さんと共有できたらと思っています。関わる方にちゃんと価値貢献できるよう、責任を持ってやっていきたい」
M&A体験談を発信してきたチャンネルが、これからは自社の上場プロセスをコンテンツとして発信していく。チャンネル名は将来的に「IPO CAMP」に変わる可能性すらあると冗談交じりに語る。
「亀山さんも、ここ一の創業者の方々も、人格が育っていく過程がかっこいい。自分はそんなに強い人間ではないので、宣言したり強制力を働かせたりすることで、自分自身も成長していきたい。会社イコール自分なので、イケてる会社を作りたいんです」
「結局、会社をめっちゃ大きくできるなら、オーナー企業で複利を長期で効かせたほうがいい――それが今の自分の意見です。正解かは分かりませんが、身を持って実践していこうと思います」
M&A体験談を発信するメディアの運営者が、あえて自分自身は売却ではなくIPOを選ぶ。その挑戦の過程は、これからM&A CAMPで継続的に共有されていくという。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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