東大・東京藝大出身で、学生時代に約6億円で会社を売却した経歴を持つ霜山明彦氏が、グループ経営のあり方をDMM創業者・亀山敬司氏に相談。緩いルール、人ありきのカオス経営、そして「別れ方」の美学について語り合った。
霜山明彦氏は広島県出身。東京大学に進学した後、インドで瞑想修行をするなど自由な学生生活を送っていたが、資金が尽きかけた大学2年生のときにビットコインの可能性に着目した。仮想通貨取引所への顧客送客を行う「コイン予託」を立ち上げ、DMM Bitcoinなど複数の仮想通貨取引所を相手に事業を展開。大学4年生のとき、その会社を約6億円で売却した。
元々は宗教学者を志していたという霜山氏は、経済的な独立を達成した後、「人間はなぜ美しいものを作り続けるのか」という問いを掘り下げるため、東京藝術大学大学院に進学。アーティスト活動と会社経営を並行する独自のスタイルを築いていった。
オフィスビル4フロアを借り、地下1階をアトリエ、3〜5階をオフィスとして使用。アトリエに3段ベッドを置いて寝泊まりし、夜は絵を描き、昼間は事業を回す生活を続けてきたという。
現在、霜山氏は自己資本で先人ホールディングスを経営し、その傘下で複数の事業会社を束ねている。掲げているテーマは「藝の融合」。東大出身者を中心に、藝大生やプロを目指していたアスリートなど、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっているという。
グループ事業は大きく4つ。主力のデジタルマーケティング事業、AI開発事業、アート事業、そしてインキュベーション(投資)事業である。稼ぎ頭はデジタルマーケティングで、有名コインやIG証券、化粧品ブランドなどのコンバージョン型マーケティング支援を、社内開発したシステムで自動化して提供。代理店向けの外販も行っている。
アート事業や投資事業は、このマーケティング事業で得た利益を原資にして展開している構図だ。
霜山氏が亀山敬司氏に投げかけたのは、次のような問いだった。
「亀山さんのようなグループ経営をやっていきたい。けれども、自分の人間性の器と事業の数を、どうすれば同時に広げていけるのか」
デジタルマーケティング業界は人の入れ替わりが激しく、独立や転職も多い。そのなかで霜山氏のグループは離職率が比較的低いといい、その要因として「面白い機会を、トップがその人の人生と紐づけて与えられるかどうか」が最も重要だと霜山氏は考えている。
相談の場には、霜山氏のグループの一翼を担う五藤氏(仮)も同席。五藤氏は学生時代にカードゲームで全国1位を複数種目で獲得した経歴を持ち、昨年起業して現在は新卒採用領域のサービスを開発している。
五藤氏の事業は、企業ごとに特化した面接対策をAIアバターと一緒に行える、就活生向けサービスだ。学生は無料で利用でき、企業ごとの面接練習データが蓄積されることで、相性の良い企業と就活生がマッチングされる仕組みになっている。
2025年12月には東大などのトップ層を150名規模で集めるイベントを開催。マネタイズは企業側からの採用成功報酬(年収の30%程度)と、複数回開催のイベント参加費の二本立てだ。
霜山氏のグループとは、五藤氏の会社の株を一部持つ形で連携。経営的なアドバイスも日常的に受けており、意見が分かれた場合は「最終的には霜山側のマジョリティが優先する」というシンプルな取り決めになっている。
亀山氏が最初に指摘したのは、霜山氏の真面目さだった。
「話を聞いていると、すごく真面目なのが分かる。だからもうちょっと緩くやった方がいい」
亀山氏は、自身のグループ経営を「ほとんどカオス」と表現する。M&Aの基準にしても、表向きは「何パーセント以上ならやる」といったルールがありそうに見えても、実態は人によって対応を変えているという。
「人によって個性が違うから、給料がたくさん欲しい人もいれば、そうじゃない人もいる。たまたま出会った相手が何を求めているかに応えようとすると、前にやっていたことと違うことをやらなきゃいけない。そういう時はもう、変えちゃおうかという話」
一見すると不公平に見えるが、亀山氏は「そこはもう『てへっ』って笑って誤魔化す」と言う。真面目すぎるとごまかせず、矛盾と正面から向き合ってしまって苦しくなる。「笑ってごまかす」スキルこそが、緩い組織を維持する鍵だというわけだ。
