SmartHR創業者・宮田昇始氏が語る、起業前夜の困窮、2年間の鳴かず飛ばず期、ユニコーン企業へと急成長する過程での葛藤と退任、そして新会社Nストックでの挑戦。学生・初回起業家へのリアルなアドバイスも収録。
「会社の残高10万円、個人の残高10万円、来月娘が生まれる、どうしよう」──これがSmartHRのアイデアを思いつく直前の宮田昇始氏の状況だった。今や従業員1500名規模のユニコーン企業へと成長したSmartHR。その創業者である宮田氏が、自身の人生をモチベーショングラフに描きながら、等身大の起業ストーリーを語った。
現在は新会社「Nストック」を創業し、スタートアップ業界の課題解決に取り組む宮田氏。本記事では、学生起業家や初めて起業する人に向けて語られた、リアルで生々しい経営体験談を紹介する。
熊本の田舎で育った宮田氏。実家は祖父が始めた建設業を中心に不動産・ホテル・温泉ホールなど多角化していた家系だったが、本人は「自分が起業するとは1ミリも思っていなかった」と振り返る。
寮のある中高一貫校で6年間を過ごし、大学は専修大学へ。「友達のあまった願書で行かせてもらった大学」と語るほど、学生時代は将来について深く考えることもなく、楽しく過ごしていたという。
就職活動も「とりあえず受かったところに行こう」というスタンスで、ベンチャー企業に1社目として入社。20名規模の会社が同期20名を採用するという無茶な体制で、リーマンショックを経て社員数が乱高下する激動の3年間を過ごす。
2社目では、勤務先の社長が全国指名手配されるという衝撃的な事件に遭遇。渋谷のオフィスに警察官20人が押し寄せ、宮田氏自身もケンタッキーで事情聴取を受けたという。
3社目も社長との考え方が合わず1年で退社。20代後半に差し掛かり、「逆転するには起業するしかない」と消去法的に起業を決意した。
28歳か29歳の頃、友人の内藤氏とともに起業。当初は「15人くらいで面白いサービスを作って楽しめればいい」という規模感だった。
しかし最初の2年間は鳴かず飛ばず。SmartHRは世に出したサービスとして3つ目で、出していないものも含めると12個目のアイデアだったという。受託で2ヶ月稼いではサービス開発に戻る、というサイクルを繰り返した。
「気持ちは1年で折れていた」と宮田氏。それでも続けられた理由は、共同創業者の内藤氏を巻き込んだ手前、「手ぶらで返せない」という思いだったと明かす。
転機となったのは、SmartHRのアイデアを思いついた瞬間。サービスがない段階でティザーサイトを作り、Facebook広告で事前登録者を集めてヒアリングを行った。
「困っていますか、とは聞かない。事実確認をする」というヒアリング手法で、最初の5人のヒアリングで「これはバーニングニーズだ」と確信。応募者全員が同じ課題を口にしたという。
そこからの成長スピードは凄まじかった。
- 創業翌年:5名
- その翌年:15名
- その翌年:50名
- その翌年:120名
「半年ごとに別の会社になるイメージ」「毎年3倍のサイズのオフィスを選んでも1年でいっぱいになる」状態が続き、創業6年でユニコーン企業に到達した。
急成長の裏で、宮田氏は自身が大企業経営に向いていないことを実感していく。「文化祭の2週間前くらいの会社が自分にはちょうどいい」と語る宮田氏にとって、部署が分かれ、たらい回しや陰口が起こるような組織の問題は精神的なダメージが大きかった。
「自分は内向的・繊細なタイプ。資金調達のプレッシャーは楽しめるが、人間関係の問題はめちゃくちゃダメージを食らう」
半年間ほど精神的に追い込まれた後、1ヶ月のサバティカル休暇を宮島で過ごした宮田氏。「人生ってこんなに楽しかったんだ」と感じる一方、会社に戻ろうとすると気持ちが落ち込む状態に。これを機に、後任となる芹澤氏へのバトンタッチを進め、2022年1月に正式に退任した。
資金調達のタイミングで実施したセカンダリー(既存株主からの株式売却)について、宮田氏は2つの貴重な経験を語る。
2019年、SmartHRの時価総額が約300億円・社員150名規模の頃、社長である宮田氏自身は借金400万円を抱え、リボ払いでギリギリ生活費をしのぐ状態だった。CFOの玉木氏の提案により初のセカンダリーを実施。
同時に、当初2019〜2020年を目指していたIPO方針を転換。「小さいサイズでIPOすると上昇気流に乗りづらく、1000億円以上での上場が望ましい」と知り、IPOを延期する決断をした。
この決断は社員のストックオプション換金時期を遅らせることにもつながり、一部社員から反発を受けたという。「気まずい思いをした。良くない体験もあった」と振り返り、この経験が現在のNストックの事業へとつながっている。
退任の2ヶ月後にはNストックの構想を思いつき、退任した同月にSmartHRの100%子会社として創業。「独立してやるとSmartHRに余計な憶測を呼ぶ」という配慮からの選択だった。
2025年4月〜5月にSmartHRから独立し、現在は連結から外れた独立系スタートアップに。Nストックは18億円分の株式をSmartHRから買い取り、そのうち約3.2億円分は社員約40名が購入したという。
宮田氏自身も、SmartHR株のセカンダリーで得た資金をもとに、Nストック株を約7.5億円分購入。さらに2024年には3億3の寺田親弘氏が理事を務める徳島の神山まるごと高専に3億円を寄付している。
「セカンダリーは、上場していなくても良いお金の選択肢を増やす上でめちゃくちゃ大事」と語る宮田氏。Nストックの主要事業の一つは、まさに日本でセカンダリー取引所を作ること。スタートアップ育成5か年計画による法改正・規制緩和の追い風を受けている。
宮田氏は1回目の起業でM&Aすることについて、肯定的な見解を示す。メルカリの山田進太郎氏や令和トラベルの篠塚氏など、1回目をM&Aし、2回目で大きく成長させる起業家の例を挙げ、「2回目だからこそ使える信用力がある」と語る。
Nストックは売上がほとんどない段階で30億円の資金調達に成功。出資したVCは全員SmartHR時代の株主だった。「2回目だから証券会社を作ろうという無謀な挑戦もできる」
ただし「1回目のM&Aサイズが小さすぎると信用力にレバレッジが効かない」とも指摘。
2社目の経営で痛感したのが市場選びの重要性。宮田氏が挙げるポイントは2つ。
1. **市場規模**:フェルミ推定で算出可能。すでに大きい市場か、今は小さくても急成長している市場を狙う
2. **追い風**:「上りのエスカレーターに乗っているか」。世の中のプラスの流れに乗ると、実力以上に事業が伸びる
SmartHRの場合、社会保険関係のAPI公開、マイナンバー法施行、働き方改革、脱ハンコといった追い風が重なった。Nストックでもスタートアップ育成5か年計画による規制緩和という強い追い風が吹いている。
「乗れるか乗れないかで、目指せる規模もスピードも変わる」と宮田氏は語る。
SmartHRというユニコーン企業を創業した宮田氏の物語は、決して華やかなだけのサクセスストーリーではない。全財産10万円という困窮、2年間の鳴かず飛ばず、急成長期の組織課題、退任への葛藤──そのすべてを率直に語る姿は、起業を志す人にとって貴重な道標となるだろう。
1回目の起業で得た経験と信用を、2回目でレバレッジさせる。市場選びと追い風を見極める。そしてセカンダリーという選択肢を活用する。宮田氏の歩みは、これから起業する人にとって多くの示唆に富んでいる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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