DMM創業者の亀山敬司氏とライターのヨッピー氏が、IVS京都のサイドイベントで公開事業相談を実施。年商300万円のAI法律メディアのM&A判断、シェア別荘「庶民の別荘」のマネタイズ、プレイヤーから経営者への転身など、若手起業家の生々しい悩みに二人がリアルな視点で答えた。
IVS京都のサイドイベントとして開催された「M&A CAMP 出張編」。DMM.com創業者の亀山敬司氏と、フリーライターのヨッピー氏をゲストに迎え、参加者から寄せられた事業の悩みに公開で答えていく公開事業相談が行われた。
M&A CAMP運営者のしさんと亀山氏との関係性について、参加者から「なぜそんなに仲がいいのか」という素朴な質問が飛んだ。きっかけは、しさんが大学2年生のときに亀山氏のもとへアポなしで突撃したこと。当時のYouTube登録者数は6,000人ほど。それ以降、月1回ほどのペースで六本木の立ち飲み屋「アーバー」で会う関係が続いている。
亀山氏は「浅いところで聞いてくるから、逆にみんなが聞きたいことをあえて聞いてくれる」「天然で浅いのがいい。考えた上で浅いんじゃなくて、深く考えた上で浅い」と評する。仲良くなるコツとして亀山氏が挙げたのは、「ただ仲良くなりたいではなく、目的を持って会いに行くこと」「相手の1時間の価値を認識し、それをお返ししようという姿勢を見せること」だった。
最初の相談者は「ロースクールタイムズ」を運営する若手経営者。法律事務所向けの採用広告メディアで、AIを活用したサービスを展開している。直近で業界最大手の導入が決まり、雰囲気が変わってきたタイミングで、数千万円規模のM&Aの話が出始めたという。周囲の成功した経営者からは口を揃えて「やめとけ」と言われている。
年商は約300万円、利益はほぼ赤字。社員は1名。それでも相談者は「目先のお金にくらんでしまっている自分がいる」と打ち明けた。
亀山氏のアドバイスは現実的だった。「売れるなら売ってもいい。1回小金持ちになる経験は楽しいから」。一方で、売却した場合は通常2〜3年のロックアップ(売却後の継続勤務義務)が条件になることを指摘。「向いてない人にとっては辛い時間になる」とも。
亀山氏自身が描いた戦略は次の通りだ。
- まず最大手クライアントの契約更新を確実に決めきる
- 仮に減額提案されても、ブランディングのために契約は継続する(極端に言えば10万円でも続ける)
- 大手導入実績を武器に2番手・3番手の営業を加速し、30社規模まで顧客を拡大する
- そこまで来たら売却の選択肢が現実的になる
相談者が「漫画家になりたい」という将来像を持っていることが分かると、亀山氏は「5,000万円ぐらい持って5年間収入なくても頑張れる状態を作って、AIで絵が下手でも勝負できる時代だから挑戦すればいい」と背中を押した。
続いて登壇したヨッピー氏は、自身が手がける「庶民の別荘」プロジェクトを亀山氏に相談した。
NOT A HOTELが1棟数億円の高級別荘を10〜20人でシェアするモデルなのに対し、ヨッピー氏のモデルは1人100万円×10人=1,000万円を集め、200万円で田舎の空き家を購入し、800万円で改装してシェアするというもの。すでに奈良・吉野と熊本・黒川温泉の2拠点で稼働しており、「すぐ完売した」状況だ。
問題は、現金がほとんど入ってこないこと。建物の所有権は法人が持つためBSは増えるが、キャッシュフローは生まれない。
亀山氏の処方箋はシンプルだった。
- **価格設定の見直し**:1,000万円で作ったものを12分割し1人100万円で販売すれば、1,200万円入って200万円の利益が出る
- **値上げ**:競合がいない領域なので、150万円・200万円に上げても完売する可能性がある。需要と供給のバランスで決めればよい
- **遊休期間の民泊運用**:オーナーが使わない平日は民泊で貸し出し、運営側が手数料を取る
- **拠点ごとの管理人雇用**:固定費として人件費を見込み、その分を会員費に上乗せする
ヨッピー氏は「ノットアホテルのモデルから着想したのに、ノットアホテルを勉強していなかった」と振り返り、亀山氏から「思いついたなら、もう一回ちゃんと勉強しろよ」と諭される一幕もあった。
