M&A経験者の勝木氏が、令和世代に広がるソロプレナー志向や2段階イグジット戦略、ソロで生きるための感性と戦略について語る。組織マネジメントの難化や生成AI時代の個人の可能性、お金と幸福の関係まで、現代の起業家像を多角的に掘り下げた対談。
クリスマス前日、自宅で開かれた食事会の場で、M&A経験者の勝木氏とMA CAMPの対談が始まった。テーマは、勝木氏が最近提唱する「ソロプレナー最強説」。きっかけは、MA CAMPに出演したことで届くようになった若い世代からのキャリア相談や事業相談だったという。
勝木氏が感じているのは、若手起業家の価値観の変化だ。「すごい経営者の発言があまり入ってこない」「時価総額や売上を最大化してゴリゴリのマッチョになるよりも、シュッと身軽な細マッチョでありたい」。そんな傾向が令和世代に広がっているという。
勝木氏自身も「めちゃくちゃ偉大な経営者になりたいというよりは、より良い人生を生きたい。その手段の一つとして起業している」と語る。こうしたスタンスを持つ起業家がじわじわと増えているのが現状だ。
M&Aに対する意欲も、若い世代では従来と異なる。「すごい経営者からしたら『なんでこのタイミングで売っちゃうの』というタイミングでも売りたくなる」のがZ世代・令和世代の特徴だという。
勝木氏はその背景を、金銭的な理由だけでなく「社会的評価の理由、実績の理由」にあると分析する。
直近の事例として挙げたのが、東大発・松尾研発のAIベンチャーが大手企業に買収されたケース。バリュエーション10億円で株式の半分を渡し、創業者には数億円の現金が入る。残り50%を保有しながら、上場企業の傘下で再びスイングバイIPOを狙うパターンだ。
「最初の時点で2〜3億円前後あれば、人生におけるお金の不安はなくなる。その状態で次なるチャレンジに向かう。お金の理由とある程度の実績の理由、その上でハイキックを狙っていく人生戦略が高度化している」と勝木氏は語る。批判的な意見もあるが、キャリアや人生の難易度が上がる時代において「最適化された生存戦略」だと見ている。
かつては大手企業に入れば安泰、コンサルブームの時代は汎用スキルを身につければ通用する、と言われてきた。しかし今は、超一流のトップティア戦略コンサルに入っても「人生上がり」とは言えない。むしろトップファームからスタートアップに移ってうまくいかないケースも顕在化しているという。
そこで求められるのが、個人として自立した存在になること。具体的には「0から立ち上げて、ある程度の収益化をして、ちゃんとした会社に売却した」という客観的な証明だ。その手段として最も分かりやすいのがM&Aであり、それも段階的なイグジット――2段階イグジットへと進化している。
勝木氏の身近にも、社員わずかのソロプレナーが大企業に買収された事例があるという。最初のイグジットで創業者に約10億円が入り、上場企業の子会社になった段階で正社員を増やしていく。リスクを分散しながら拡大する形だ。
なぜ「個人で行けるところまで行く」という選択が広がるのか。背景にあるのは、社員を雇うことのストレスだ。
「皆さん表向きは良いと思うんですよね。でもなかなかうまくいっていないところは本当に多い。社員同士もあるし、役員同士もある」。SNSの普及で他社の良いところが見えやすくなり「隣の芝が青い症候群」が強まっていることに加え、従業員の権利拡大もこの数年で大きく進んだ。
「今ほど組織マネジメントが難しい時代はない」。中間管理職がバズゲーム化していると言われる中、ソロプレナーへの注目はさらに高まっていくと勝木氏は予測する。
もう一つの大きな潮流が、生成AIによる個人の能力拡張だ。
従来のソロプレナーはコンテンツ発信者やクリエイターエコノミー寄りだったが、これからは「個人でSaaSやプロダクトを開発する人」が出てくると勝木氏は見る。エンジニア組織が縮小し、優秀なプロダクトマネージャーがコードまで書いて1人で導入まで完結させる――そうした事例がアメリカで現れているという。
勝木氏自身は当面社員を雇うつもりはないが、その代わりに「雇用されない独立個人を増やす」ことで社会貢献したいと考えている。雇用に向いていない人が雇用されている現実があり、経営でも雇用でもない「独立個人」という選択肢を強化することに価値があるという立場だ。
この変化は人材紹介会社やベンチャーキャピタルにとって痛みを伴うが、テクノロジーの流れは止まらない。「時代の常識や定説を疑うところからイノベーションは生まれる。全否定せず、そういう文脈もあるんだと理解するのが良い」。
話題は「ソロプレナー」という社会記号の力にも及んだ。「1人企業」よりも「ソロプレナー」と呼ぶ方がかっこよく、新たな概念が人を動かす。
海外発祥のソロプレナーに加え、勝木氏が注目するのが、最近フォーブスでも取り上げられた「カルチャープレナー」という概念だ。LVMHが日本の職人とコラボするように、日本のカルチャーは海外で「クール」と評価されている。村上隆氏のフィギュアが欧州の富裕層に高額で買われるように、日本的なものを理解していること自体がステータスとなる時代だ。
「テクノロジー × 日本的カルチャーというナラティブ × グローバル」という掛け算は、テックベンチャー並みのスケールに到達する可能性がある。日本市場が約1億人なのに対し、世界には80億人の市場が広がる。スモールビジネスでも、グローバルを前提にすればスケールする時代が来ている。
