
DMM.comの亀山敬司会長が、自社のM&A戦略について率直に語った。買収側として数々のディールを手がけてきたDMMだが、亀山会長自身は「人に教えるほどうまくやれてないんだよね」と前置きする。最初は直感やノリで買収を決めて世間を騒がせたこともあり、その反省から現在は薬事承認を通すなど一定の手続きを踏むようにしているという。
それでもDMMのM&Aは、いわゆる「のれん」をどう評価するかという未来予測の世界。本記事では、亀山会長が試行錯誤の末にたどり着いた買収の流儀、シナジーと飛び地の判断軸、そして上場企業と非上場企業の経営思想の違いまでを掘り下げる。
初期の失敗から学んだ亀山会長が現在採用しているのが、ロックアップに頼らないアーンアウト型の買収だ。
「いきなり100%買わないで51%買う。残りの49%は3年後にここの数字まで行ったら、出た部分の結果に対して何倍付けで買うよ、と」
この方式なら経営者にもインセンティブが残り、買収後も頑張る動機が維持される。51%だけ買う場合より総額は高くなる傾向があるが、「3年後に目標を達成していたら払う」という条件付きなので、買い手にとってもリスクがコントロールしやすい。とくに「この経営者抜きでは語れない」案件では、この設計が機能する。
一方、100%買収に踏み切るのは、仮に経営者が抜けても自社で巻き取れるケースだ。亀山会長はオンラインサロンやオンラインクリニックの分野でこの判断をしたという。既存メンバーで組織ごと引き継げるなら、経営者の離脱リスクを織り込んだ買収が可能になる。
DMMが業界・業種にこだわらず幅広くM&Aを行う中で、亀山会長が重視するのが「1位を作れるか」という視点だ。
「業界1位、2位、3位があって、2位と3位が合併して1位になる。1位になるためならいいよね、というのは価値が出やすい」
1位と2位では利益率が大きく異なる。提携や取引の話は基本的に1位から順に持ち込まれるため、営業コストが下がり収益性が上がる。狭い領域でも「ここで1位」のポジションが取れれば、シナジーは大きい。
ただしDMMは飛び地の買収もする。「全くシナジーはないけれど将来性のあるビジネス」に対しても柔軟だが、亀山会長はシナジー型のほうが成功しやすいと明言する。理由はシンプルだ。飛び地の買収は単なるオークション勝負になりやすく、リターン期待値の低いファンドに価格で負けるからだ。
「うちが10%、20%欲しいというところを、ファンドは5%、10%でいいとなる。そうすると単なるお金の勝負になって、プレミアムがつきづらい」
逆にシナジーがあれば、自社の会員基盤やプラットフォームと組み合わせて売上を1.2倍にできる、利益を12億円にできると見込め、その分だけ高い価格を提示できる。シナジーを定量的にプレミアムへ転化できるかが、勝てる買収かどうかの分かれ目になる。
亀山会長は自身を「人の奮闘してツモを取りたいタイプ」と表現する。買収対象として見るのはビジネスそのものだけではない。経営者という人材そのものを取り込みたい、という発想がある。
小さな会社であっても、3〜5年後に1億円の利益を出せそうな経営者がいれば、買収対象になり得る。むしろビジネスが想定通りにいかなかったとしても、その経営者がDMM社内に入ってくれれば、次のチャンスで「100億円の予算を渡して10億円の利益に育ててもらう」可能性が出てくる、というのが亀山会長の見立てだ。
「達成できない人もいるけど、ちゃんと言ったことができた人間が傘下に入ったなら、新しいことをやりたいと言ってきたら、信頼関係もあって資金も出せる」
実際、過去のM&Aを通じてDMMには起業マインドの強い経営者が多数加わり、それが既存社員にも刺激を与えた。「あいつでもできるなら俺もやってみよう」という空気が、社内の事業提案を活性化させたという。
買収を試みても成立しないケースは多い。DMMが英会話事業に参入した際、亀山会長は現場に「まず買収から行け」と指示したが、3社に声をかけて全部断られた。
「自分でやりますって言うから、フィリピン行ってきますと。じゃあ行っといで、頑張ってこいよと言って、自社で作った」