大道芸(ジャグリング)のパフォーマーとして活動しながら、コロナ禍をきっかけに映像制作・ライブ配信の事務所を始めたという相談者は、「プレイヤーとしては手応えがあったが、経営者として人を雇って育てる側になるとうまく変化できない」と悩みを打ち明けた。
この相談には、ヨッピー氏も自身の経験を重ねた。「自分がやりたくない仕事を部下にやってほしくて人を雇うけど、俺すらやりたくないのにって状態になって、半年雇って解散したことがある。だから一匹狼でいいやと思っている」。
亀山氏の見立てはこうだ。
- 亀山氏自身は「息を吸って吐くように金儲けする」のが自然体で、そもそも経営者向きの性格だった
- 努力で経営者になれる人もいるが、合わない人もいる。プレイヤー型の人が無理に尊大な経営者を演じると、周囲のファンが離れる
- 一つの選択肢として、若い弟子に経営面を教えながら自分は晩年まで支えてもらう「長期プラン」がある
- 「自分のキャラクターに合わない経営手法を取ると逆効果になる」
ヨッピー氏も「自分が今からガッツリ稼ぐぞって言い出したら、フォロワーから怪しまれる」と同調。キャラクターと経営スタイルの一貫性が、長期的なファン獲得に直結することが浮き彫りになった。
保育系の仕事をしながらネイル普及活動を行い、爪の縦線・艶・ネイルプレートの長さを判定するアプリ開発を進めてきた相談者は、提案先企業との商談を前に「自分がエンジニアでもないのに、本当にやっていいのか」と不安を吐露した。
亀山氏の答えは明快だった。
- 周囲が「君のためなら作るよ」と言ってくれているなら、それを受けるセンス自体が経営者の資質である
- 自分自身がプログラミングを学んだことはない。「やってみせてやる」と人を動かす親分力があれば事業はできる
- スタートアップの9割は潰れる。提案先に対して「失礼ではないか」と気にする必要はない
- 大切なのは「できない約束をしないこと」。続けられるか分からないなら、最初から「1年は頑張ります、それ以降は分かりません」と正直に伝える
相談者が「協力してくれている友人エンジニアやデザイナーへどう還元すべきか」を尋ねると、亀山氏はリアルな経営者目線で答えた。「利益の何%という約束は、最初からやらない方がいい。会社の未来は分からないから、後で『もったいない』と思って約束を破ることになる。払いたくなったタイミングで払えばいい。約束は守る、その代わりにできない約束はしない」。
相談の最後で、ある参加者が亀山氏に問いかけた。「5年先、10年先の不安はありますか?」
亀山氏の回答は、長年経営者を続けてきた人物ならではのものだった。
「気持ち的な不安はあんまりない。でもリスクはゼロじゃないから、やれることはやっとこうって話。今やってるビジネスが5年後・10年後には衰退するなと思ってたから新しいことをやる。お金も備えておく。DVDが売れなくなる前にインターネットをやっとこう、みたいに先手を打っておく。それでもダメだったら、しょうがない」。
VCも投資先が潰れることはあるが、誠実にやり切った経営者を責める人はいない――嘘や深刻なごまかしさえしなければ、「うまくいきませんでした」で済む世界がある。亀山氏が貫いてきたのは、その誠実さだった。
今回の公開事業相談で繰り返し語られたのは、シンプルな原則だった。
- M&Aは「売れる状態」を作ってから具体検討に入る。実績と顧客数が交渉力になる
- 新規事業は始める前にビジネスモデルを設計する。後付けマネタイズには限界がある
- 経営者の素質には向き不向きがある。プレイヤー型なら無理に変わらない選択肢もある
- 自分の能力やリソースを過信せず、できない約束はしない。誠実さが長期的な信頼を生む
参加者の身の丈サイズの悩みに対し、亀山氏とヨッピー氏が経験ベースで答えた本セッション。スケールは違えど、起業家・経営者の根っこにある悩みが普遍的であることを浮き彫りにする内容となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
