スタートアップや中小企業の経営者が陥りがちな倒産パターンとは何か。『世界倒産図鑑』の著者・荒木氏に、ジェネラルモーターズやコダックの事例を交えながら、戦略の本質と組織変革の難しさについて聞いた。鍵は「ざわつかせる」経営者と対話のカルチャーにある。
会社の倒産には共通する構造がある——『世界倒産図鑑』の著者・荒木氏は、その本質を「外部と内部の不整合」と表現する。
戦略を平たく言えば、市場や顧客といった会社の外側の動きと、組織や制度といった会社の内側を、絶えず整合させ続ける営みである。逆に、両者がズレた状態を放置することが「失敗」の正体だという。
外部はそもそも正体不明だ。顧客は誰で、どんなニーズがあり、2〜3年後にどう変化するのかは見通しづらい。これに拍車をかけるのが、内部は変化対応が極めて遅いという事実だ。倒産事例の典型は、外部が動いてしまっているのに内部が動けず、ミスマッチを起こしているパターンに集約される。
分かりやすい例が、戦後にかけて急成長を遂げ、その後倒産・再生を経験したジェネラルモーターズ(GM)だ。
GMは規模拡大に伴い分権化を進めた結果、統制が効きにくくなった。さらに、年金制度や保障制度、福祉制度といった超長期のコミットメントを抱え込み、容易に変えられない構造を自ら作り込んでしまった。
そこに日本車という新たな競合が台頭し、市場のルールが変わる。内部を柔軟に動かせる状態にしておかなければ対応できないが、GMはそれができなかった。
では、内部はどう設計すべきか。
初期フェーズではトップが決めて素早く方向転換する、ある種の独裁的な意思決定の方が市場変化に対応しやすい。しかし社員が増えてくると、それだけでは回らなくなる。
そこで重要になるのが、コミュニケーションコストを下げる工夫だ。経営者が「右だ」と言ったときに、現場が「やっぱりそうですよね」とパッと理解できるような関係性が築けているか。「また言ってるよね」と切り離されてしまう状態では、組織は動かない。GMの経営者も問題は分かっていたが変えられなかった——これがレガシー化の典型的な姿である。
荒木氏が好んで使う比喩が「ホチキス行軍」だ。
かつて紙が重要だった頃、資料をまとめてホチキスで綴じる作業は立派な仕事だった。しかしペーパーレス化が進めば、その業務は不要になる。にもかかわらず、確立された業務はなかなか消せない。なぜなら、その仕事をやってきた人は「自分の存在意義はここにある」と抵抗するからだ。
つまり、会社の中に「ホチキス職人」を作ってはいけない。常に市場の変化と照らし合わせ、「今のこの仕事はなぜ必要なのか」を問い返す仕組みがないと、「私はホチキスさえ打っていればよい」という人が大量発生してしまう。
これは会社の規模を問わず重要な原則だ。鍵を握るのが対話である。対話のない職場では、タスクが降ってきて「これをやれば給料がもらえる」で終わってしまう。その瞬間、外部と内部は切り離される。外部が2メートル動いたとき、本来なら内部も2メートル動かせば整合できるのに、「動かすのは大変だ」と諦める。これが4メートル、1キロと積み重なって、レガシー企業ができあがる。
レガシー企業とは、会社の規模ではなく、スタンスの問題なのだ。
同じ構造の悲劇を体現したのがコダックである。
コダックはデジタル化の波を分かっていた。実際、デジタルカメラやデジタル技術への初期投資は早くから行い、試作品を経営会議に上げてもいた。しかし、それらはことごとく否決された。理由はシンプルで、デジタル化が進むと現場の人たちの仕事がなくなるからだ。
さらに、社内だけの問題ではなかった。現像屋や販売店といった生態系全体がフィルムを前提に成り立っており、デジタル化はその生態系を自ら殺すことを意味した。分かっていたけれど変えられなかった——これがコダックの悲劇である。
対照的に、富士フイルムは「橋を渡り切った」企業として知られる。フィルムに早めに見切りをつけ、トップダウンで化粧品など新領域へと舵を切った。その大胆な決断ができた前提として、社内に対話と危機意識が十分に醸成されていたことが大きい。
この構図は、AI時代の経営にも当てはまる。
動画編集者をはじめとする知的労働者の仕事がAIに代替されると言われて久しい。とはいえ現時点では、ChatGPTや生成AIにはクオリティ面の課題が残り、完全には任せきれない。だからこそ、いまいる技術者や協力先を囲い込んで売上を立てることは「正解」でもある。
問題は、2〜3年後を見越した移行の準備ができているかどうかだ。組織の中で未来を議論する癖がついていないと、いざ方針転換となったとき社員は驚き、抵抗勢力になってしまう。
そこで経営者がやるべきは、職場のメンバーに2〜3年後を考えさせるような問いを出して「ざわつかせる」ことだ。荒木氏は「社長はある程度とち狂っていないとダメ」と言う。気が触れたようなお題を出し、社内を混乱させる力こそが必要だ。
ただし、それを「社長バカだよね」と切り離されない人間関係が前提になる。無理難題が当たり前になっていくカルチャーを持てる会社こそが、結果的に生き残り、社員もハッピーになる可能性が高い——荒木氏はそう締めくくった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
