M&A経験を持つ東大出身の若手起業家3人が、売却後の悩み、共同創業時の株式設計、結婚観、そして経営者として最後までやり切る覚悟について本音で語り合った座談会の記録。
M&Aを経験した東大出身の若手起業家3人による座談会。売却後に直面するリアルな悩み、共同創業時の落とし穴、エンジニア採用と育成、そしてプライベートとの両立まで、普段は語られない本音が飛び交う対話となった。
座談会冒頭、それぞれの個人的な悩みが語られた。
ある参加者は「いかに早く事業をぶち上げるか、それしか考えていない」と話す。プライベートと仕事が完全に一体化しているため、自分の悩みはイコール仕事の悩みになっているという。
本人いわく、本当に伸びていくビジネスには分かりやすいパターンがあるそうだ。
「3年で売上30億円までいく事業は、その後バッと伸びて100億、1000億に到達する確率が高い」
しかし「3年で30億」は決して簡単ではない。エニカのエンタメ領域、あるいはM&Aといった事例を見ると、できている人はできている。「時代が悪い」と諦めそうになるたびに、そうした成功例が頭をよぎり、結局は自分の実力不足に行き着くという。
そのため既存事業を回す傍ら、1日1〜2時間は新規事業のリサーチに時間を割いている。
M&Aで会社を売却した後の経営に関する悩みも共有された。
売却すれば、買い手企業に対して既存事業の成長や利益について説明責任が生じる。当然そちらに時間と労力を投じなければならない。一方で、自分自身が成長するためには新規事業を見つけ続ける必要もある。この両立は容易ではない。
「同世代の社長に会うと、意味が分からないくらい高い目標を語る。でも自分は取締役会や戦略会議で直近の数字や今期の計画の説明に追われ、新規事業のための活動報告がしづらい」
別の参加者も「予実管理がめちゃくちゃ厳しくなった」と続ける。報告のために資料を作る時間が増え、当時は「こんなことやっても1円にもならんやんけ」とぶち切れていたが、2年半経つと慣れてしまったという。
パワーポイントやエクセルを作るのが速くなる。それは確かに能力ではある。しかし「これがサラリーマンになるということか」と気づき、起業家の魂が薄れていく感覚にヒヤッとする瞬間もある。半年経ったばかりの経営者は「マジで意識的に色々考えていないと、起業家のマインドを失ってしまう」と警鐘を鳴らした。
一方、売却していない経営者にとっては、外部から取り締まってくれる株主や社外取締役の存在がない点が悩みになる。
「長期のために投資すべきだと思ったら、反対されてもやった方がいい場合もある。今のフェーズなら問題ないが、会社が大きくなったら暴走する可能性もある」
この点について売却経験者は、大企業の中に入って2年半様々な業務をやっているのは将来の財産になるという。何万人も従業員のいる会社のルールやガバナンスを、内側から知っているかどうかは大きな差になる。
上場企業に売却した後、その上場企業の経営に携わるキャリアパスは、自身のキャリアを「飛び級」できる可能性があると評価された。
M&AバンクのSNS発信でも紹介されているが、これは通常の経営キャリアでは得られない経験を凝縮して得られる選択肢になる。
ただし問題は再現性が低いこと。親会社の経営層に招き入れられるかどうかは、買収企業の文化やカルチャー次第。売却前にそこを見極められるかが鍵になる。「そもそも経営に関わりたいかどうか」という本人の意思も含め、人によってベストな選択肢は変わる。
話題は事業ポートフォリオに移った。
「メディアを作る筋肉と、組織やいわゆる労働集約的な事業を作る筋肉は全然違う」
ダイアリーチャンネルで就活生向けメディアを運営しつつ、今年から人材紹介事業を別で立ち上げた経営者は、創業者の志向性が違う場合は組織を作らなければ事業は伸びないと語る。M&A CAMPのモデルとしてM&A仲介・FA領域を真似ようとしているが、自分にその事業を伸ばす適性がそこまでないのではないか、という自己嫌悪もあるという。
この悩みに対して別の参加者は、汎用性のある筋肉を鍛えるべきだという。
「メディアの能力もSaaSに使う能力も、社会では広く役立つ。両方鍛えるマインドで行けばいい。今ゼロの状態だと理解していることがすごく大事。ゼロだと分かっていればスポンジのように吸収できる」
自分が天狗になっていると、インターン生のアドバイスにも「ガキが」と思ってしまうが、ゼロ前提なら素直に学べる。この姿勢の差が成長速度を分ける。
エンジニア組織の話題では、未経験の学生を育てるアプローチが紹介された。
採用ではなく育成。最初はProgateに登録してもらい、最低限を自走で学ぶ。そこで挫折するなら適性なし。クリアできた者には、ステップ・バイ・ステップで仕事を渡す。
「気づいたら何任せてもできる、みたいな感じになる。優秀な子は数か月で仕事を任せられるレベルまで育つ」
大学レベルとしては、東大に限らず早慶や同等の大学を出ていればポテンシャルはあるという。ただし向き不向きはある。重視するのは2つ。
