プロマーケット上場を果たしたデジタルマーケティング会社代表が、DMM亀山会長に海外進出と急成長への葛藤を相談。M&Aによるギャンブル的拡大ではなく、堅実な経営スタイルを活かしたシンガポール進出の道筋を探る対談。
DMM亀山会長の別荘で開催された事業相談企画。今回のゲストは、人材紹介会社出身のデジタルマーケティング会社を経営する今村氏だ。今村氏は2年前にプロマーケットの存在を知り、急ピッチで準備を進め、2026年4月に上場を果たしたばかりだという。
プロマーケット──正式には「TOKYO PRO Market」と呼ばれるこの市場は、グロースやプライムと違い、3億円以上の資産を持つ特定投資家しか株式を購入できない。誰もが売買できる一般的な上場とは性格が異なり、経営者の間では「なんちゃって上場」と呼ばれることもある。
「本質的には未上場での調達と方法は変わらないんです。ただ、ブランドや会社の名刺、営業の場面で『上場企業』という肩書きが使えることが、本質的なメリットだと思っています」と今村氏は語る。
実際、上場後は問い合わせ件数や営業の受注率が大きく改善したという。グロースやプライムに比べて売上目標などの厳しい基準も存在せず、参入のハードルは低い。今村氏自身、株式の0.01%だけを放出した最低限の上場で、99.99%の株を引き続き保有するオーナー企業のままだ。
上場したからには次のステージへ──。証券会社や周囲からはプライム市場やグロース市場への上場を促す声が絶えない。しかし今村氏には、そこに踏み切れない事情があった。
「正直、意思が特になくて。したくないわけでも、したいわけでもないんです」
そもそも今村氏の事業は、デジタルマーケティングの請負やLP制作などが中心。SaaSのように先行投資で大きな資金を必要とするビジネスではない。すでに黒字経営で、調達した資金の使い道が明確に描けない状態だった。
これに対し亀山会長は、シンプルな答えを返す。
「調達したい時が来たらやればいいんじゃないの? 今の事業を堅実に伸ばしていくよ、ちょっと地味って言ったら変だけど、1個1個の仕事で10%、20%利益を取っていくっていう手もあるわけ。そっちの方が硬いっちゃ硬い。会社を持たせたいんならそうだし、今聞いてそんな心になさそうだ」
下手に大金を投じて新規事業に踏み込んでも、すべてを失うリスクの方が大きい──。今村氏自身も、SaaSモデルで成功する経営者を見て「自分には絶対真似できない、そういう格がない」と感じていたという。
今村氏の会社の主軸事業の一つが、CRMツール「HubSpot」の導入支援だ。Salesforceの代替として選ばれることが多く、世界408カ国で使われているこのツールについて、今村氏の会社はプラチナパートナーに認定され、国内上位13社にランクインしている。
なぜHubSpotだったのか。今村氏は2030年までにシンガポール拠点を作るという目標を掲げており、海外と接点を持てるグローバルなプロダクトの中で「ナンバーワンになろう」と決めたのだという。
「自分たちでプロダクトを思いつけないのであれば、すでにあるものの中でナンバーワンを目指そうと考えました」
海外発のCRMツールは、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパで先行して使われ、遅れて日本に普及するのが通例だ。この時差を活かしてアジア市場、特にシンガポールへの進出を狙っている。
これを聞いた亀山会長は、率直な感想を口にする。
「もうコバンザメ商法じゃない。HubSpotを担ぐ、と」
大手プロダクトのインプリメンテーションに特化することで、独自プロダクト開発のリスクを取らずにグローバル展開の道筋を作る──堅実派経営者にフィットする戦略だ。
海外進出を語る経営者仲間からは、こんなアドバイスを受けることもあったという。
「海外でやりたいんだったら、海外の企業を何個か選んで買わないと始まらない」
M&Aで現地のシステム開発会社を買収し、HubSpotを実装できる体制を一気に手に入れる。一見合理的な選択肢に思えるが、亀山会長は首を横に振る。
「結構ギャンブルよ。M&Aで買った人が全然使えないこともあるよね」
ここでも亀山会長が示したのは、堅実派の経営スタイルに合った別の道筋だ。
まず、国内の採用段階から外国人人材を意識的に組み込む。例えば10人採用するなら、インドネシア人2人、シンガポール人2人といった構成にする。日本人スタッフを年収500万円で雇うとすれば、外国人には100万円上乗せして600万円で迎える。
「その100万円は、未来あるかもしれない投資と判断する。シンガポール行けるやつだと、未来の投資。可能性分の100万円足し」
2〜3年一緒に働く中で、現地マネジメントを任せられる人材を見極める。マネージャーとして化ける可能性が見えれば、シンガポール拠点の責任者として送り出せばいい。仮に誰も適任者が出てこなくても、優秀な人材が国内営業として残るだけで、損失にはならない。
この方法なら、M&Aのように一気に大金を投じるギャンブル要素を避けながら、3〜5年というスパンで着実に海外進出の足場を作れる。
対談を通じて浮かび上がったのは、今村氏の経営者としての自己認知の明確さだ。
「急成長できる気がしないと思っています。自分が元々そういう能力を持っていないと、自分でも評価しているところがあって。ずっと120%成長を繋げていく会社。前作った会社もそんな感じでしたし、今作っている会社もゆっくり、でも100%は割らない」
数億円規模の投資で150%成長を狙うようなお金のかけ方も戻し方も、経験がない。だからこそ意思が弱くなる──。今村氏のこの自己分析に対して、亀山会長は強く肯定する。
「毎年110%って立派なもんよ。5%伸ばすのも大変なんだろ、今。それでやってきているんなら、その経営スタイル変えない方が。周りから『M&Aした方がいいよ』『グロース行った方がいいよ』とか言われても、言ってるやつなんて無関係の話だよ」
他人の成功体験を真似しても、自分のビジネスモデルや性格と合わなければ機能しない。経営者の性格とビジネスモデルがマッチして初めて、いい会社になる──。今村氏は対談を通じて、この当たり前にして見落としがちな真理を改めて確認したと振り返る。
「自己認知ってすごい大事だなと思いました」
上場という大きな節目を越えた経営者の悩みに、業界の先輩が示したのは、急成長を煽るのではなく、自分のスタイルを徹底的に活かす道だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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