AIスタートアップ起業家、SF作家、そして「チーム未来」党首として参議院議員に転じた安野たかひろ氏。多彩なキャリアの裏にある「一本足の才能」と、テクノロジーで社会を変える発想を語る。
ソフトウェアエンジニア、AIスタートアップの起業家、SF作家、そして「チーム未来」党首・参議院議員──安野たかひろ氏のキャリアは、一見すると多才そのものに映る。しかし本人は「才能は1個くらいしかない」と語る。技術の延長線上に未来を構想し、何らかの形でアウトプットする。その一本足打法こそが、ベドア・モンテスキュー創業から都知事選挑戦、そして150万票を獲得した新党結党までを貫いている。M&A CAMPが安野氏の人生を時系列で深掘りした対談から、テック経営者・政治家・小説家を横断する思考法を紐解く。
安野氏のキャリアの起点は、小学3年生のときに家にやってきた1台のWindows 98だった。ネットも満足につながらない環境で、プリセットされたアプリケーションを片端から起動して機能を理解していく。Word、Excel、パワポを比較するうち、Excelの関数機能の奥に「Excelマクロ」というプログラミング環境が隠れていることに気づく。これが約20年に及ぶエンジニアキャリアの出発点となった。
中学・高校時代には梅田望夫氏の『ウェブ進化論』に触れ、YouTubeやニコニコ動画の登場を同時代で目撃。シリコンバレー的な空気感に憧れ、「いつか会社をつくりたい」という思いを温めていったという。
東京大学工学部に進学した安野氏は、機械学習・ビッグデータ解析を扱う松尾研究室に配属される。研究室には1〜2年上にグノシーやパークシャテクノロジーを立ち上げた先輩たちがおり、「お前はまだ上場してないのか」と言われるような濃密な環境だったと振り返る。
在学中には、東大の授業データをスクレイピングして同じ授業を取る学生同士をつなぐ学内SNSを開発。約3,000人の登録ユーザーを集めるが、大学側から運営停止を求められて閉鎖した経験を持つ。
卒業後はボストン・コンサルティング・グループに入社するが、1年半で退職。経済産業省所管のIPA「未踏IT人材発掘・育成事業」に採択され、パソコン画面を読み取ってユーザーが次に押すボタンを予測するソフトウェアの開発に取り組んだ。Chat GPT Atlasのようなブラウザ自動化エージェントを先取りするテーマである。
その後、安野氏は株式会社ベドア、モンテスキュー株式会社という2つのAIスタートアップを創業する。とくにリーガルテックを手がけるモンテスキューは、ベンチャーキャピタルではなく「四大法律事務所」と呼ばれる大手弁護士事務所から出資を受ける異色の体制でスタートした。
2019年当時、ニューラルネットによる自然言語処理は長文解析にまだ課題が多かった。しかし契約書は第1条・第2条と意味の塊ごとに細かく分割された釣り構造を持っており、「人間には難しいが機械には得意」という絶妙なドメインだったと語る。安野氏が在籍した時点で売上は10億円規模に到達。安野氏自身は01フェーズに強みを持つ自覚があったため、得意領域に集中するべく徐々に権限を委譲していった。
10年ほどのビジネスパーソン経験を経て、安野氏はロンドンの美術系大学Royal College of Art(RCA)に1年間留学。デザインや美術を通じてイノベーションにアプローチする手法を学んだ。
帰国後の2023年は「9割物書き」として過ごし、早川SFコンテストで『サーキット・スイッチャー』が長編賞を受賞、商業作家デビューを果たした。
安野氏はソフトウェア開発・スタートアップ経営・SF小説執筆を「意外と同じ筋肉」と表現する。「この技術がある時、未来はこう変わるのではないか」という発想を、コードで実装するか、事業として立ち上げるか、物語として描くかという出力先の違いに過ぎないというのだ。ソースコードも会社も小説も、構造を持つシステムであり、要素分解しながら全体を設計する点は変わらない。
2024年4月、自宅近くで都知事選の補選を目にした安野氏は、妻との散歩中に「政治はこうした方がいい」と語ったところ、「あなたが出馬しろ」と返される。一晩考えた末、出馬を決意した。
安野氏が強調するのは「0と0.1は違う」という発想だ。出馬すれば当選確率は0ではなくなる。東京都の予算8兆円という規模を考えれば、わずかな確率でも期待値としては十分にプラス。落選しても2回目の挑戦につながり、社会的に失うものもほぼない、というのが安野氏の判断だった。
都知事選では落選したものの、その後立ち上げた政党「チーム未来」は参議院選挙で約150万票を獲得。日本人の約1%が投票した計算になる。安野氏は「右か左か」ではなく「未来思考か現在重視か」という軸で立ち位置を語り、30代を中心とする同世代から強い支持を得たと分析する。
また、攻撃や対立を煽らない姿勢で「1%の得票率で2%超に届く」ことを示せた点も意義深いという。マニフェストに掲げた「100日プラン」も期限内に完遂し、「言ったことはやる」という姿勢を示した。
安野氏は「民主主義のアップデート」を掲げる。世界的に二大政党制から多党化が進む流れを踏まえ、政党間で合意形成するコミュニケーションのあり方そのものを技術で変えられると考えている。
例えば台湾で運用されている市民提案プラットフォーム「Join」は、5,000人以上の賛同を集めた提案に対し官僚がレビューを義務づける仕組みを持ち、10年で200本以上の政策を実現してきた。安野氏はこうしたバイパス型の市民参加を日本にも輸入したい意向だ。
また、AIをファシリテーターとして活用すれば、1億2,000万人規模の非同期な熟議も可能になり得る。AIは話し手のロジックと表現を分離して読み解けるため、言葉が荒くても主張の筋を抽出し、本来は対話できなかった人々の合意形成コストを下げられるという。
AIの普及がもたらす論点として安野氏が挙げるのは、(1)科学技術の発展速度の加速と、(2)生産性向上による労働市場への影響の2点だ。とくに後者については、職を失う人が増えても耐えられる再分配インフラを国として今のうちに整備すべきだと提言する。給付付き税額控除やベーシックインカム的な仕組みを、口座へ自動的に振り込まれる形で実装できる「足腰の再分配インフラ」への投資が、AI時代への最大の備えになるという見立てだ。
安野氏が対談の最後に色紙へ書いたのは「百聞は一見にしかず」だった。世の中はいくら言葉を尽くしても変わらない局面が多いが、実際にやってみせると周囲が動き始め、物事が前に進む。スタートアップ、SF小説、選挙、新党結党と、繰り返し体験してきた実感だという。
また、今やっている仕事の「筋肉」はその場でしか使えないものではなく、抽象化して別領域に持ち込むと意外なほど横展開できる。1つ突き抜けた経験を持つ経営者ほど、AIエージェントが業務を10倍速で塗り替えていく現在の変化のなかでチャンスを掴みやすい──安野氏はそう締めくくった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。


2025/12/10

2025/12/3

2025/9/22

2025/8/30

2025/8/2

2025/7/26