DMM.com会長・亀山敬司氏が若手経営者20人の事業相談に本気で答える公開収録。AI時代のエンジニアの未来、ピボット時の取引先対応、マネジメントの極意、起業の第一歩まで、信用を軸にした経営哲学を語った。
DMM.com会長・亀山敬司氏を迎えた公開事業相談の収録。集まったのは20代を中心とした若手経営者たち。AIによる事業環境の激変、ピボット時の取引先対応、マネジメントの難しさ、起業のきっかけまで、現場のリアルな悩みが次々と投げかけられた。亀山氏が一貫して語ったのは「信用を守ること」「不義理をしないこと」という、極めてシンプルな経営の原則だった。
最初の相談者は、受託開発で生計を立てている22歳の若手経営者。AIエージェントの進化を目の当たりにし、「2〜3年後にはエンジニアの仕事の多くが消える」と読んでいる。新規事業(マッチングアプリ)に投資するか、それともAI時代が完成する前に2年で20億円を稼ぎ切るか――。
亀山氏は明確な答えは示さなかった。
「直撃を受けるのはホワイトカラーやエンジニアだけど、職人の仕事がなくなるわけじゃない。社会全体に影響が及ぶのは徐々にだろう」
DMM社内についても「AIに使う時間と金はかけていい」と各自に任せているという。
「みんなにチャンスは与えるけど、誰が上がってくるかは見物。若手から来るのか、ある程度上の層から来るのかは俺もわからない」
大学生で起業し、新卒領域から営業代行へピボットを進めている相談者からは、「お世話になった企業に十分な対価を返せていない」という葛藤が共有された。
亀山氏はDMMのWeb3事業撤退の事例を具体的に語った。すでに数十億円を投じ、独自トークンの上場準備を進めていたが、相場環境の悪化により「ユーザーに損害を与える可能性がある」と判断し、トークン発行を中止。プライベートラウンドで集めた資金は契約通り返金し、開発中だったゲームについても可能な範囲で支払いを行ったという。
「信用を守るためには、なるべくできることはやっておいた方がいい。迷惑をかけたなら、契約上の約束は守る。損害をかけた分はなるべく補填する。長い目で見て、その方が未来は開ける」
ただし現実には、ピボットした直後に資金がないケースもある。その場合は、
「『すいません、出世払いで待ってください』と言って、出世するしかないよね」
亀山氏自身、若い頃の露店時代には「ぼったくりまがい」のことをしていたと振り返る。流れ者で場所も移動する稼業では信用が積み上がらない。
「これじゃ何も生まれないし、何も広がらない」と気づき、店を構えて飲食業を始めた。
「信用さえあれば商品を掛けで仕入れられる。3か月後払いで仕入れて1か月で売れば、2か月分の資金が中で回せる。信用があれば何でもできる」
Amazonやメルカリに預けっぱなしの預金、銀行預金――すべて信用の上に成り立っている。「信用があれば友達もできるし、恋もできる」と笑った。
アニメーション制作のフリーランスから法人化した相談者は、案件増加に伴いディレクター人材の育成が課題だと語った。任せても細かい確認業務が自分に降ってきて、結局自分でやった方が早くなる――。
亀山氏の答えは身もふたもないものだった。
「我慢しかないですね、ここは。時間がかかる。何度もやらせて、繰り返すうちに少しずつマシになる。子育てと一緒。何回言ってもわからないけど、長い目で見るしかない」
ただし、転職が当たり前になった今、その「長い目」も以前ほど長く取れない現実もある。
「3年やってみて、覚えてきた分だけ給料を上げていく。新しい人を入れるより、こいつに任せておけば8割の仕事ができると思ったら、8割多めの給料を払う。その構造で利益が残るかどうかが勝負」
M&Aと新規事業で拡大を考える経営者には、抜擢の方法について興味深い助言があった。
買収先の社員10人に個別面談し、「誰がリーダーならついていけるか」を聞いてみるという方法だ。
「創業者のサブにいたナンバー2は、実はナンバー2しかなれない人も多い。創業者がいたから持っていた会社で、ナンバー2は単なる腰巾着のケースもある。だから投票で選ぶような形のほうが、ストレートに適任者を選べる可能性がある」
大手企業勤務を経て起業を考える相談者の「最初のアイデアはどうやって出すか」という問いに対し、亀山氏は19歳の露店スタートのエピソードを披露した。
六本木の始発駅で出会った30歳ぐらいの女性(後に師匠となる「キンコさん」)に「あんたのバイト代より私のほうが稼いでるよ」と言われ、その場で転身を決めた。
「儲かるかどうか、それしか基準がなかった。レコード屋もやったけど、別にレコードが好きだったわけじゃない。アクセサリーに興味もなかった。商売は儲かりそうかどうかで選んでた」
最初はナンパまがいの声かけが恥ずかしかったが、「これは仕事だ」と思った瞬間に恥ずかしさが消えた。
「自分が肯定できれば声はかけられる。仕事だと思えば何でもできる」
起業のアイデアは「決まらないほうがいい」とも。
「どうせみんなピボットするんだから。『俺はこれをやるためにやる』と言ってる奴に限って大した結果が出ない」
半年前に創業し、リファラル中心で事業を回している経営者には、「戦略を立てる前にやるべきこと」を説いた。
「目先の仕事を1個1個ちゃんとこなして、ちゃんと次の人に紹介してもらえるだけのことをやってれば、勝手に広がる。仕事は奇抜なものじゃなく、地道にコツコツ信用を足していくもの」
世の中には「一発当てよう」と勝負して失敗し、逃げる人間が多い。約束を守り、納品を続けていれば、勝手に周りが脱落していき、いつのまにか1番になっている――それが亀山流の長期戦略だ。
暴走族時代の経験談からは、コミュニティの引力についての洞察も語られた。地元のヤンキー仲間といれば、その思考から抜け出せない。だからあえて居心地の悪い、真面目なコミュニティに飛び込むことが大切だと言う。
「闇を覗いていると、相手からも覗かれている。自分の核がしっかりしていれば、悪いコミュニティから学ぶこともある。でもフラフラしている時に行くと、絡め取られてしまう」
2時間半に及んだ公開事業相談を通じて、亀山氏が繰り返したテーマは一貫していた。
- 取引先・投資家・ユーザーへの不義理をしない
- 約束を守り、損害をかけたら補填する
- 派手な戦略より、目の前の仕事を確実にこなす
- 信用は時間をかけて積み上げるしかない
- それでも難しいなら「出世払い」で取り返す
「信用を守るのが一番大事」――露店からDMM.comを築き上げた経営者の言葉は、シンプルだが重い。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