起業のハードルが下がる中、普通に商売をして稼いでいるだけでは埋もれてしまう。
「フィギュアスケートで言えば、技術点だけじゃなくて芸術点もある。収益という技術点だけじゃなくて、自分の原体験と世の中の課題をどう組み合わせるかという芸術点が問われる」。
勝木氏のもとには「めっちゃ儲かっているのに悩んでいる」という相談も届く。誰からも比較されないコモディティであることが辛いのだ。日本人は「みんなと同じが良い」と感じる一方で、ちょっとした差も求める複雑さを持つ。インスタ時代には、ビジュアルでもさりげなく差を見せる感性が問われる。
令和的な感性の象徴が「しなやかさ」だと勝木氏は言う。露骨に時価総額最大化や上場を叫ぶ起業家は減り、しなやかに事業と人生を両立させるスタイルへ。長年の経営者も、若い優秀な人材を採用するうえで、この「令和理解」が不可欠になる。
対談は、ソロプレナーに必要な自己理解の難しさにも及んだ。マウンティングや嫉妬、コンプレックスといったネガティブな感情に向き合うことが必要だが、そこまで踏み込んでくれるキャリアコーチは少ない。
勝木氏自身は、幼少期から本や小説を多読してきたことで、物事や感情を多角的に見つめる力が育ったという。「ビジネス書は読まなくていいと言う人もいるが、一般的なビジネスを知るためにこそ読む意味がある。常識を知らないと、自分のオリジナリティがどこにあるかも分からない」。
「ちょっと普通より変わっているくらい」が、共感を得られる絶妙なポジションだという。だからこそ、大企業や普通の会社員経験は決して悪いものではない――勝木氏はそう語る。
MA CAMP側からは「YouTubeが好きで、反応がすぐ返ってくることが好き」というスタンスが共有された。これに対し勝木氏は、「経営の面倒なことから離れる方が、はるかにクリエイティビティが発揮される」と提案する。
クリエイター系の経営者にCOO的な右腕がいるケースは多い。マザーハウスやチームラボもその例だ。「自分に合いそうな人や、過去問のような事例をストックしていくのは大事」。生成AIに「マザーハウス、チームラボ以外で5つ出して」と聞けば候補が出てくる時代でもある。
動画配信を続けていると、1週間前の自分と意見が変わってしまうことがある。それでも勝木氏は「人間っぽくて良い」と肯定する。
ただし、自分が出した答えに対して「本当にそうか」を何度も問い直すこと、3年後・10年後の時間軸から見直すこと、複数の観点から検証すること――これらを「戦略的に考える」と勝木氏は表現する。
「家に帰ってゆっくり紙に書き出しながら考える時間はとても大事」。ADHD的な傾向についても、「エンジンの強さという過集中のメリットだけが活きる仕掛けをつくる」ことを勧める。
「会社や個人のミッションが、実は自分の足りないところも含めて開示することで、誰かの行動のきっかけになることなのかもしれない」。MA CAMP側のこうした内省に、勝木氏は「失敗経験のストックを増やすという見方を変えれば、成功体験よりも価値があるかもしれない」と応じる。
失敗図鑑や倒産図鑑のように、ネガティブに捉えられているものをポジティブに転換できれば「人生無敵」になる。100歳まで生きる時代、80歳でも起業しているはず――そう考えれば、今の小さな失敗や調達の判断ミスは大したことではない。
勝木氏が最も伝えたかったメッセージが、ここに集約されている。「じわじわ成長して、じわじわ自分の力が上がっていく――この緩やかな右肩上がりがおすすめ」。
経済も2〜3%のマイルドなインフレと成長が最も心地よく、世界にとっても良いとされる。中央銀行が景気の過熱を抑えるように、人間も急激な乱高下より、じわじわと見方が上がっていく方が健全だ。MA CAMP側はまだ27歳。「世の中の27歳はこんな経験をしていない、だいぶ先走っている」と勝木氏は評価する。
最後に話題はお金と幸福の関係に及んだ。勝木氏は売却以降、「お金というしがらみが減った」と語る。お金がめちゃくちゃ増えることによる幸福度の上昇よりも、「お金が足りない状況がない」ことが幸福に大きく影響するという感覚だ。
ダニエル・カーネマンの研究も、年収800万円で頭打ちになるという従来の説を本人が修正したことで知られる。子育てや結婚など人生の悩みは、根本原因をたどると多くがお金に行き着く。「お金は幸福最大化というより、不幸を回避する最強の道具」。
20代の若手起業家へのアドバイスとしては、「貯金するな」という極論は耳目を集めるが、ある程度の自己資本がなければ銀行の創業融資も受けにくい。挑戦のためにこそお金が必要になるケースもある。「貯金するな」と発信する超人クラスの言葉をそのまま飲み込むのではなく、ポジショントークだらけの世界の中で「どう落とし穴に落ちずに歩くか」というゲームとして捉える視点が重要だ。
緩やかな右肩上がり、ソロプレナーの可能性、しなやかな令和的経営――1時間に及んだクリスマス前日の対談は、現代の起業家像を多角的に照らし出す内容となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
