DMM.comグループに会社をジョインした大野氏と、買収側のDMM亀山会長による異例の売り手買い手対談。M&A後の関係性、AI事業への挑戦、若手起業家への向き合い方、そして亀山会長が語る「健全な組織作り」の経営哲学に迫る。
本記事は、M&A CAMPで実施された対談企画の後編にあたる。前編では大野氏がDMMグループにジョインした背景や若手起業家へのアドバイスを聞いたが、今回は買収側であるDMM.com会長・亀山敬司氏も同席し、売り手と買い手が同じ場で本音を語り合う貴重な対談となった。
冒頭、亀山会長に「なぜ大野氏の会社を買収しようと思ったのか」と問うと、返ってきたのは意外な答えだった。
「松本(DMM元社長)が決めたから、俺はそもそも知らなかった。買収が終わった後にフラッと会って『あ、なんか入ったらしいね、よろしくね』というコミュニケーションがあったぐらい。だから何の決断もしてないんだ、俺は」
大野氏も「『君、誰?』みたいな感じだった」と笑う。本格的に二人の関係が動き出したのは、その後のことだった。
最初の買収は松本氏との縁で始まったが、松本氏がDMMを離れたことで、亀山会長が大野氏の事業を引き継ぐ形となった。前の会社は別の後任に引き継ぎ、改めてAI専門の会社を新設。そこに2億円の追加出資が入った。
亀山会長は出資の理由をこう語る。
「一緒にやってたらちゃんとしてるし、結果も出していた。社内でもAI関連は色々やっているが、会社が大きくなると決済に時間がかかる。いわゆるイノベーションのジレンマだ。組織を分けて20代だけのチームでやればいいという形にした」
DMM本体ではスピード感を出しにくいAI領域を、若手中心のスタートアップとして切り出す戦略だ。亀山会長は「役員も30代後半から40代が多い中に混ざるよりも、そこはそこで分けてやればいい」と語る。
通常、ロックアップ期間中に創業者のモチベーションが下がるケースは少なくない。しかし大野氏は今もアクセルを踏み続けている。その理由を、本人はこう語る。
「月1で定例があって、何かあったら電話で相談したりサウナに行ってミーティングしたり。『金は出すけど口は出さない』というやり方で、相談に乗ってくれるし教えてもくれる。でも最後は『お前ちゃんと考えてやれよ』というスタンス。自分一人では知らなかったことを知れるし、アクセルも踏ませてくれるし、オーナーシップも持たせてくれる」
亀山会長も「金を出すと口も出したくなる」と認めつつ、出すべきところと出さないところを明確に分けている。たとえばAI領域における個別ツールの優劣まで踏み込むことはしないが、「自社開発でやっていても先がない、自分たちでプロダクトを作ろう」という大きな方向性については踏み込んで議論するという。
「腹落ちさせないとやる気が出ない。命令では人は動かない」と亀山会長。大野氏も「1回言うとすぐ調べて翌日には候補を上げてくる」素直さで応え、二人の関係は約3〜4年続いている。
Web3、AIと、亀山会長は新領域に率先して飛び込むことで知られる。その柔軟さの源泉について問うと、こう答えた。
「みんななんとなく『これからAIやばい』と思っているけど、不安だからどうしようと言いながら現実逃避でゲームでもしようかとなる。しっかり向き合えば、この4〜5年で世の中が変わると分かる。だったら放っておいたらやばい。うまくいくか分からないけど、目ぐらいはあちこちに出しておいた方がいい」
ただし、自身でAIツールを使い込むかというと「打ったり喋ったりが面倒くさくなって、結局ゲームをやっちゃった」と笑う。それでも市場の可能性は確実に感じているという。
大野氏は「亀山さんはめっちゃ素直。若い人の話をめちゃくちゃ聞く」と評する。ショート動画も「こんな2分で何が欲しいんだ」と思いつつ実際に見続け、1〜2時間経ってしまった経験から、若い世代が見ている世界をキャッチすることの重要性を説いているという。
「経営は年を取るほどうまくなると言われるが、実際はそうでもない。年寄りの方がいいと言うやつは、自分が年寄りだから言ってるだけ。あるとしたら、それまで積み上げた信用や資金力、人脈をうまく使えることぐらい」
一般的には「選択と集中」が経営の定石とされる。しかし亀山会長の考え方は異なる。
「ポリシーがあるわけじゃなく、その時の状況による。1000万円しかなければ1個に集中するしかない。20億円あるなら2億円ずつ10個の案件で5〜6人ずつ張り付けて試した方がいい。どれが当たるか分からないんだから、分けた方がいい」
大野氏のAI会社でも、この考え方は活きている。現在4つのプロジェクトを走らせているが、それぞれに執行役員クラスのチームを置き、立ち上げを任せている。3ヶ月後、半年後、1年後の目標を共有しつつ、進捗や方向性は議論するが、基本的にはチームに権限を委譲する形だ。
プロダクトの目処が立ち「カチッ」と手応えを感じた段階で、100億、200億単位の本格投資を判断する。「突っ込む場所を探すために色々試している、というのが今のAIのポジション」と亀山会長は語る。
