DMM.com会長・亀山敬司氏が、創業から現在に至るまでの事業計画の立て方、初期メンバーの採用基準、そして「会社をかっこよく見せる」ことの戦略的意味について語った。スタートアップ経営者が直面する組織づくりのリアルが浮かび上がる。
DMM.comは、動画配信からFX、3Dプリント、ゲーム、英会話まで幅広い領域に事業を展開する複合企業だ。会長の亀山敬司氏は、創業以来一度も売上を落とさずに会社を伸ばし続けてきた経営者として知られる。今回、その亀山氏に「事業計画の立て方」「創業期の採用基準」「会社の見せ方」というテーマで話を聞いた。語られたのは、計画書を厳密に書き込むより、現場と数字の両方をどう見るかという経営者の姿勢だった。
亀山氏は、自身が綿密な事業計画を書き込んでこなかったことを率直に認める。創業以来、売上自体は減ったことがなく、利益は投資のタイミングで増減はあるものの、増収は常に続いてきたという。
「常に新しいことをやっているから、基本的には伸びていくようになる」
経営者として置いている目線は明確だ。緩やかでもいいから一定の成長を続けること。その理由は数字そのものよりも、組織の新陳代謝にある。
「一定数、2〜3%でもいいから成長していかないと、新しい血が入ってきにくい。人がどんどん増えていくのと、どんどん減っていくのとでは全く違う」
一方で、「今年は30%成長しなければならない」といった号令を社内にかけることはほとんどないという。自分自身は計画的に組まないが、人には計画を組ませる──それが亀山流だ。それぞれの担当者にスキルの差があり、予定通り進められる人もいればそうでない人もいる。だからこそ、結果は実力に応じて評価する。完全に達成する人もいれば、半分しかできない人もいる。それを織り込んだうえで、現場に裁量を与えている。
組織が小さいうちは、亀山氏自身が30人、50人といった社員全員の動きを把握できた。「自分の中でこれぐらい行くなという数字の目安に合わせてやっていた」という。当時は計画書を書かなくとも、頭の中で常に修正をかけながら走らせていた。
しかし、事業を人に任せるフェーズに入ると様相が変わる。亀山氏のもとに上がってくるのは数字だけ。業績は把握できるが、その下の組織がどうなっているかは見えない。
「数字だけ見て、結果が出ているなといいなと思っていても、蓋を開けてみたら、下の人間がもうむちゃくちゃパワハラされて疲弊していたりする。今はいいかもしれないし結果も出しているけれど、それだと下の社員たちがそれ以上育たないし、組織として不健全だよね」
この気づきから、業績以外を見る仕組みの必要性を痛感したと語る。社長より上に声を届けられる場所がなければ、現場のパワハラ・セクハラ、不正などは可視化されない。第三者機関を通じてヒアリングし、調査につなげる仕組み──いわば内部監査的な機能だ。DMMでは人事やコーポレート部門にある程度の権限を持たせ、業績以外の角度から組織を見るようにした。
採用についても、亀山氏のスタンスは現実的だ。創業から50人規模までの時期、社員になったのは「やることがないから来ました」というアルバイトたちのなかで見込みのある人材だった。
採用の基準は何だったのか。
「まずは仕事ができるか。もちろん長く働くのも能力の一つ。あとは誠実か。昔は本当に、盗むか盗まないかという誠実さのラインだった」
物販ではなくデジタルが中心の事業だったため、現金や商品の管理に起因する不正リスクは比較的低かった。それでも、信頼に足る人物かどうかは重要な見極めポイントだった。
社員の構成も時間とともに変化していく。50人規模の頃は経営マインドを持つ人材は少なく、目の前の仕事に取り組むタイプが多数派。100人を超えるあたりから、自分で考えて動ける人材が現れ始めた。亀山氏自身が「これをやってくれ、あれをやってくれ」と方向性を示し、それぞれに職務を全うさせる体制を仕切っていたのが50人までのフェーズだ。
「ちっちゃいながらもスタートアップをやるってのは、すごくいい経験。大きい会社に入って、それを一度も味わわずに現場をやっていると、営業部長になっても周りの部分が全く見えない」
創業期、亀山氏の会社についていきますという志望者はほとんどいなかった。「俺のことを知らないんだから」と笑う。1年くらい働こうかな、というモチベーションで入ってきた人材を、現場で育てていった。
結果を出した人を上に引き上げ、その下に新しい人材をつけていく。アルバイトとして入った人が責任を任され、面白くなってきたと言って残るケースもある。そうやって少しずつ組織の質が上がっていった。
「今のDMMだったら、東大や京大を出たような人も来るようになった。けれど、それは会社の成長とともに社員も成長してきたから。元々のヤンキーたちも成長してきた。最初から優秀な人なんて来るわけがない。自分が優秀じゃないんだから」
スタートアップ経営者の中には「採用基準は下げない方がいい」と考える人もいる。それに対して亀山氏は冷静だ。100人面接できて10人選べる立場ならそれでいい。しかし、1人しか来ないなら、その1人を採るしかない。
ここで亀山氏が強調するのが、会社をどう見せるかという視点だ。
「結局、会社っていうのは、かっこよく見せるってのは結構大事。それによって優秀な人間が集まっていく」
IT系のキラキラしたベンチャーには人が集まりやすい。給料だけが理由ではなく、「イケてる感」が採用力を生む。亀山氏は自社のオフィスについても言及する。家賃はもったいないと感じながらも、内装で人を惹きつける効果は実際にある、と。
「俺だって、同じような条件の中で、片方はボロボロ、片方はキラキラだったら、やっぱりキラキラを選ぶ。多くの人が選ぶ。採用のパイが膨らむ」
かっこいい人材が集まれば、それが新しいことを生む原動力になる。だからこそ、結果がまだ出ていなくても、グローバル展開の発信を続けたり、スポーツへの協賛を積極的に行ったりすることに意味がある。「イケてる会社」のイメージを出すことが、実態を引き寄せる場合もある。
ただし、亀山氏は注意点も忘れない。
「きっかけはそれでいいけれど、やっぱり実態は絶対にないと続かない」
採用において見せ方を意識するのは、現状の自分たちの実力で人を引き寄せようとしている経営者自身の責任だ。集まらないと嘆くのではなく、自分を成長させていくしかない──それが亀山氏の結論だった。
亀山氏の話から見えてくるのは、計画と現場、数字と組織、見せ方と実態という二項のあいだでバランスを取り続ける経営者の姿だ。緻密な事業計画を書かずとも会社は伸ばせる。ただし、組織が大きくなれば数字の裏側を見る仕組みが要る。優秀な人材は最初から来ない。だからこそ、会社の見せ方を磨き、自分自身が成長することで、少しずつ採用の質を上げていく。スタートアップ経営者にとって示唆の多い内容だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
