
起業家として10代の頃からメディアに露出し続けてきた早川五味氏。約2年前に自社を売却し、現在はロックアップ期間中として会社員的な働き方を経験している。本記事では、売却後に見えてきた組織と経営者のリアル、20代で気づいた「お金よりかっこよさ」というモチベーション、そしてメディア露出を活用した起業戦略について、本人の言葉から紐解いていく。
早川氏が自社を売却したのは約2年前。現在はロックアップ期間中として、買い手企業の中で働いている。
「そもそも私、バイトもしたことがなかったんです。インターンや業務委託で知人の会社を手伝うことはあったのですが、それも通常ルートというよりは『来いよ』と言われて契約書が送られてくる感じでした。だからちゃんと雇用されたのは初めてで、新鮮でしたね」
会社員として組織に属する経験は、早川氏にとって想像できていなかった景色を見せてくれたという。
「これまでは、本に書いてある『褒めた方がいい』という情報が頭にあって、人前でとにかく褒めるみたいなことをしていました。でも、実際に組織に属する側になると、何を褒めるかによって組織の評価基準が変わるんだと気づいたんです。今までの『褒める』とは重さが違う。『この場面はもう50倍くらい褒めまくって超肯定した空気を作らないといけない』とか、逆に『これはクローズドで褒めるだけでもいい』とか、自分の中で出てきました」
リーダーが何を評価し、何を褒めるかが、チームのモチベーションを左右する。理論として理解していたことが、内側から見ることでさらに一段整理されたと早川氏は語る。
早川氏のモチベーションの源泉は、年齢とともに大きく変化してきた。
「10代後半から20代前半は、目立ちたい、評価されたい、他の人にすごい人と思われたいという気持ちに囚われていました。歪んだ自己肯定感で、とにかく誰かに評価してもらいたい気持ちが強かったんです」
転機は20代前半に訪れる。会社の本業ではなく、メディア露出などの活動で「2,000万円レベル」の売上を立てた時期があった。
「一度お金を持つ側になって、『あ、こういう感じか』と思ったんです。テレビに出たい、お金持ちになりたいという気持ちは当時あったんですけど、いざなってみると思ったよりそうでもないなと。早い段階でそこに行けたのは、結果的にすごく良かったなと思っています」
それ以降、早川氏の判断軸は「他者からの評価」から「自分の評価」へとシフトした。
「これをやっててかっこいいと言えるか、この事業を心から行けてると思えるか、社会にめっちゃいいことか。自分なりの『これってかっこいいよね』を基準に動いています。仕事の一番のモチベーションは、自分の名前でダサい仕事を世の中に出したくないこと。関わっている会社や事業がダサいのが一番嫌なんです」
知名度を活かして「顧問業」で稼ぐ道もあるなかで、早川氏はそれを意識的に避けている。
「アンチパターンの典型例として、めっちゃコンサルしてるよくわかんないおじさんみたいになりたくないんです。プロフィールに『10社の顧問やってます』みたいな。40〜50代だったらありだと思うんですけど、20代後半でそうなったらやばいなと」
ある程度の知名度や牽制があれば、1社から月5〜10万円、登壇1回30万円といった単価で月100万円は「余裕」だと早川氏は分析する。それでもなお、その道を選ばない理由がある。
「アドバイスをする人と、実業で触ってる人ってちょっと違うんです。自分で手応えを持って進めている人と話している重さは結構違うなと思っていて。自分はまだ何かを一つ極めているわけじゃないので、まずはプロフェッショナルとしてしっかり事業に取り組むのが当面の目標です」
エンジェル投資も少額ながら行っているが、それも「自分が価値を発揮できると明確に思った分野」か「単純に興味がある分野」に限定しているという。
早川氏は高校生の頃からメディアに出演し続けている稀有な起業家だ。約10年にわたり露出し続けられた理由を、自身ではこう分析する。
「私の一番の強みは、意外に消えないこと。要素はいくつかあると思います。まず、実業があること。様子を見ているだけの『口出しおばさん』にならない。その上で礼儀が正しい。思っている以上に、礼儀が悪い人はレギュラーにはなれないんです。スタッフさんも人ですから、性格がきつい人は厳しい」
もう一つ、早川氏が挙げるのは「芸能界キラキラへの憧れがないこと」だ。
「メディアに出ていると、本来会えないような有名人や政治家とも交流が出てきます。でも、私はあまり興味がないんです。人としての深さを見ているので、深い人であれば役職に関係なく深いなと思うし、浅い人はどんな役職でも浅い。逆にそれで友達ができやすいんですよ。アイドルとして接せられたらやりづらいでしょうけど、普通に接していると友達になりたいと思ってもらえる。そこで身を滅ぼすこともない」
「あいつ最近めっちゃザブで飲んでるらしい」といった失墜パターンを回避できているのは、そもそもキラキラへの憧れがないからかもしれないと早川氏は振り返る。
起業家のメディア露出には賛否がある。早川氏自身はどう捉えているのか。
「自分の場合、メディアに出ていなかったら3年目くらいで会社を潰していた可能性があります。最初の頃は事業のキャッシュフローがめちゃくちゃで、ほぼ私のメディア露出のお金で食べていました。それを会社に貸し付けて回していたので、メディア露出がなかったら確実にここまで続いていなかった」
そのうえで、これから起業する人にメディア露出を勧めるかと問われると、早川氏の答えは明確だ。
「自分のようなジェネラルなインフルエンサー的な立ち位置にはならなくていいと思います。多分あまり再現性がない。それよりも、何かに特化している方がいい。例えば最近だとAIに特化していて、ChatGPTの情報をめっちゃ発信している人とか。そうすると採用にも有利だし、情報も集まってくる。専門家になった方がいい」
メディア露出の本質的な効用は「直接の売上」よりも、業界内での採用、情報収集、資金調達にあると早川氏は指摘する。
ブランドの切り売りではなく、実業に手応えを持ちながらメディアを「ドライブ装置」として使う。早川五味という起業家が10年にわたって生き残り続けてきた背景には、こうした冷静な戦略観があった。
早川氏の言葉から見えてくるのは、「お金」や「他者からの評価」という外的なゴールを早期に経験したからこそ辿り着いた、「自分がかっこいいと思えるか」という内的な判断軸だ。売却後の会社員経験は、組織を内側から見る解像度を高め、リーダーシップ観を更新する機会となっている。「ダサくなりたくない」というシンプルなモチベーションが、コンサル業への安易な逃避を遠ざけ、実業への向き合いを継続させている。メディア露出を活用しながらも、その効用を冷静に分析し、これから起業する人には専門特化を勧める姿勢にも、彼女の「冷めた熱量」が表れている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです

上場直後に毎月のようにメディアサイトを買収しては、わずか数ヶ月後にすべて売却した過去。ポート代表・春日博文氏が、その経験から導き出した「大型買収こそ効率的」という結論と、40億円規模のM&Aを成功させてきたアプローチ手法を語る。

DMM.com会長の亀山敬司氏が、自社のM&A戦略を率直に語る。失敗から学んだアーンアウト型51%買収、シナジーと飛び地の判断、上場企業と非上場企業の決算思想の違いまで、経営者目線のリアルな買収哲学を公開する。

ネットマーケティングを13年かけて東証一部上場まで導き、2022年にベインキャピタルへ135億円で売却した宮本邦久氏。マッチングアプリ「お見合い」の立ち上げから、エンジェル投資家への転進までを語る。

無一文から起業し、ウェディング事業で成功を収め49歳で会社をM&A売却。鎌倉に移住しスローライフを送る夫婦が、創業期の地獄、経営判断、夫婦円満の秘訣、そして起業家に必要な「覚悟と勇気」を本音で語る。

18歳で下着ブランドを立ち上げ、2022年春に事業譲渡。並行してフェムテックブランド「イルミネート」をエクイティで運営し、ユーグレナグループへM&A。2回の売却を経験した起業家ハヤカワ五味氏が、資金調達と出口戦略の使い分け、そして経営者としての変化を語る。

ソーシャルゲーム事業の連続買収で一部上場を果たしたマイネット創業者・上原仁氏が、売り手・買い手両方の経験から語るM&A成功のポイント。Yahoo! JAPANへの事業売却の経緯から、ロールアップ戦略、PMIで重視すべき「100日プランと3年プラン」の使い分けまで、実践知を凝縮した一本。