
ネットマーケティング創業者の宮本邦久氏は、2022年に同社をベインキャピタルへ売却し、現在はエンジェル投資家として活動している。創業前にベンチャーキャピタルで4年間働いた経験から「投資の面白さ」に魅了され、自らもエンジェル投資家になることを目標に起業したという、逆算型のキャリアを歩んできた経営者だ。
「もっと早く上場できると思ったら、13年もかかってしまった」と語る宮本氏。当初は4年での上場を目指していたが、結果的にマザーズ、ジャスダック、東証二部、東証一部と、上場の鐘を3回鳴らすことになった。
エンジェル投資家になるための手段として、なぜ上場という長く険しい道を選んだのか。宮本氏の答えは明快だ。
「上場しか考えていなかった。『上場しました』と言わないと、上場を目指す起業家に対して説得力がない。選んでもらえる側になりたかった」
そのキャリア上、上場経験はどうしても欲しかったと振り返る。
13年間の経営の道のりは、決して平坦ではなかった。最初のマザーズ上場は取引先の状況により上場承認が取り消しに。「延期して上場できる会社は2割しかない」という中、1年半後にジャスダック上場を果たした。
さらに2021年には、マッチングサービス「お見合い」で171万件の個人情報漏洩事件が発生。NHK7時の全国ニュースに報じられ、Yahoo!トップニュースに掲載され、電話は2,000件、メールは6万件殺到した。
「社内では対応できないので外部企業に頼んで全力で対応した。乗り切ったかどうかも分からないまま、無我夢中で取り組んでいた」
意外なことに、マッチングアプリ「お見合い」は「どうしてもやりたかった事業」ではなかったという。同時に走らせていた3つの新規事業のうちの一つに過ぎず、残りの2つはFacebookのナビサイトとグルメサイトだった。
「13回新規事業をやって、11回は失敗している。失敗がデフォルト」
しかし「お見合い」は、業界に先駆けて「いいね」というシステムを生み出し、リリース2年目で黒字化を達成。広告代理事業がキャッシュエンジンとして利益を出し続けていたため、新規事業に挑戦できる体力が会社にあったことが大きかったという。
サービス名も「東証審査でNGにならないよう、徹底的にホワイトに」という配慮から「お見合い」と命名。「日本の少子化を救うサービス」として期待されたという。
上場時、社員150人のうち広告事業に90人、お見合いに30人、管理部・役員30人という構成。広告事業は新卒文化、お見合いは中途文化と、フロアを分けて2つのカルチャーを並走させていた。
最終的に同社は、お見合い事業をエウレカ系の「Pairs」運営会社へ、広告事業をマクビープラネットへと、それぞれの「収まるべき鞘」に収まる形でM&Aが実行された。
上場企業の社長として会社をユニコーン級まで成長させる選択肢もあった中で、宮本氏が売却を選んだ理由は、自身の原点に立ち返った結果だった。
「ネットマーケティングにはネットマーケティングのDNAがある。僕個人のDNAをそこに負わせるのは、上場企業社長の判断としてどうかと思った」
ベインキャピタルからのオファーを受け、会社はユニコーン化への道を、自身は個人としてエンジェル投資家の道を歩む──双方にとってのハッピーな選択だったと振り返る。
宮本氏は、上場後のM&Aを積極的に推奨する。
「日本の場合、20代で起業、30代で上場、株価10年変わらず、70代で体力の限界で引退、というケースになりがち。アメリカのように、0→1の社長、1→10の社長、10→100の社長と、ステージごとに違うプレイヤーがバトンタッチした方が、会社の伸びしろは大きい」
上場後はすでに創業者社長への依存度が下がっているため、ロックアップなしで即日切り替えが可能だったという。
2018年から起業家との面談を始め、2020年から本格的に投資を開始。これまで約650社の起業家と面談し、22社に投資している。
投資判断のポイントについては、「最初は事業を見ていた。次にバックグラウンド。最近は誠実かどうかという人間性を見ている」と、試行錯誤の連続だと明かす。
起業家との出会い方については、ベンチャーキャピタル11社へのLP出資、18年の経営活動で広がった3,000人超のFacebook人脈からの紹介、エンジェルポートやプロトコル等のサイト、X(旧Twitter)での発信など、あらゆるチャネルを駆使しているという。
「見極めよりも、出会うことの方が難しい。大谷翔平に座ってもらうのが一番難しい。ソーシングが全て」
どんな起業家にM&Aを勧めるかという問いに、宮本氏はこう答える。
「0→1は大好きだけど組織作りは苦手、という人におすすめ。新しいプロダクトを作って事業の種ができ、ここから社員を増やせば伸ばせるけれど、人を扱うのが苦手──そういう人が、組織マネジメントの得意な人にM&Aするのは非常に良い」
そしてタイミングについては、「お声がかかった時が一番いい。自分から行くと価格はぎゅっと下がってしまう」と語る。
資金調達についても明快だ。「資金調達せずにやれるのなら、しない方がいい。手金で行けるところまで行く。ただし、明確にやりたいことがあって、融資では賄えない規模のお金が必要なら、調達してレバレッジをかけてドライブさせるべき」
最後に若手起業家へのアドバイスを求められた宮本氏は、パッションの重要性を強調した。
「ハードシングスを乗り切れたのは、パッションの力が大きい。パッション以上に優れた能力はない。なりたい自分というゴールから逆算すれば、その気持ちはぶれない。心折れずに最後までやりきれるはず」
13年の上場ストーリーと135億円の売却を経て、新たなステージで日本のスタートアップ・エコシステム構築に挑む宮本氏。経営者から投資家へとバトンタッチする文化を、自らの背中で示している。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです

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