生成AIが普及する時代、企業組織や経営のあり方はどう変わるのか。AI専門メディアNAU編集長の酒井氏が、独自情報の重要性、組織の「クリスマスツリー化現象」、新卒教育の課題、そして経営者が今すぐ取り組むべきことを語った。
生成AIが急速に普及する中、経営者は自社のビジネスや組織をどう変えていくべきなのか。AI専門メディア「NAU」編集長として2017年から約8年にわたりAI領域を取材し、書籍『生成AI導入の教科書』の著者でもある酒井氏が、MA CAMPに登場。聞き手のしゅん氏、コミネくるみ氏とともに、生成AI時代の経営者の心構えと組織のあり方について語った。
生成AIの台頭によって、コンテンツは誰でも簡単に作れるようになった。そんな時代に何が重要になるのか。酒井氏が真っ先に挙げたのは「独自情報」と「一次情報」の価値だ。
「これから重要になってくるのは、独自情報、もしくは一次情報を持ったデータホルダーの会社です。生成AIを搭載したプラットフォームは、ひたすらコンテンツをクローリングしながら、一次情報を持っているプレイヤーとどんどん連携していく。そういう未来があり得ると思っています」
例えばSEOでよく見かける「おすすめ◯選」のような記事は、世の中にあるコンテンツを再編集した二次情報に過ぎない。料理のプロが選ぶおすすめのように独自視点があれば価値は残るが、単なるまとめ記事は今後どんどん価値を失っていくという。
「情報構造を一次情報・二次情報・三次情報と見たときに、二次情報的な中間にある情報はいらなくなっていく。一次情報と繋がっている生成AIが、何でも教えてくれるようになるからです」
コミネ氏も、AI業界ではすでに食べログのプラグインが話題になるなど、一次情報との連携の動きを実感していると応じた。
組織のあり方についても、酒井氏は独自の視点を提示する。それが「クリスマスツリー化現象」だ。
「ハードスキルがどんどん生成AIによって代替されていきます。マーケティングは自動化できるし、プレスリリースを書くのも自動化できる。デザインも半分くらい効率化されている。プレイヤーが持っているスキルの相対的な価値はどんどん低くなっていく」
マネジメントレイヤーや経営レイヤーも縮小はするが、それ以上にプレイヤー層の縮小スピードが速い。結果として、組織はクリスマスツリーのように「下の幹」が細く、上に向かって広がる形になっていく――それが酒井氏の見立てだ。
生成AIの活用率は現状10〜15%程度というデータもあるが、ChatGPTのプラグインや各種AIサービスの進化により、技術は指数関数的に便利になっていく。「2〜3年でもっと来るというのは確実」と酒井氏は語る。
クリスマスツリー化が進むと、深刻になるのが新卒・若手人材の教育問題だ。
「新卒で入って議事録を取りながら専門用語を学んでいく、そういう積み重ねの中でスキルを得てきたわけですよね。でも議事録は生成AIでできるんじゃないか、となると、そもそも経験を積むことができない」
酒井氏は、新卒採用の枠が縮小するスピードは、人口減少のスピードよりも速くなる可能性があると指摘する。エントリーレベル人材の教育は、これからの大きな社会課題になるという。
対策の一つとして挙げられたのが「プロジェクトベースド・ラーニング」のような実践型教育だ。経験を積めない以上、教育の中に経験できる要素を組み込む必要がある。とはいえ全員に等しく実践型教育を施すのは難しく、新卒採用そのものをどう設計するかは経営者にとって大きな課題になる。
ではスタートアップや中小企業はどう採用すればよいのか。酒井氏は、採用基準そのものを見直す必要があると語る。
「ハードスキルだけで評価するのではなく、ソフトスキルとメタスキルの重要性が相対的に上がっていく。営業で売れます、マーケティングが得意です、で採用するのではなく、カルチャーフィットの重要性が高まる可能性もあります」
面接やSPIだけでは測れない対人関係スキルや人間性こそが、これからの採用で重要になる。なぜなら、人間性のある人物が「何かしたい」という意思さえ持っていれば、デザインもデータ分析もプログラミングも生成AIに任せられる時代が来るからだ。1人で1つのプロダクトや事業をまとめることができるようになる。
酒井氏は、AIをドラえもんに例えるユニークな視点も披露した。
「皆さんAIというとドラえもんを想像しますが、実際はドラえもんと秘密道具が組み合わさったものがAIに近い。多くの会社にはSaaSのプロダクトやツールが散在していますよね。これは、ドラえもんがいない状態でのび太君が四次元ポケットを手に入れて、どう使っていいかわからずアタフタしている姿に近い」
そこで重要になるのが、複数のツールを統合的に管理する「エージェントAI」の存在だ。エージェントAIが各種APIと連携し、人間の指示一つでカレンダー予約、稟議の承認、請求書からの振込処理などを実行する未来が現実になりつつある。
こうした時代に経営者・ビジネスパーソンが鍛えるべきは「マネージャーの視点」だ。
「マネージャーとして自分の意思をテキストでプレイヤーに伝える。これって生成AIでも人間でも変わらないんです。プロンプトエンジニアリングの講習をするときも、まず部下に伝えてくださいと話します。生成AIに対して考えるよりも、部下にできていないのが見え見えですよ、と」
さらに酒井氏は、マネージャーという言葉から想起されがちな「課長」よりも、もう一段上の「経営者レイヤー」の気持ちで生成AIをマネジメントし、方向性を伝える力が必要だと強調する。
また、生成AIを使いこなすのは20代が早いが、メタスキルを持たない若手も多い。一方で、パソコンを使えないミドルキャリアでも、声で指示するだけでAIが動いてくれる時代になれば、そのキャリアと判断力が活きてくる。「平均するとミドルキャリア世代にも可能性は秘められている」と酒井氏は語る。
酒井氏が繰り返し強調するのが、生成AIは「使うAI」だという点だ。
「生成AIはこれまでのような作るAIではなく、使うAI。AI専門部署やDX専門部署が必要なわけではなく、各部署が今日からChatGPTにユーザー登録すれば使える。キラキラスタートアップや上場企業4000社だけのものではなく、中小企業の方も即座に使える」
使えるからこそ、いかに活用して付加価値を高めるかが問われる。「作るAIから使うAIに変わっている、その本質を1人でも多くの方に捉えてほしい」と訴えた。
最後に、経営者がまず取り組むべきことを聞かれた酒井氏の答えはシンプルだった。
「まず生成AIを使うこと。明日やって何かできる特効薬はないので、地道に自分の世界を広げる行動をしていくしかない。ソフトスキルを上げるために、自分の価値とは何かを考えて一歩を踏み出す」
これからのキャリアは、従来のように綺麗にキャリアラダーを上がっていくのが難しくなる。「キャリア大公開時代」のような状況になるなかで、自分の事業が生成AIと関係ないからと使わないのではなく、まず触れておくことで点と点が後から繋がりやすくなる――酒井氏はそう締めくくった。
生成AIは経営の風景を確実に塗り替えつつある。組織のクリスマスツリー化、エントリー人材教育の難化、採用基準の変化、エージェントAIの台頭。経営者がこの変化にどう向き合うかが、これからの企業の競争力を決めることになる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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