DMM.com創業者・亀山敬司会長が、中小企業の生き残り方をテーマに語る。大手が参入しにくい領域での戦い方、義理人情と合理性のバランス、財布の中身に応じた経営判断、人材への信頼と内部統制まで、実体験に基づく経営哲学を披露する。
DMM.comはイメージとしては大企業に近いが、亀山敬司会長自身は「中の上ぐらいの規模感」「ノリ的には中小企業」と語る。スタートアップの寄せ集めのような形で、小さなチームを束ねる経営スタイルを今も続けているという。本記事では、その亀山会長に「中小企業の生き残り方」をテーマに話を聞いた内容を再構成する。
中小企業には大きく分けて二つのタイプがある。創業者が一から立ち上げたタイプと、親や祖父の代から続く二代目・三代目のタイプだ。
亀山会長によれば、後者の場合、すでに10まで作られた事業を100に伸ばすフェーズにあるため、真面目にやればなんとかなる。むしろ新しいことに手を出しすぎると、せっかく稼いだお金を失うリスクが大きい。
「やるとしたら、今の業種に対してITとかAIを組み合わせるぐらいにしといた方が無難」
ゼロから企業を立ち上げてきた経験がない二代目以降は、カオスを受け入れる筋肉が育っていない。であれば、既存事業を守りながらテクノロジーで補強する方向に舵を切る方が現実的だという。
「とりあえず大手がこなさそうなとこ」――これが亀山流の生き残り戦略の基本だ。
かつてはITそのものが大手の苦手領域だったため、堀江貴文氏や楽天、Apple、Yahoo!といった企業が新しい時代の担い手として成長できた。しかし現代はITもAIもクロウトたちが集まり、すでに資金も人材も大手側に偏っている。スタートアップは大手に飲まれる前に潰されるか、M&Aされるかのパターンが増えた。
だからこそ、地方の農業の強みを活かす、飲食のように大手が市場規模で参入しにくい領域に行く、といった「ゲリラ戦」が王道になる。
「飲食店なんて、そんな市場行かないでってなるじゃない。せいぜい食べログが評価するぐらい。そういう方が実際戦いやすいし、地方で会社が来ないなってとこでもいい」
戦う領域の見極めは「財布の中身」で決まると亀山会長は言う。
「財布の中に1億入ってたら1億の仕事、10億入ってたら10億の仕事ができる。1億しかないのに10億の仕事にチャレンジすると、最後に大手の10億ぐらい簡単に出すような会社と戦うことになる」
中小企業は動きが早いが、後から大手の物量に押されると勝てない。だからこそ、自分の財布で戦える領域を選ぶことが重要になる。
また、借入金についても「金は入っているが無難にしておかないといけない」と釘を刺す。調子が良いうちは銀行は貸してくれるが、悪くなれば剥がされる。そのリスクを常に頭に置く必要がある。
仕事はうまくいかなくても、うまくいっても金が足りなくなる、と亀山会長は語る。
サブスクモデルなら先行して広告投資する必要があり、初年度は赤字で集客するケースも多い。売掛が増えれば運転資金が必要になる。売上が伸びるほど資金が足りなくなるのだ。
DMMも途中からは借入ではなくキャッシュで回す方針に切り替えた。「もし当時いっぱい借りてたら、今のDMMはなかったかもしれない。リスク負かしすぎて潰れていたか、10倍になっていたかもしれない」と振り返る。
亀山会長の経営スタンスは、IT業界のフラットでフランクな文化とは少し異なる。38歳ぐらいまでは「義理と人情の世界」「社員は家族」という感覚だったという。
インターネットの世界に入った当初、エンジニアの30代を「使えない」と切り捨てる発想に面食らった経験もある。「いやいや、それはそいつを面倒見るのがお前の仕事だろ」と思っていたが、その後トレンドを学びながら、徐々に実力主義の要素も取り入れていった。
「うちは終身雇用だけど、そのためにはいろんな業種をやっていく。年功序列でやるわけじゃないし、定期昇給でもない。そん時の力に応じた収入になる」
社員を手放したくないからこそ、新しい事業領域へとピボットしながら一緒にやっていく――それがDMM流の「家族経営とスタートアップ」のハイブリッドだ。
資金繰りや財務については早めに信頼できる人材に任せ、亀山会長自身は「いくら出せる?」と聞くだけだったという。「お母さんにお小遣い聞くみたいな感じ」と笑う。
ただし、信頼だけでは事故が起きることも経験した。営業領域などで横領のような事故が起きたケースもあり、現在では数年に一度の内部監査でチェックする体制を導入している。
「目の前にお金があるのに頑張れよっていうのは、結構ハードル高い。本当は人は信頼すべきだと思っていたが、緩すぎた面もあった」
接待についても明確なルールがある。DMMでは接待を「するのは自由だが、受けるのは禁止」。受けることで正常なビジネス判断ができなくなり、ワイロに発展するリスクもあるからだ。
人情に流されないためのルールは、自分自身にも適用する。
田舎にいた頃は同級生に仕事を出していたが、量が増えてきた段階で東京で見積もりを取り、相見積もり方式に切り替えた。「それで切れる関係なら、そもそも友達じゃない」と割り切る。
家族経営についても辛口だ。「自分の従兄弟だからって会社に入れるやつ、もうダメだね」。コネで入った時点で実力ではなくなり、他の社員の士気に影響する。会社へのロイヤリティを保つためには、優先順位を明確にする必要がある。
亀山会長は、日本社会の衰退の一因として「対文化」「骨文化」「ナアナア文化」を挙げる。
地方の商店街、組合同士の馴れ合い――これらは地方の生き残り方として一定の意味があるが、外から競合が入ってきた時に対抗できない。健全な成長を促さない構造だ。
経営者の会合に出ても、「いい話聞きました」と言いながら結局実行しない人がほとんど。「スタートアップなら10人に1人は実行するが、そういう会だと100人に1人もやらない。ちゃんとやるだけで無双できる可能性がある」
50歳までは引きこもりのように世間に出ず、社内の経営に集中していた亀山会長だが、近年は対外的な発信を増やしている。
「年を取るといいよ。少々ぼやいたことを言ってもありがたがられる。若い奴が失礼な言い方してきても気にならない。本質的な話ができる」
中小企業が生き残るために必要なのは、大手が来ない領域を選ぶ嗅覚、財布の中身に応じた身の丈経営、人を信頼しつつもルールで規律を保つバランス感覚、そしてナアナアに流されない覚悟――亀山会長の言葉からは、長年の実践に裏打ちされた経営哲学が伝わってきた。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