亀山氏がDMMで重視しているルールは、極端に単純化されている。
「うちらが言うのは『金くすねるな』『詐欺するな』、この辺だけ。遅刻するなとか、隠れてタバコを吸うなとか、部屋で寝るなとか、そういうのは良くはないけれど、完全な掟ではない」
世界共通の「人を殺してはいけない」が法律だとすれば、それ以外は条例レベル――文化や事業ごとに違っていい、という考え方だ。営業組織で多少体育会系の文化が育っていても、そこで働く人が楽しそうにしていれば「俺の好みではないけれど、まぁありか」と受け入れる。
そうやって幅を広げておくことで、結果として組織に多様な人材を抱えられるようになる、というのが亀山氏の経験則である。
霜山氏と五藤氏の間で、出資比率を決める際にポーカーのヘッズアップ(1対1勝負)を行ったというエピソードも紹介された。1分間か2分間だけ対戦し、その時点でのスタックで比率を決めるというユニークな方法だ。
さらに、最終局面でジャンケンに切り替えた場面もあったという。「2,000万なのか3,000万なのか、もう折り合いが取れないからジャンケンで」と決めたと霜山氏は明かす。
この話に亀山氏も共感を示した。「勝ったらすごく良いし、負けても最悪『ちょっといいか』ぐらい。一緒にやることは前提で、10の利益のうち向こうに9行くか、こっちに1だけ来るかの違いだから、最後はジャンケンでいい」
上場企業ではこうした決め方は通用しないが、未上場でクローズドな関係性のなかでは、合理一辺倒よりも納得感を優先した方が、その後の関係が長続きするという発想だ。
亀山氏が繰り返し強調したのは「人との別れ方」の重要性だった。
スタートアップへの出資が思うようにいかなくなったとき、亀山氏は「これ以上資金は入れられない」と早めに伝える。一方で、創業者がまだ可能性を信じている場合は「畳みたいなら畳めばいいし、続けるなら最後まで責任を持って渡すから持っていけ」という選択肢を提示するという。
「何にしても、付き合った人間からなるべく悪口を言われないようにする。敵を作らない。DMMを売却した人が『こんなに搾取された』と言って回ったら、次の出資話は来なくなる。逆に一緒にやったやつが良いように言ってくれたら、また次の話が来る」
霜山氏が「では裏切られた場合はどうするか」と尋ねると、亀山氏は「100歩譲って『しゃあねえか』で終わらせる」と即答した。仕返しをしても得にならない。反論すれば相手も反論し、第三者まで巻き込んだ消耗戦になり、事実と異なる悪評が広がるリスクすらある。
「負けるが勝ち、後は語らず。それで終わり」――この姿勢が、長期的な人脈と次の機会を運んでくる、というのが亀山氏の結論だ。
話題は事業立ち上げの動機にも及んだ。亀山氏は自身が立ち上げてきた事業について、こう語った。
「儲かるかどうかでやっていた。ビデオレンタルが儲かりそうだなとか、インターネットになったら配信になるだろうなとか。便利になるだけだから、雨の日に出かけなくていいなら、みんな便利なものを使うだろう、という発想」
社会課題の解決という言葉は、亀山氏の口からはあまり出てこない。むしろ「便利になることが人生の幸せにつながるかは微妙な話」「便利なものは課題を解決する一方で、新しい課題を生み出す」と冷静に距離を置く。
ビデオレンタル時代のヤンキーたちに「インターネットが世界を変える」と語っても響かなかった、というエピソードも披露。「会員数を増やしたら給料を上げる」「彼女にいいものを買ってやれ」といった身近な動機の方が、現場は動くというのが亀山氏の経験則だ。
「みんな最初は身近な家族や恋人を幸せにしたいところから始まればいい。社会的に良いものになっていくのは、その後に付いてくる」
そう語る亀山氏に、霜山氏は「言っておいた方が得かもしれないので、自分も社会課題を語ろうかな」と苦笑いで応じ、収録は終わった。
緩いルール、人によって変わる対応、ジャンケンで決める出資比率、別れ際の譲歩――亀山敬司氏が語ったのは、合理一辺倒の経営論ではなく「人ありきのカオスを許容する経営」だった。グループ経営を志す若手経営者にとって、組織の作り方を考え直すヒントが詰まった対話となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
