M&Aで事業売却を経験した若手起業家・牧本氏が、2度目の起業にあたりDMM亀山会長に相談。VCからの出資受け入れの是非、税金との向き合い方、社員へのインセンティブ設計まで、商売を大きくするための実践的アドバイスが詰まった対談。
本記事は、M&Aで一度事業を売却した若手起業家・牧本氏が、2度目の起業にあたってDMM.com会長の亀山敬司氏に経営相談を行った対談の記録です。
牧本氏は1997年生まれ、中国出身。高校1年生の16歳で来日し、コロナ禍に起業。デリバリー関連事業(ゴーストレストランのフランチャイズ事業)を立ち上げ、3年前にM&Aで売却。今年9月にロックアップ期間が満了し、新会社で再スタートを切るタイミングでの相談となりました。
新事業はB2Bの卸売領域。電線などの資材を中国の工場から直接仕入れ、間に入る複数の中間業者を排除することで、約50%のコストカットを実現するモデルです。年間60億円規模を仕入れる顧客を抱え、20%のコストカット分を手数料として受け取る形でビジネスを展開しています。
相談の最初のテーマは、エクイティでの資金調達についてでした。牧本氏は前回の売却資金があるため資金は足りているものの、VCやファンドから「大手企業を紹介する」「アライアンスが組める」といった声がかかっており、5〜10%程度なら出資を受けてもよいか迷っているとのこと。
これに対し亀山氏の回答は明快でした。
「VCとかファンドが『色々紹介するよ』と言っても、当てになんないっちゃならない話で。具体的にどこなんですかっていう話だし、もっと言えば先に紹介してくださいといい」
つまり、漠然とした紹介の約束で株を渡すのは割に合わないということです。出資契約時にコミット契約を結べるわけでもなく、5%や10%でも「意外と大きい」。仮にどこかのVCが入っていても、その先の事業会社が「持分5%だから優遇しよう」となるとは限らない。最終的にはフラットに値段と品質で判断されるからです。
亀山氏が示した判断基準は次の通りです。
- VC・ファンドの紹介ベースでの出資は受ける必要なし
- 受けるなら関連業者(実際に取引する事業会社)の出資
- 「具体的にこの取引額をコミットする」という明確な見返りがある場合のみ
- 大口の安定取引を狙うなら49%レベルで受け、その代わりに本気で動いてもらう
ただし大株主に縛られると他の取引先には入れなくなり、「その会社っぽくなって」広がりが失われるというトレードオフも指摘されました。
続いて、利益が出た際の税金との向き合い方が議題に。牧本氏は「税金を払わずに次の事業投資に回したい」と考えていましたが、亀山氏の視点はより構造的でした。
建物を建てたり在庫を持ったりしても、それは資産計上されるだけで運転資金が減り、結局税金はかかる。ならば「向けのもの」、つまり経費になる広告費か人件費に投資すべきだという論です。
B2Bの卸売事業では、ブランド広告よりも営業マンによる口座開拓が効果的だと亀山氏は提案します。
- リタイア層など人脈のある人物に成果報酬で口座開拓を依頼する
- 営業人員を大量に増やして口座を増やす
- 短期的には人件費で赤字になっても、品質と価格に自信があれば翌年以降に黒字化
- 累損は約10年使えるため、黒字化後も税金を相殺できる
「同じ電線を仕入れても売り先が2か所しかなかったのが、まとめてやれるとロットで買えるじゃない。だらロットで変えたらさらに安くなる」——スケールが拡大すれば仕入れ価格交渉力も上がり、価格を下げるか利益を増やすかの選択肢が広がるという好循環の説明です。
牧本氏が「BSに資産を積み上げて安心感を得たい」と尋ねると、亀山氏は意外な答えを返しました。
「利益が出る仕組みさえできてたら、仮に1億利益が出ていても次のビジネスの広告費にバンと突っ込んだら全部消えるじゃん。だからBS上は一切残らない。でもそれでもいい」
ブランドや信用は決算書のBSには載らない。三菱や住友、NTTといった大手の強みは、BSに表れない「絶対的信用」というブランドにある。だからこそ、利益を次の仕組み作りに投じ続けることで、ある事業がダメになっても別の事業で生き残れる体制が築かれるという考え方です。
亀山氏自身、DMMでビデオレンタル事業の利益をDVDレンタル事業に注ぎ込み、8年間赤字でも投資を続けたエピソードを紹介。「最近投資しきれなくなって黒字や純資産が増えてきた。それは進化が鈍化しているということ」と自戒を込めて語りました。
話題は再びM&Aへ。亀山氏は「なんでM&Aするのかちょっとわからない」と率直に発言します。
何億で売却したかが目標値であれば売却で構わないが、「ずっと仕事を続けたいなら売らないにこしたことはない」。自分たちの信頼や、長く一緒にやってきた社員との関係こそ価値であり、リセットしてしまうのはもったいないという見解です。
最後のテーマは、ハイクラス人材を採用する際の報酬設計でした。牧本氏は「株を出さない代わりに給料をバンと出す」方針を考えていましたが、亀山氏もこの方向性を支持します。
亀山氏自身、過去に「利益の何%を支払う」という口約束で人材を雇ったところ、新規事業に投資すると赤字になり、相手から不満が出るという経験をしたそうです。最終的に数億円規模の一時金で権利を買い取ることで決着したものの、「自分が新しいことをやろうとすると相手が反対する」という構造に陥り、現実的でないと痛感したとのこと。
亀山氏が示した実践的な提案は次の通りです。
- 基本は固定給を相場より高めに設定する
- 「2000万で納得したらプラスして100万出しときます」程度のアド
- 利益ベースの約束は避ける(できない約束はしない)
- 売上連動の%(例:売上の1%)なら設計可能だが、利益至上主義を歪める恐れあり
- 子会社社長クラスなど「最終利益まで責任を持つ立場」になって初めてインセンティブに切り替える
「社長だったら結果にしてやればいいけど、財務や営業は最終利益までコミットしてないのよ。でも社長だったらコミットするじゃん」——責任範囲とインセンティブを一致させるという原則が示されました。
対談を通じて見えてきたのは、ベンチャー経営にありがちな「VCからの出資」「ストックオプション」「BSを厚くする」といった派手な選択肢に惑わされず、王道の商売に集中すべきだというメッセージです。
- 不確実な見返りのために株は渡さない
- 税金を避けるなら、経費になる「人件費」と「広告費」で先行投資する
- BSの数字より、利益が出続ける「仕組み」を作り続ける
- 社員には固定給で誠実に報いる。約束は守れる範囲だけ
牧本氏は「めちゃくちゃ整理されました」「もう惑わされないです」と語り、新事業への決意を新たにしました。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
