DMMビットコインから約500億円相当の流出が発生。連絡から3時間で補填を即決した亀山敬司会長が、その時の心境、BS経営の重要性、そして危機を乗り越える経営哲学を率直に語った。
DMMビットコインから約500億円相当のビットコインが流出したニュースは、業界に大きな衝撃を与えました。当事者であるDMM創業者・亀山敬司会長は、事件発生時の状況をこう振り返ります。
「『3時間後ぐらいに多分ニュースに出るかと思います』と連絡が来て、それまでに会社としての方針を出さなきゃいけない。『480何億なりそうです、どうしたらいいの』と聞いたら『補填してもらいたいです』と。DMMの看板を背負っている上は、ここは信用を取るしかない。『じゃあ用意するからリリースしていいよ』と」
グループ会社から保証する判断は、わずか2〜3分で下されたといいます。亀山氏は会社のBS(バランスシート)を理解しており、「基本的には払えるな」と判断できたことが即断の背景にありました。借入や外部調達は不要で、グループ内の資金で対応可能だったのです。
亀山氏は今回の立場を「被害者でもあり加害者でもある」と表現します。盗まれた被害者である一方、ユーザーに迷惑をかけた加害者でもあるという認識です。
現状については以下のように説明しています。
- ビットコインの確保自体はできている
- 値上がりにより流出時480億円程度だったものが現在500億円規模に
- 現金での払い戻しは原則可能
- 他のビットコイン口座への移動はまだできていない状態
- 現場では原因究明と対応に追われている
「100%できてないんだけど、とりあえず皆さんのビットコインはちゃんと確保してますんで、そこだけご安心ください」とユーザーに呼びかけました。
事件後、亀山氏のもとには様々なメッセージが届いたといいます。
「上場会社の社長の知り合いから『もしあれだったら50億ぐらいなら融資できますから』と。エンジニア出しましょうかとか、セキュリティ協力できますとか。困った時に助けてくれる人がいるのはありがたい」
一方で、対照的なエピソードも明かされました。ある地方銀行から太陽光発電関連で約10億円を借りており、お付き合いで5億円ほどを預金として置いていた件です。
「資金を集めて増資する話で『移動させます』と言ったら、『原因がはっきりするまでお待ちください』と。預金担保にしているわけでもないのに動かせない。さすがにそこはちょっと電話してね。『そこは銀行怖くて預けられないから全部引き上げろ』と言いましたよ」
50億円融資を申し出てくれる人がいる一方、付き合いで預けた5億円さえ動かせなくなる銀行もある——危機の場面で、対応の差がくっきりと現れたといいます。
金額面では過去最大の損失となるこの事件。しかし亀山氏の心境は意外なものでした。
「『今までで1番の危機ですね』と言われるけど、それで言うと5、6番目かなぐらいのイメージ。金額面では1番大きいけど、過去に友達が死んじゃったとか、信頼してた奴に金を盗まれたとか、そういうショックに比べればそれほど」
人生で経験してきた様々な辛い出来事と比較することで、相対的に冷静さを保てたといいます。
亀山氏が繰り返し語ったのが、経営における「一寸先は闇」という考え方です。
「ずっと未来が明るいと思っていても、何が起こるか分かんないのが経営。最近だと角川さんがハッカーにやられたり、人ごとじゃなくどのIT企業でもある話。やっぱり一寸先は闇だから、ある程度資金的なことは用意しとこうとか、闇にならないように別の光を作ろうと思って新規事業をやるとか」
ビデオレンタル店がダメになる前にインターネット事業に進出したように、現事業がダメになる前に新規事業を作る——この考え方が、DMMの多角化の根底にあるといいます。
「『武士道とは死ぬことと見つけたり』じゃないけど、常に死んでもいいような覚悟を持って考えていた方が、何か起きた時にも動じない」
経営者間では売上や利益でマウントを取り合う場面も多いですが、亀山氏が重視するのはBS(バランスシート)の視点です。
「PLだけ見てると黒字倒産もありうる。売掛金だらけが貸し倒れして潰れる会社、ゼネコンの下請けで上が潰れて連鎖倒産、不動産でバブルが弾けて改正で潰れるケースもある。一旦下がっても維持できるキャッシュをある程度置いとかないと長くやれない」
バブルでも浮かれすぎて全額投資せず、PLとBSの両方を見ながらバランスを考える——それが亀山流の財務観です。
「結局今回のことに関しては、子会社だけで負担しきれない金額だった。グループ全体としての資金的なものとPLは常に見てる感じかな」
グループ各社には決済権が委ねられており、亀山氏自身がビットコインの運用詳細まで把握していたわけではないといいます。
「ハッシュだのビットコインだのウェブスリーだの、俺あんま分かってないからね。任せていかないとこれだけ大きくなると成り立たない。任せていくことが前提じゃないと、いろんなことはできない」
それでも、グループ全体の資金体制があるからこそ、特大の想定外にも対応できた——今回の事件は、亀山流経営哲学が試される場面となりました。
約500億円という巨額の流出事件を、わずか3時間で補填決断するという経営判断。その背景には、長年積み上げてきたBSの強さと、「一寸先は闇」を前提とした備えの哲学がありました。
「DMM全体としては通常通り経営してますんでご心配なく。取引先の方もちゃんとお金払いますから。徐々に解決してきますんで、皆さん本当に申し訳ありませんでした」と亀山氏は締めくくりました。
好調な時こそPLだけでなくBSを見つめ、想定外に備える——多くの経営者にとって示唆に富むメッセージとなった対談でした。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
