なぜ多くの中小企業は売上2億円の壁を越えられないのか。船井総合研究所で11年連続トップコンサルタントを務めた経営コンサルタントが、社長が現場から離れ「経営者」になるための仕組みづくりと組織設計の要諦を語る。
中小企業の多くは、売上2億円前後で成長が止まる。その最大の要因は、社長自身が現場に立ち続けていることにある。元船井総合研究所の経営コンサルタントは、こう指摘する。
「365日24時間どれだけ仕事をしても、社長一人で回せる売上は2億円程度が精一杯です。営業も製造も社長自らがやっている。それでも生活はサラリーマンより良いので、本人は満足してしまう。しかし経営者として面白い人生かと問われれば別問題です」
社長が現場に張り付いている会社は、誰も「経営」をしていない状態に等しい。銀行対応や会計事務所とのやり取り程度はやっていても、本来の経営判断や組織づくりに時間を割けていない。経営者が経営をしていない会社が伸びるはずがない、というのが氏の見立てだ。
1億〜2億円規模なら並の経営者でもなんとかなる。しかし10億円の壁を越えるには、明確な変化が必要になる。
よくあるパターンは、叩き上げの創業者がモノづくりや営業の現場仕事を手放せないケースだ。解決策として「経営できる人材を雇う」という選択肢もあるが、株の問題や処遇の問題で揉めることが多く、現実的ではない。
「やはり社長自身が経営者にシフトしていくのが一番いい。社長が変わらなければ会社は変わらない、というのが大前提です」
社長が現場から離れるためには、属人的な仕事を仕組みに落とし込む必要がある。氏が重視するのは「事業設計図」と呼ばれるドキュメントだ。
事業計画書が銀行や投資家に向けた数字と方針の文書だとすれば、事業設計図は社員が日々の業務を遂行するためのルールブックである。
- 各部署がどういう役割を持つか
- どのKPIを実現するか
- リード獲得から営業対応までのフロー
- 問い合わせがあった際に誰がどう動くか
こうした業務の中身まで具体的に落とし込まれている。「ルールが決まっていない会社は、ウェブサイトから問い合わせが入っても誰が対応するか曖昧なまま放置されてしまう」と氏は語る。
採用と教育においては、社員に過度な期待をしない「3割主義」がベースとなる。Googleのようにビジネス界のオリンピック選手だけを集められる会社は例外で、年収500万円・新卒300万円で募集する中小企業は、平均的な人材で成果が出る仕組みを設計する必要がある。
氏が船井総研時代に最も多く手がけたのは、未経験者や新卒を3か月で「黒字社員」に育てる仕組みだ。
「3か月で黒字社員になる教育環境を整えていれば、やる気と最低限のスキルがある人材なら8〜9割はクリアします。営業ならリードを与え、新人向けに難易度の低い案件で2割の受注率を達成すれば黒字になる、というように設計されています」
属人化していたベテランの仕事を分解し、20年のキャリアを積まないとできない仕事は対象外にする。残った業務を「職人工場」から脱却させ、誰でも回せる形に仕上げていく。
船井流の代名詞である「一番主義」「地域ナンバーワン」も、10億円企業を目指すうえで欠かせない発想だ。
たとえば建築業でリフォームも注文住宅もローコスト住宅も全部やる会社は、結局どっちつかずになる。坪単価70〜80万円の高級注文住宅と坪単価30万円のローコスト住宅では、営業手法も人材育成も全く異なる。
「ターゲットを絞り込み、価格帯を決め、商品も使う材料もパッケージ化する。そこまで仕組み化することで、どの店舗でも業績の差が出にくくなります」
また、大手が手を出さない「人的サービスが必要な領域」を丁寧にやりきることも、中小企業の有効な一点突破戦略だという。大手は人件費が高すぎて細かい対応ができない。そこに中小企業の勝機がある。
氏の経験則では、会社の壁は「3000万→1億→3億→10億→30億→100億」と1と3の繰り返しでやってくる。10億円から30億円への壁は、組織の洗練度がカギを握る。
「事業責任者や部門長が、課マネジメントをきちんとできるレベルにならないと30億円までは行けません。識学の安藤さんが言っていることに近いですが、社長は社長の仕事を、管理職は管理職の仕事をきちんとする。それが精度高くできるようになると30億円が見えてきます」
顧客満足を生み出すのは結局のところ社員である。社長が裕福な暮らしをする一方で社員が貧しい会社は離職率が高く、いいサービスは提供できない。
「社員にとって価値のある会社、地域で愛される会社、なくなったら困ると言われる会社を作る。これは経営方針として非常に重視してきました」
価格戦略についても、氏が関わってきた成功企業はむしろ高単価帯で勝負している。安売りで売上を伸ばすと粗利が下がり、給料原資も削られて悪循環に陥る。堂々と高い価格で強烈な顧客満足を提供するブランド企業こそ、目指すべきモデルだという。
指示の出し方についても、氏は重要な視点を示す。
「社員一人ひとりが主役です。社長がやりたいことを社員にやらせるのではなく、社員の人生をこの会社でいかに最高にしてもらうか。最初はトップダウンでも、育った社員にはフォローアップ型のマネジメントに切り替えるべきです」
社員が主役となり活性化した組織は、結果として社長へのリターンも最大化する。企業価値も上がり、人材が定着する好循環が生まれる。
時代が変わってもビジネスの本質は変わらない、というのが氏の結論だ。ただし、AIの登場によって「3か月で未経験者を黒字社員にする」といった氏のメソッドはむしろ実現しやすくなったという。
「すごい武器を与えられた状態です。今や内定の段階でAI研修を受けさせるくらいでないと、入社時のスタート台に乗れない時代になっています」
最後に、創業5〜10年以内の若手経営者へのアドバイスを氏はこう語った。
「一番大事なのはどこを目指しているかというビジョンです。とにかくでっかいことを言え。年を取るほど現実的な数字に縛られていく。20代の今こそ、実現可能性は度外視して、こういう状態が実現すれば最高だ、というビジョンを描いてください」
売上や利益、個人資産ではなく、自分たちが成長することで世の中がどう変わるのかという「世界観」を先に描くこと。そして影響力をつけるためには、3人や5人の会社では足りず、1000人規模を目指すぐらいの志を持つこと。
2億で止まるか、10億を超えるか。その分岐点は、社長自身が経営者として変われるかどうかに集約される。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
