DMM会長の亀山敬司氏とアルゴマティック代表の大野峻典氏が、中小企業経営者に向けてAI活用の本質を語る。AIで仕事は減るのか、経営者はどう向き合うべきか、社員にどう触れさせるか。商売目線とAI開発者目線の両者が交わす実践的な議論。
DMMのオフィスを舞台に、DMM.com会長の亀山敬司氏と、AI事業を展開する株式会社アルゴマティック代表・大野峻典氏が対談を行った。テーマは「中小企業はAIとどう向き合うべきか」。商売に明るい亀山氏と、AI技術に精通する大野氏。立場の異なる二人が、初歩的な疑問から最新の動向までを率直に語り合った。
大野氏は元々大学でAI研究に従事し、企業ごとのAIモデルを開発・販売する事業を立ち上げた。その会社を5年前にDMMへM&Aで売却し、グループ入り。1年半前に新会社アルゴマティックを設立した経営者だ。
アルゴマティックでは複数のプロダクトを並行して開発している。一般的なスタートアップの定石は「1点突破で当ててから広げる」だが、なぜあえて分散させるのか。
大野氏は「僕らだけだったら当然1点突破だが、DMMと一緒にやっているのでDMMがすでに1点突破してくれている。そのリソースを使えるから最初からたくさん作れる」と説明する。
亀山氏もこの方針に同意する。「AIはまだ種の段階。種なら、いっぱい植えておいた方がいい。本来は1個当ててから他を展開する方がいいけれど、AIのスピード感から言うと早い方がいい」。技術自体も「先月できなかったことが今月できるようになる」ほど進化しており、2Bと2Cのどちらが伸びるかも見極めがついていない段階だという。
話題はDeNAの南場智子氏による「既存事業を半分にして残り半分は全員新規事業に移す」という宣言にも及んだ。亀山氏は「売上を伸ばしながら人を半分にするというのは、なんとなく分かる。既存の効率化とAIによる効率化は痛い話とも繋がる。自分たちのビジネスがだんだんやっていけるしなんか仕事なくなっちゃうみたいな話はある」とコメント。
DMM自体も従業員数は4000人を超えているが、それでも毎年1〜2割の採用を続けている。「現時点でAIだけで全部いけるかというと、まだそうはなっていない」のが現実だ。
世間ではAI導入によって仕事が減ると思われがちだが、大野氏は否定する。
「営業を効率化できるAIがあって、今まで10の仕事を受けていたのが100受けられるようになると、会社の人はもっと忙しくなる。AIによって生み出されるものの総量自体が増えるから、暇になる感じは全然していない」
むしろ大野氏が見ている世界観は「分業」だという。「AIがやるべきことはAIがやる。人がやるべきことは人がやる。だからAIを使わずに人らしい仕事だけやる人も結構生き残るだろう」。
ここで言う「人らしい仕事」とは、対面で人と会って喋る・仲良くなる、現場で物を作るなど、物理的な作業を伴うもの。一方、デジタル空間に閉じる作業——パソコン上で情報を見てメッセージを送るような業務——はAIとの相性が良く、自律的に動けるAIエージェントが進化することで分業が進んでいくと予測する。
AI活用によるコスト構造の変化も大きい。これまで1000万円かかっていた業務が100万円でできるようになれば、起業のハードルも下がる。
「ライティングもAIツールでめちゃくちゃ早くできる。人を巻き込むと時間がかかるが、1人で完結すると早い。ソロプレナーや10人の会社でも、今までは100人の会社じゃないとできなかったような売上や利益を作れる世界になり得る」と大野氏は語る。
ただし亀山氏は冷静だ。「AIをやっている国とやっていない国があったとしたら、こちらの方が人も含めて100倍稼げるとして、そこで差が出てくる。ITを入れたから世の中失業者で溢れたわけではないが、日本がITをやらずアメリカがやれば、向こうの生産性が上がって日本の仕事がなくなっていくだけ」。AIの導入は競争上の必須条件だという見方だ。
中小企業の経営者がAIと向き合う具体的な方法について、二人はいくつかの実践を挙げた。
亀山氏は「みんなにAIのチャンスを与えるしかない。スマホをみんなに与える感じ」と例える。早めにスマホを持った人がLINE・Facebook・Instagramを使いこなしていったように、AIも触れる環境を作らなければ文化に馴染めない。
「ChatGPTを社員に無料で配布するのは絶対にやった方がいい。使えないと意味が分からない」と大野氏も同意。共通アカウントの使い回しではなく、1人1人にアカウントを与えることが望ましいという。
大野氏は「ChatGPTを使ってみると、ここまでできるならメールの編集も自動化できるはず、と色々思いつくようになる。思いついてみると意外とそういうサービスがある」と語る。SNSと同じで、概念を聞くだけでは分からず、使ってみないと感覚が掴めない。
外部のAIエージェントは相場が分かりにくく見極めも難しい。「中の人が自分で詳しかったら『お前対応してきて』という方がまだマシ」と亀山氏。当事者意識を持って会社のために動いてくれる1人目のAI人材を、社内で確保することが鍵となる。
大野氏も同意し「インサイダーでちゃんとキャッチアップしてくれる人が1人いるだけで、その人を起点に会社の中で広まる」と語った。
対談の終盤、亀山氏は自身の働き方についても明かした。パソコンは電子書籍を読むかNetflixを観るかにしか使わず、仕事の8〜9割をスマホで完結させている。スプレッドシートやExcelを自分で操作することはなく、文字を書くのもサインだけ。長文のメッセージを打つこともない。
「やるべきことにフォーカスしている」と語る亀山氏のスタイルは、AIに任せられる作業はAIに任せ、人にしかできない判断や対人コミュニケーションに集中するという、まさに「分業」の実践でもある。
対談を通じて見えてきたのは、AIはまだ「種の段階」にあり、確固たる成功パターンがない一方で、触れる環境にいるかどうかで数年後の差が決定的になるという現実だ。
中小企業経営者ができることは、(1) 社員にAIツールを与えて触らせる、(2) 自分自身もまず触ってみる、(3) 社内に推進役となる1人目の人材を置く——この3点に集約される。
スマホがそうであったように、AIも持つ人と持たない人で文化への接続が変わる。手遅れになる前に、種をまく側に回ること。それが二人の経営者から発せられた共通のメッセージだった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
