「上場はめんどくさい、でも一度M&Aを経験してみたい」——そんな起業家が増える今、売却前提の会社作りは成立するのか。DMM亀山会長と受託企業社長が、メディア事業の売却体験を踏まえて、出口戦略の本質を語り合った対談記事。
受託開発を続けていると、どうしても終わりが見えない——そんな経営者にとって、売却(M&A)は一つの明確なゴールになりうる。本対談では、DMM創業者の亀山会長に、受託企業を経営するリツ氏が「売却前提で会社を作るのはアリか?」というテーマで相談を持ちかけた。
リツ氏が語ったのは、シンプルな本音だ。
「上場とかめんどくさすぎてやりたくないし、とにかく会社を作ってパンと売れて1〜2億返ってきたら嬉しいな、というイメージなんです」
こうした感覚を持つ起業家は決して少なくない。手取りで2億円ほど残れば、年5%で運用しても年間1,000万円の収益になる。「もう結構良くないですか」と思える水準である。
亀山会長も、VCから資金を入れてIPOかM&Aかを選ぶというルートとは別に、「自分の手でビジネスを作って売る」という選択肢があることを認める。一定のロックアップ期間を許容できるなら、面白いものを作って売却するのは十分に成り立つ、というのが亀山会長の見立てだ。
リツ氏は、最近の起業家のトレンドをこう表現する。
「『上場を一度してみたい』という気持ちは分かりますよね。それと同じ感覚で『M&Aを一度してみたい』という人がすごく増えているんです。むしろ今はM&Aの方が多いと思います」
M&Aの方が「簡単そう」「キャッシュが残る」「分かりやすい」というイメージがある。上場のように、その後ずっと責任あるポジションで経営し続けなければならないわけでもない。とりあえず一定のキャッシュを得て、次のことをやりたい——そうした人生経験としてのM&A志向が、若手起業家のスタンダードになりつつある、という。
ただし亀山会長は、売却前提で作ること自体は否定しないものの、「売りやすいか」と問われると話は別だと釘を刺す。
理想的なのは、出口が複数ある案件だという。
- IPOも狙える
- M&Aも狙える
- 売らなくても毎月利益が出ているので困らない
この3つが揃っていると、交渉力が圧倒的に強い。「安いなら売らなくていいですよ」「上場目指すのでそちらに行きます」という選択肢を持っているからだ。
逆に「これはM&A前提の案件です」と言ってしまうと、買い手から見ても足元を見られやすくなる。出口を一つに絞ることは、交渉材料を一つに絞ることでもある。
リツ氏が「売却に向いている」と感じている領域がある。WebメディアやSEOメディアだ。
「定額転職メディアのように、ずっと続かないなと思いながら運営していて、月数千万の利益が出る。だからそのタイミングで5年分くらいで売りたい、というケースは多いと思います」
YouTubeは出演者の思想や属人性が強く売却しづらいが、Webメディアは比較的分離しやすい。一方で、ChatGPTの登場で「今後危ないかもしれない」という危機感もある。売り手側に「今のうちに」というモチベーションが生まれやすい領域なのだ。
買い手側にもメリットがある。決算が迫った上場企業がキャッシュを使って買収すれば、メディアの利益がそのまま乗ってくる。Webメディアは人員が少なく、利益率が高い。5,000万円の利益が乗れば、上場企業の時価総額にもインパクトが出る。
「売り手も買い手も長期的なビジョンがない中で、利害が一致して成立する」——亀山会長はこう整理した。リツ氏は「そこは本質的なんじゃないかと思います」と応じる。
対談の中で、リツ氏は実体験を率直に明かしている。Aチームという会社が運営していたキャリア系サービスを売却した経験だ。
「売却したサービスは売上が0だったんですよね。でも数億のバリュエーションがついた」
買い手にとっては、会員数を有効活用できれば十分にペイする計算だった。売り手側からすれば、このまま運営しても売上は0のまま続きそう、ならば売った方がいい。理論上は両者にとって合理的な取引だった。
