DMM創業者・亀山敬司氏が、スタートアップ経営者に向けて社員の給料決定の本質を語る。赤字黒字より大事な基準、失いたくない人材への向き合い方、評価制度がない時期の独断と偏見の使いこなし方まで、実体験に基づくリアルな知見を共有する。
IPOやM&Aを直近で考えていないベンチャー企業にとって、社員への還元は基本的に現金給与で行うことになる。しかし新規事業が赤字の状態で、若いメンバー中心の組織では給与の決め方に悩むことが多い。
「給与は上げたい気持ちはあるんですけど、上げきれなかったり、どういう風に決めるべきかというところに困っています」——そんな悩みに、DMM創業者の亀山敬司会長が答えた。
同世代のメンバー同士で給与水準が見えやすく、評価制度も整っていない初期フェーズ。経営者の独断と偏見に頼らざるを得ない中で、どう判断軸を持つべきか。本記事では亀山氏のインタビュー内容を再構成してお届けする。
亀山氏の答えはシンプルだ。
「やめて欲しくない人間はもう高くするしかない。逆に、この人いなくてもなんとかなるかなと思ったら、そんなに上げなくていい」
初期フェーズでは経営者自身がほとんど社員を見ているはずだ。だからこそ、見ている中で「こいつにやめられたらまずい」と感じる人材に対しては、迷わず給与で報いる。世間相場や事務職の平均ではなく、自分の会社にとってどうかという基準が最も重要だという。
亀山氏には、忘れられない反省体験がある。ビデオレンタル事業を展開していた頃、信頼していた寡黙な店長が、ある日突然「数ヶ月後に辞めさせてもらいます」と申し出てきたのだ。
文句や要求を口にしないタイプだったため、給与もちょこっとしか上げていなかった。慌てて「給料を1.5倍にするから残ってもらえませんか」と引き止めたが、「もう決めたことなので」と去られてしまった。
この経験から得た教訓はこうだ。
「だったら言われる前に上げておけばよかった。後から『辞めないでください』と言うのはかっこ悪い」
経営者は、声の大きい人に反応しがちだ。何も言わない人はそのまま据え置き、文句を言ってきた人には慌てて対応する。しかし本当に失いたくない人材ほど、何も言わずに静かに去っていく。
亀山氏が通うパーソナルジムでも同じ話が出た。「お客さんは増えているが人が集まらない」と相談を受け、亀山氏はこう答えた。
「まずやるべきことは、今の社員たちの給料を上げることだよ」
5人しかいないチームで1人抜けたら大変なことになる。トレーナーの相場が上がっているのなら、今いるメンバーの待遇を上げてキープすることが最優先だ。新しい人を増やしたいなら、辞めてもらわないことが前提になる。
しかも今いるメンバーが満足していれば、口コミで「ここはいいよ」と新しい人を呼んでくれる可能性もある。逆に不満を抱えていれば、黙って去っていくだけだ。
「社員からすると、会社が赤字かどうかってどうでもいいんだよね」
亀山氏は明快に言い切る。利益が出たからといって時給1500円が3000円になるわけではない。逆に赤字であっても、将来伸ばそうと思っている事業なら、先行して払うしかない。
DMMがビデオレンタル時代にインターネット事業を立ち上げた際も、新事業は赤字だった。しかし将来性を見込んで、ビデオレンタルで稼いだ分を先行投資として回した。新事業に移ったメンバーに対して「利益が出ていないから給料を上げない」とは言えない。
相場観で言えば、同じ能力なら世間より1割2割いい給料を払うイメージ。それが守れていれば、人はそう簡単には抜けない。
スタートアップでは、売上や利益より先に人件費が出ていく。亀山氏はこれを「社長の仕事」と表現する。
「リスクを取るのは社長の仕事だから、それを社員に求めてはいけない。逆にリターンに関しても、全部社員に返す必要はない。それが会社」
もちろん幹部メンバーには「儲かった時はこれだけ出すよ」という約束をすればいい。しかし一般社員にとって重要なのは、その時の相場より自分の給与がいいかどうか、ただそれだけだ。
亀山氏自身も、ビデオレンタル時代に株を渡そうとしたが「いらない、現金をください」と言われた経験がある。結果論として株を持っていれば良かったとしても、当時の社員からすれば「日頃どれだけ給料がいいか」が全てなのだ。
給料を決める作業は、経営者にとって大きなプレッシャーだ。亀山氏も「胃酸が出るくらい悩む」という。
最も楽な方法は「全員一律5%アップ」。誰も文句を言わない社会主義的な解だ。しかしこれを続けると、本当に頑張っている人と頑張っていない人の差がつかなくなる。
「ずっと5%は絶対にありえない。頑張っている人が抜けていくから。優秀な人ほど先に辞めていく」
極端に言えば10%上げる人もいれば0%の人もいる。任せるリーダーにも「定期昇給ではなく、頑張った人を上げる」というルールを徹底してもらう必要がある。
小規模なチームではワンフロアで全員の働きが見えるため、不満が生まれやすい。しかし亀山氏は「不満は仕方ない」と割り切る。
「適正に評価していて、不満だと言って辞めるなら、辞めたで仕方ない。高い給料を出していて辞めるのも、これだけ出しても辞めたなら仕方ない」
基本的に引き止めはしない。辞めるという話が出た時点で、すでに見捨てられた話だからだ。後悔のないように正規の評価を決めることの方が大切だという。
ただし離職率0%もまた異常な状態だ。新陳代謝が全くないということは、評価が見えていないか、上げすぎの可能性もある。健全な組織には、ある程度の入れ替わりが伴うものだ。
最後に亀山氏は、これからの相場観の変化にも触れた。
飲食店のように人手が集まりにくい業種では時給がどんどん上がっている。一方で、AIが入ってくることで作業的な仕事をしていたホワイトカラーの給与は下がっていく可能性が高い。先にAIを取り入れて開発に関わる人材は重宝され、給与も上がっていく。
会社にとって「いて欲しい人」と「いなくてもなんとかなる人」の差は、これからますます広がっていくのだ。
亀山氏のメッセージは一貫している。
「あまり無口で何も言わない人もちゃんと見てあげないと、一番失いたくない人間を失うよ」
給与の決め方に正解はない。しかし「言われる前に上げる」「失いたくない人を基準にする」「赤字黒字に関係なく相場の1〜2割上で守る」というシンプルな原則は、規模を問わず経営者が押さえておくべき指針だろう。
評価制度を作ることよりも、経営者自身が一人ひとりをちゃんと見ること。そして気遣いをもって、声なきメンバーの貢献に報いること。それが組織を守る最低限の作法なのだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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