「節税はすべき、脱税はダメ」「銀行のために節税しないのは違う」——DMM.com会長・亀山敬司氏が、手残りを最大化する経営判断、広告費や人件費を投資として捉える視点、そしてM&A時ののれんの正体について本音で語った。
M&A CAMPでは今回、DMM.com会長の亀山敬司氏に「税金との向き合い方」と「経営者が見るべき数字」をテーマに話を伺った。決算期を迎える中小企業経営者にとって、節税対策と資金調達はトレードオフのように語られがちだが、亀山氏の答えは明快だった。さらに話題はスタートアップM&Aにおける「のれん」の本質、新卒採用の是非、会計リテラシーの重要性にまで及んだ。
聞き手のしゅう氏(M&A CAMP)は、銀行借入や資金調達を見据えるなら、利益を残すべきで節税はあまり考えない方がよいのではないか、という考え方を切り出した。これに対し亀山氏は、「銀行のために節税しない、というのはない」と即答する。
「節税はした方がいい。脱税はしない方がいい。脱税は税務署が優秀だから、ある程度の規模になると過去7年か10年遡ってやられる。結局持っていかれるし、ちゃんとした方がいい」
銀行が見ているのは最終利益(税引後利益)である以上、合法的に手残りを大きくすることはむしろ歓迎されるという論理だ。たとえば税引前1億円の利益から税金を払って6,500万円が残るより、節税で7,000万円残った方がいいに決まっている、というシンプルな話である。
亀山氏は、節税は「ちゃんと認められている方式」であれば積極的に活用すべきだと語る。
「会社の利益の中でも、こうやった方が節税になるとか、この会社の赤字をこっちに合わせた方がいいとか、いろんなテクニック的なことがある。税理士に相談して、これは経費にできますよとかを勉強した方がいい」
しゅう氏が「今期は普通に決算したら少し赤字だったので、新しい事業(M&Aエージェント)を子会社化して利益を出し、税金を払うことにした」と明かすと、亀山氏は「許される範囲なら一括経費で落とした方が、結果として手残りが大きくなる」と指摘。赤字決算を避けるための“あえて納税”はケースによって判断すべきだが、原則は手残りベースで考えるべきだという。
亀山氏自身は、節税スキームよりも「事業投資として経費を使う」発想で会社を運営してきた。代表例が広告費だ。
「広告費はその年に経費になる。でも打ったら何年か顧客が持つ。たとえば1人のユーザーが5年で15万円使ってくれると算定したら、13万円までは広告費に出していい。今年の売上が10万円しか立たなくても、長期で見れば回収できる」
つまり広告費は「将来のLTV(顧客生涯価値)を先に経費化する」行為であり、当期は赤字でも長期では黒字になる構造を作れる。広告費はほぼ全額が当期経費として認められるため、投資と節税が同時に実現する“最も使いやすい経費”だという。
かつてDMMがビデオレンタル事業をしていた頃、ビデオ商品はルール上ほぼ全額経費にできたため、在庫を増やしても税務上は利益が立たない構造だった、というエピソードも紹介された。
人件費に話が及ぶと、亀山氏から意外な持論が飛び出した。
「普通、スタートアップが新卒なんか取るべきじゃないと俺は思う」
しゅう氏が「うちは結構取っています」と返すと、亀山氏は理由をこう説明する。新卒は2〜3年は戦力にならず、5〜6年目から稼げるようになる長期投資である。そもそも来年会社があるかどうかも分からないスタートアップに新卒を採用する余裕はない、という指摘だ。
以前、亀山氏が買収した創業3年目の会社が新卒採用をしていたエピソードも紹介された。「即戦力じゃないんだから、何の救助にもならない」と当時驚いたという。資金的に余裕がない段階での新卒採用は、退職リスクも加味すると合理的ではないという見方である。
しゅう氏が「人的資本経営の観点から、人材を頭の中ではBSに資産計上する考え方をどう見ているか」と問うと、亀山氏は核心を突く回答をした。
「理屈はそういうこと。でも頭の中では入れるけど、税務署上は現れない。広告のブランド価値や人材は資産扱いされない。逆に言えば、不動産は税引後の利益でしか買えないけど、人材や広告は税引前で投資できる。つまり35%お得」
これは経営判断の本質的な視点だ。資産計上されないもの——人材、ブランド、無形資産——への投資は、すべて当期経費として税前で処理できる。同じ1億円を使うなら、不動産より教育・採用・広告に使う方が、税効率の観点では圧倒的に有利になる。
在庫についても亀山氏は「在庫は資産扱いになるから、買っても経費にならない」と注意を促し、税務署が「資産」と見なすかどうかが投資判断の分かれ目になることを強調した。
亀山氏は若い頃に大原簿記学校で学んだ経験があり、税務調査(マルサ)にも対応してきた。会計に対する姿勢は明快である。
「経営者だからさ、やっぱり数字は理解しないといけない。会計を知らないスタートアップは多い」
重視する数字は事業モデルによって変わる。太陽光なら不動産ビジネスに近く、パネル設置の利回りで判断する。製造業なら工業簿記の世界で仕掛品・部品在庫・製品をすべて把握する必要がある。一方ITは「Appleなら30%引いて、開発費と広告費を引いたら終わり」というほど財務諸表がシンプルで、簿記が強くなくても運営できる、という。
後半、話題はM&Aにおける「のれん」へ移った。最近のIT関連M&AではEV(企業価値)が高騰し、ほぼ全額がのれんになるケースも多い。しゅう氏が「のれんの計上は決めの問題ではないか」と問うと、亀山氏は同意する。
「のれんは結局、見込みでしかない。たとえば会員100万人いるけど無課金、というスタートアップを買う時、その会員の価値をいくらと判定するか。将来ECをつけて1人500円落とすなら500万円か、いや1,000円かもしれない、というのを読みでやるだけ」
買収時のスタートアップは「財務諸表を見たらクズみたいな会社」——在庫もない、資産もない、キャッシュもない、会員数とプロダクトだけ、という状態が珍しくない。そこに値段をつける作業は「アートより難しい」と亀山氏は言う。
では、買収後にのれんが減損するリスクをどう捉えているのか。亀山氏は「最悪ゼロになっても本体の利益と相殺できるスキームで買う」と語る。
「100億で買って翌年ゼロになることもある。でも失敗した時に、その赤字が本体と合算できるスキームにしておけば、5年くらい黒字に税金を払わなくて済む。だから失敗を前提に組んでいる」
つまり、M&A成功時のアップサイドだけでなく、失敗時の税務メリットまで設計に組み込んでいるということだ。
しゅう氏が「のれんの価値を正しく判定するのは相当難しい」とまとめると、亀山氏はうなずきつつ、新規ビジネスの本質をこう語った。
「新規ビジネスは大体、赤字で何年か走ってから黒字になる。LTV的な考え方で会員をカウントしないと評価できない。でもそこに夢をかけて広告打って開発する世界。まあ、ギャンブラーだね」
しゅう氏は「一旦、利益の範囲内で手堅く行こうと思いました」と笑い、「手堅く行くなら、利益を見ながらPER20倍以下で買うのが一番硬い」という亀山氏のアドバイスでインタビューは締めくくられた。
亀山氏の話に通底するのは、「税金は手残りベースで考える」「資産計上されないもの(人・ブランド・広告)に投資するのが税効率上もっとも有利」「のれんは見込みであり失敗を前提に設計する」という、経営者として徹底的に合理的な視点である。節税という言葉のイメージとは違い、その本質は“長期で利益を最大化する投資設計”そのものだった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