しかし結果は厳しかった。
「『一度M&Aしてみたい』という気持ちもあってやったんですけど、その後めっちゃ苦労しました。売却した後に2年ほどはちゃんと運営して伸ばしていきましょうという話だったんですが、なかなか伸ばしきれなかった」
結局、売却益のうち1億円ほどは戻すような形になった。それでも、亀山会長は「本来売っていなかったら全痛みだったわけだよね」とフォローする。M&Aは万能ではないが、ダウンサイドを切り離す手段としては機能した、というわけだ。
リツ氏はこの経験から「人生はそんなに甘くない」と痛感し、それがM&Aをテーマにしたメディア運営に踏み出すきっかけにもなったと振り返る。
対談の終盤、亀山会長は自身のスタンスをはっきり口にする。
「自分から売るために作るというのは、あまり考えたことがない。会社を売るというのも、あまり考えられなかった」
DMMの場合、社員と一緒にプロジェクトを作るのが基本で、「これをいずれ楽天やヤフーに売る前提で」という発想が起点になることはない。自分たちでやって、伸ばして、大きくしていく。その結果として、ある事業を切り出して別会社化したり上場したりすることはあり得るが、最初から出口ありきではない。
それでもM&A前提で考える局面はある、と亀山会長は補足する。
「将来、絶対大手に潰されちゃうよねと思うとき。M&A前提じゃない人間ならやらないことを、売る前提なら変わってもいい、という発想でやることはある」
例えば、Amazon・Google・Yahoo!といった巨大プレイヤーが将来必ず参入してくる領域。自社で勝ち切るのが難しいなら、ある程度のサイズに育てて、必要としそうな会社に売る。これはM&Aを織り込んだ戦略として合理性がある。
亀山会長は、海外のM&A事例にも言及した。
「YouTube自体も、当時は『これ出口どこなの?』という状態だったと思う。ユーザーはたくさんいる、でも著作権で訴えられたりしている。そこでGoogleがすごい金額で買った。買われていなかったら、なくなっていた可能性もある」
インスタグラム、スターバックスなど、M&Aから始まって大きくなった事例は数多い。日本でもYahoo!が初期にM&A的なステップで成長したように、買収を起点にした成長モデルは決して特殊ではない。
欧米では「IPOよりM&Aの方がイケている」という感覚もあると、リツ氏は指摘する。日本もここ数年でM&Aの選択肢が広がってきており、起業家の出口戦略が多様化している実感があるという。
対談を通じて見えてきた本質を、亀山会長はこうまとめる。
「M&A前提かどうかで、ビジネスのモデルが変わるわけじゃない。とりあえず稼げる会社か、稼げないけれど人が集まってみんなが欲しがる会社か、どちらかを作るというだけ」
リツ氏も「あんまり変わらないですね」と同意する。
ただし、売却を視野に入れるなら避けて通れないのが「属人化からの脱却」だ。
「君のエンジニア力がないと難しい、というモデルだと売りにくい。誰がやってもできますよ、というところまで作り込まないとM&Aは成立しにくい」
一人でやっているフェーズから、誰かに任せても回る組織にしていく。そのステップを踏んで初めて、M&Aは現実的な選択肢になる。
亀山会長は最後に、こう感想を述べた。
「IPOが流行ったり、M&Aが流行ったりするけれど、流行りで決めるものではない。経営をしていく中で、結果として最適な出口を選ぶものだと思う」
売却前提で会社を作ることは否定されるべきではない。だが、出口を一つに絞ることは交渉力を失うことでもある。複数の選択肢を持ち続けながら、その時々で最適な判断をする——それが、対談全体を貫く本質的なメッセージだった。
なお、対談の最後にはリツ氏から「実は上場しようと思っている」という話題提起もあり、次回の本編対談へと続いていく。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
