生成AIの導入が進む企業はトップの意思決定で動いている──。AI活用の専門家チェルシー氏が、経営者がChatGPTを「AI社員」として使い倒す思考法、採用業務での具体的な活用手順、自分の分身となるGPTsの作り方までを語る。
生成AIの活用が進む企業には共通点がある。それは「トップの意思決定で全社的に推進している」ことだ。社員10〜20名規模のスタートアップから大企業まで、経営者がどのようにChatGPTやAIを業務に取り込めばいいのか。AI活用の専門家・チェルシー氏に、M&A CAMPのしゅう氏が話を聞いた。聞き手にはAI企業に勤めるくるみ氏も加わり、現場目線の疑問もぶつけている。
「去年だけでも数百社と話してきたが、生成AIが進む会社は共通してトップの意思決定で全部進んでいる」とチェルシー氏は語る。「生成AIはこれからのゲームチェンジャーだから、どんどん使え」とKPIを設定して旗を振る経営者の会社では、現場での活用率が60〜80%に達しているケースもあるという。
一方、しゅう氏の会社(社員約20名)では、社内でChatGPT活用コンテストを開催したものの、思ったほど盛り上がらなかったという。新しいツールを業務に取り込むハードルは想像以上に高く、「そこを飛び越えるトップの意思決定が大事だと感じた」と振り返る。
チェルシー氏は、トップ1人だけで進めるのは難しいとしたうえで、「使える人を数人でもいいので役割を与えていくことがすごく大事」と補足する。業務を理解し、意思決定ができる人にどんどん使わせ、そこから教育を広げていくのが王道だ。
チェルシー氏のユニークな視点は、AIを「AI社員」として捉えることだ。ChatGPTの月額料金を社員コストと考えれば、「この活用をなんとかせねば」というスイッチが入るという。
「何も分かっていない新卒に指示するのと、ChatGPTに指示するのは内容としては一緒。しかもChatGPTの方が一瞬で返ってくるし、離職しないし、24時間動く」。これほどありがたいサービスはない、と語る。経営者こそ最初に使いこなせると、業務が一気に楽になる存在だ。
ただし万能ではない。「100%正しいものが出るとは限らないので、鵜呑みにしないことが大前提」と釘を刺す。8割くらいはいい答えを返すが、ありきたりだったり文脈に合わなかったりする部分は必ず残る。そこにベースのナレッジを追加し、改善していくセンスが経営者には求められる。「人材育成とAI育成は似ている」というのが氏の見立てだ。
経理など正確性が求められるバックオフィス領域については、チェルシー氏は慎重な見方を示す。「数字を扱う領域は、生成AIが正しいとは限らない以上、最終的な確認はどうしても残る」。ゼロから構築するよりは、既存のSaaSを使いこなす方向で十分だという。
一方、メディア業界のように人件費比率が高い事業では、AIによるコスト構造の変革余地が大きい。「全体像のコンセプトや世界観は意思決定する人が決めて、作る側はAIを使う、という形にすると少人数で回せる」。ただし、AI活用が広がるほどコンテンツ生成のハードルは下がり、戦国時代のような競争になる。
そこで価値を持つのが、ネットに落ちていない一次情報だ。「生成AIが出している情報は、ネットにある情報をうまく出しているだけ。世の中のビジネスの本質はネットには載っていない。それを引き出せるインタビューメディアはめちゃくちゃ強い」とチェルシー氏は強調する。
チェルシー氏自身もインタビューメディアを運営しているが、その制作プロセスは大きく変わっているという。「1時間のインタビュー時間でも、もうインタビューしていない。質問項目を入れておき、相手の発言をリアルタイムでChatGPTに要約させ、答えに反映させる。1時間で2本分作ってしまう」。
テキスト化されたデータをChatGPTに流せば、章立ても見出し作成も自動化できる。10分の会話を1時間相当のコンテンツに膨らませることも可能だという。違和感のある箇所はその場で編集まで済ませてしまう運用だ。
話題は経営者ならではの活用法に及ぶ。チェルシー氏が勧めるのは、自社データを学習させた「自分の分身ボット」を作ることだ。
「OpenAIのGPTs(ジーピーティーズ)を使えば、自分専用のアプリが作れる。例えば自分のインタビュー記事をデータとして学習させれば、『今後の採用計画について教えてください』と聞かれたときに、自分の口調で回答する経営者エージェントが作れる」。
用途は幅広い。採用面接で毎回30分の事業説明をするのが面倒なら、その役割をAIに任せられる。経営者の発言をAIで自動テキスト化し、学習させていけば、伝達役としてのナンバー2やナンバー3的な存在を量産できる。料金もChatGPTの有料版があれば追加費用なしで構築可能だ。
さらに、社内の独自データを組み合わせる「RAG(検索拡張生成)」を活用すれば、自社製品の問い合わせ対応をAIに任せることもできる。「ChatGPTは一般的なデータしか持っていないので、個別のことは答えてくれない。自分や会社のデータをどう貯めて組み合わせるかが、今年すごく重要になる」。経営者にとっての発信は、独自データのストックという意味でも価値が高まっている。
インタビューの後半では、しゅう氏の現在の課題である「キャリアアドバイザー採用」を題材に、ChatGPTの実演が行われた。
まずプロンプトに前提を入れる。「あなたは若手向けのキャリア領域のメディアを運営している経営者です」と役割を与えたうえで、「採用戦略を立てるのを手伝ってください」と依頼する。すると、採用ターゲットのペルソナ設定、採用チャネルの設計、求人票の作成、選考プロセスの設計といった一連の流れが提示される。
次に、ペルソナの具体化を依頼する。「思いやりがあって馬力のあるペルソナを考えています。足りない要素があれば教えてください」と投げかければ、年齢層・学歴・職歴、コミュニケーション能力、共感力、問題解決能力、自己駆動力、レジリエンスといった項目を補完してくれる。
そのうえで、「20代から30代で馬力のある人を採用するためのキャリアアドバイザーの求人票を作ってください」と指示すると、会社概要・職種・仕事内容まで整ったフォーマットで出力される。「そのままメディアに載せようかな、と思えるレベル。自分で考えるより100%いい。8割ぐらいはこれでできてしまう」としゅう氏も驚く完成度だ。
さらに普段使っている会社紹介資料を貼り付け、「これでブラッシュアップしてください」と追加すれば、自社らしさを反映した採用メッセージに仕上がる。出力形式の指定にも対応する。
実演から見えてくるのは、最初から完璧な指示を出すのではなく、対話を重ねて精度を上げていく使い方の重要性だ。「最初から具体的に指示できる人は一瞬で答えが返ってくるが、それができる人は少ない。まずアウトプットを出してもらい、もっとこういう風に、と対話していくのが心折れないコツ」だという。
また、ChatGPT単体だけでなく、資料作成サービスのGamma、日本のイシル、海外で人気のBeautiful.aiなど、出力結果をコピペすれば1分で資料化できるツールも増えている。「1時間あれば資料作成も求人作成もできてしまう。これをいかに早く回せるかが鍵」だ。
チェルシー氏が社内で勧めているのは、業務マニュアルではなく「生成AIのプロンプトマニュアル」を作ること。条件ややるべきことを限定したテンプレートを蓄積し、社内で共有していく運用が活用度を引き上げる。
生成AIを使いこなしている企業は、意思決定もスピードも、そして成長も早い──。経営者の時間の使い方そのものを書き換えるツールとして、ChatGPTを「AI社員」「自分の分身」として位置づける視点が、これからの経営に問われている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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