人を信頼して任せる経営において、不正と失敗の線引きは重要だ。亀山会長は「不正は厳しく言うが、失敗はどこに行ってもある」とし、新規事業に挑戦する社員には「失敗しても給料は下がらない」と明言する。
「今の若い子は失敗を怖がってビビっている。リスクがない状態で、うまくいったら給料が2倍3倍になるかもしれない、と焚き付けるしか手がない」
そうやって挑戦させると、10人いれば2〜3人がうまくいき、2〜3人はぼちぼち、残りは失敗するという。実際に経営者になれる人材は「意外と地味なやつ」だったりするため、確率を見て数を打つ姿勢が重要だと語る。
大野氏に対する初対面の印象も「頭は良さそうだけどソフトすぎて頼りなさそうに見えた」が、周囲をリスペクトしながら立てる姿勢が結果的に組織を動かしているという評価だ。
対談の中盤、感謝表現の話題になった。亀山会長は自身を「昭和のテレ屋」と表現する。
「令和は『社会のためにいいことやります』『みんな愛してます』とみんな言うが、俺は恥ずかしくて言えないチキン。昭和のおっさんはみんな同じで、感謝を言うことが偽善でかっこ悪いと感じる。少年ジャンプで『お前なんか好きじゃねえぜ』と言いながら助けるヒーローが多かった世代だから」
それでも最近は努力して、社員や周囲を褒めるよう意識しているという。50歳を過ぎてからは家族とハグもするようになった。「子どもが大きくなって、親も孫と遊ぶのを見て、スキンシップは大事だと思った」と語る。
大野氏も「DMMの方々を見ているとカメさんの感謝はめっちゃ伝わっている」とフォロー。亀山会長が「いろんな方をめっちゃ頼る」ことで、必要とされている感覚が周囲に伝わっているという見立てだ。
組織論の話の中で、亀山会長はDMMの原点であるレンタルビデオ時代を振り返った。
「うちはパートのおばちゃんが一番力を持っていた。俺とパートのおばちゃんとヤンキーのアルバイトしかいなかった。『なんでこの経費出してないんですか』『ヤンキーが休んだら穴埋めます』と言ってくれる。基本的に田舎では、優秀な大学卒の女性が出産で引退してパートに来ているケースが多かった」
恐怖政治で組織をまとめる経営についても言及。世界的にはむしろそちらが多数派かもしれないが、本人が幸せかは微妙だと語る。
「恐怖の分だけいつ刺されてもおかしくない。飲み会も忖度で『こちらどうぞ』ではなく、『カメちゃん』と呼ばれて来た方が楽しく飲める」
最近は大野氏ともバーベキューに行く間柄で、車の運転や火起こしまで亀山会長自ら動くという。
経営学者・楠木建氏のインタビューでも「DMMがなぜ成長したかストーリーが見えにくい」と評されたという。多種多様な事業を抱えるDMMの強さの源泉を、亀山会長はこう説明する。
「自治権を与えて、それぞれにストーリーを持たせている。各社で売上目標も社風もバラバラ。本社からは補助金や広告費の負担、デジタル帳簿の整備など共通インフラだけ提供する。ある種の合衆国のような形」
そしてDMMが大切にする価値観について、こう続けた。
「日本の大きな会社になるほど、上司への忖度で出世したり、短期利益を上げないと首になるからと働かない役員が増えたりする。会社って本来、外部から利益を得て大きくなるものなのに、多くの会社は中で『どっちが部長だ』とやっている。それでは伸びない」
各事業会社が潰れても、優秀な人材は別の会社に異動できる。「ちっちゃい国をいっぱい作った方が、健全な成長が全体でできる」というのが亀山会長の経営哲学だ。だからこそ「業種は何でもいい。商売が好きで、ちゃんと健全に成長してくれればいい」と語る。
大野氏もこの文化を実感している。
「普通の大企業だと『今期の目標と関係ないからAIは大丈夫っす』となりがち。でもDMMの方々は試すのも早いし、変な忖度もない。外部ツールがいいなら外部を使う。事業の意思決定はかなりフラットで、それでもグループとしての仲間感がある」
グループ全体の利益が出れば自分の株価が上がるよう、ホールディングス会社の持株会も整備しているという。
最後に、DMMのM&Aの基準について聞いた。
「本当に0円から数百億まであるよ。たまに『0円でいいですから、その後これだけ資金を突っ込んでください』という買収もある。途中まで事業は進んでいるが追加資金が来ない赤字会社は珍しくない」
買収判断の基準については、価値算定チーム(CFOら)が関わるものの、のれん代に相当する部分の評価が最も難しいという。
「ビジネスが5年後10年後どうなるかという読みになる。あんまり、これは『えいや』って感じ。直感的ではないけど、計算もあるかどうか分からない。出し惜しみで言わないわけじゃなくて、自分でも言えません」
買収から数年経った今も、月1の定例とサウナでの相談を重ね、AI領域で次の一手を探り続ける亀山会長と大野氏。「金を出すが口は出さない」という距離感が、買収後も走り続けられる関係性を支えている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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