結果、DMM英会話は自社開発で立ち上がった。亀山会長は「時間を買うという意味ではM&Aが早い」としつつも、立ち上げにかかるお金と買収価格を比べると、どちらが得かは業種次第で読みきれないと振り返る。両方を比較した実績はないため、最終的には「正しいと思う値段で買えるなら買う、まとまらなければ買わない」というシンプルな判断に落ち着く。
サイバーエージェントは基本的に自社で事業を育て、楽天はM&Aを駆使して多角化する——会社によってスタイルは大きく異なる。亀山会長自身は「ほとんど俺が作ってなくて、社員だよね」と自社事業を語る。役員や決済権を持つ部長クラスからの提案で動くスタイルだ。
それでも昔M&Aに積極的だった理由は、社内からの提案がまだ少なかったからだという。事業を始めたい人材が社外にいるなら、その会社ごと取り込むしかなかった。結果として、経営マインドを持つ人材が社内に多く入り、これがDMMのカルチャーを形づくっていった。
M&Aの話題から派生して、亀山会長は上場企業と非上場企業の決算思想の違いに踏み込んだ。
「本来、ビジネスの本質は税引後利益。最終的に手元にいくら残るか。でも上場会社は営業利益で増収増益ですって言うわけ。世間体的にはそれが評価される、変な世界」
非上場のDMMは株価を気にする必要がないため、税引後利益で経営を考えられる。これは買収でも有利に働く。たとえばのれんが立っても株価が下がる心配がないため、上場企業よりも踏み込んだ価格を提示できる。
さらに買収手法の違いも重要だ。株式譲渡で10億円のものは、事業譲渡なら15億円出せる、と亀山会長は説明する。
「株で買うとのれんとして残るから、10億円が減価償却できない。でも事業で買うと経費になるから、税務上は安く買えるのと同じ。23割安く、というか15億円出せる」
税引後利益で考える経営者にとっては、株式譲渡か事業譲渡かのスキーム選択が、提示できる金額そのものを左右する。
買収後に経営者がモチベーションを失う問題に対して、亀山会長は明快な処方箋を示す。
「金欲を止めたいとしたら、通常のルール外にしないといけない。社員の昇給と別の考え方で、この経営者ならインセンティブで億単位を出すよ、と」
上場企業では他の社員の手前、最大1億円までしか出せないといった制約がある。しかし非上場のDMMなら、契約で取り決めれば青天井のインセンティブ設計も可能だ。実力主義で結果が出なければ報酬は下がるが、出した分はしっかり返す——この設計こそが、起業家精神を持つ経営者を社内に引き留める鍵になる。
話題はM&Aから経営全般のアドバイスへと広がった。亀山会長は、起業初期の経営者に対して「利益は残さなくてもいいから、運転資金だけは確保しろ」と説く。
税務上の利益は出ないほうが有利な面もあるが、それは前提として運転資金が回っていればの話だ。亀山会長が紹介したのは、SE派遣会社の例。月50万円で採用したエンジニアを月100万円で派遣して儲かっているのに、給料先払い・入金後払いの構造で売上が伸びれば伸びるほど資金繰りが厳しくなる。
「人生リスクを取らないといけないって亀山さん言ったじゃないですか、と言うわけ。でもそれはリスクじゃなくて暴走で無謀。明らかに滅亡が決まってる」
調達のメドが立っているなら拡大すればいい。だがメドなしで採用を増やすのは経営判断ではなく自滅だ、というのが亀山会長の指摘である。一方で、収入のメドが立っているビジネス(特定プラットフォームからの安定収入など)であれば、保守的すぎる経営も成長機会を逃すリスクがある。バランス感覚こそが、起業初期の経営者に求められる最大のスキルだといえる。
亀山会長のM&A戦略を貫くのは、「経営者という人材を中心に据える」という発想だ。51%+アーンアウトの設計、シナジーを定量化して価格に転化する判断、税引後利益で考える非上場企業ならではの強み、そして金欲を止めるルール外のインセンティブ。これらはすべて、起業家精神を持つ経営者を取り込み、その能力を最大化するための仕組みである。
買収巧者と自社開発巧者を分けるものは、創業者の性格やカルチャーだけではない。「自社にどんな人材を集め、どう動いてもらうか」という設計思想そのものが、M&A戦略の出発点なのだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです

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