1つは「没頭する能力」。やり始めたら気づいたら10時間経っているタイプ。
もう1つは意外にも「美的感覚」。授業のノートを綺麗に書くタイプは、ソースコードもインデントを揃えたり改行を入れたりと整理して書ける傾向があるという。
「ウェブサイトの画像が1ピクセルずれているのに気づくインターンがいる。本当に天才」と教育者側も舌を巻く逸材の存在も明かされた。
共同創業をめぐる経験談も核心的だった。大学時代に2人で起業した参加者は、エンジニアリング能力ゼロの状態からスタートした。Progateを試したところ自分に適性があると感じ、1日中没頭して1週間で全コースをマスター。「俺がエンジニアで、お前がCEOだ」と即座に住み分けを決めたという。
株式比率については、先輩経営者のアドバイスに従って「半々ではない」配分にした。
「最後に誰が責任を取るのかを、口約束ではなく資本の形として持っておいた方がいい。51:49でもいい、多少でもずらした方がいい」
さらに2回目の起業なら51:49どころか「6:4で渡すのもあり」という意見も出た。創業初期、経験のない人が経験のある人を後から招き入れるのは難しい。51:49で固めてしまうと、優秀な人が「なんでこいつが49持っているんだ」と感じて入ってこない。最初から優秀な人と組む前提なら、対等に近い比率で渡すのも合理的だ。
資本政策の話は、初期投資家の選び方にも及んだ。
「VCもエンジェルも、有名どころなら騙されることはない。ただエンジェルには悪徳もいる。バリュエーション3000万円で50%取って1500万円入れる、みたいな話が学生相手に持ちかけられることがある」
学生からすれば「1500万円もらえるなら」と魅力的に見えるが、まだ何も生み出していない会社にバリュエーション3000万円というのは構造的におかしい。情報がブラックボックス化されてきた時代から、TwitterなどSNSで相場感が共有されるようになり、東京のスタートアップ界隈ではリテラシーが上がってきている。一方で地方は依然として情報格差があり、出資側もリテラシーが低く意図せず搾取的な条件を提示している場合があるという。
後半、話題はプライベートに及んだ。
3人中2人は彼女がおらず、週7で働いているため出会いが構造的に存在しないと笑う。「朝9時から夜10時まで働いて、家に帰って8時間寝ると朝が来る。夢の中で出会うしかない」
一方、もう1人の参加者は近く結婚を控えていた。動機は2つ。
1つは、起業家の先輩で幸せそうな結婚をしている人があまり見当たらず、そのアンチテーゼを示したかったこと。
もう1つは、プロサッカー選手やプロ野球選手が早めに結婚するのと同じで、競技に集中できる体制を整えるためという発想だ。
「事業に全振りするために結婚する」
さらに本人は、ビジネスはフロー型でも、プライベートはストック型であるべきだと語る。事業をストック型に変えていきたい思いがある中で、まずプライベートからストック化を始めた、というロジックだった。
「結婚は企業より絶対に難しい。いわゆるPMI、文化の融合だから。事業はピボットできるけど結婚はピボットできない。前提ロックアップ期間無限」とM&A経験者ならではのジョークも飛び交った。
結婚観・パートナー観についても踏み込んだ意見が並んだ。
ある参加者は「干渉してこない人」を必要条件として挙げる。次に起業するならどうせ朝から晩まで働くため、それに対して何も言ってこないことが前提条件になるからだ。
別の参加者は、どん底にいる時に支えてくれる人がいいと話す。事業もお金も無くて病んでいた時期を共に乗り越えた経験は、結婚の決め手になるという。
また「自分がダサくなった時にダサいと言ってくれる人」「ダウンしている時に上げてくれる人」という意見もあり、抑える役割と上げる役割の両方を求める声もあった。
編集側の取材経験から得られた仮説として、こんな話も共有された。
「うまくいっている経営者夫婦の共通点は、旦那が遊んでいないこと。事業にフルコミットしている人は結婚生活もうまくいっている説。奥さんはどっしり構えつつ、束縛はしないが一定の緊張感のあるオーラを出している人が多い」
座談会の最後、M&Aを検討するような若手経営者へのアドバイスが語られた。
「やりたくても起業しない人が大半の中で、すでに挑戦している時点で素晴らしい。ここからうまくいくかどうかは、最後までやり切れるかどうかに尽きる。何個目かのビジネスでパンと当たることもあるから、ピボットや人の入れ替わりという苦しい局面でやめずにもう少し続けてみてほしい」
別の参加者は、賢いタイプほど自分の頭で考えすぎず行動量で勝負すべきだと語る。
「行動量に勝てるほど頭がいい人は本当にいない。やり切りなさいというアドバイスを、自分も同じことを言われていると流さずに真摯に受け止めてほしい。山もイチローも大谷さんも、全員『やれ』と言っている。それでもやらないのは合理的に考えておかしい」
そして売却を目指さないことの重要性も指摘された。
「売ろうと思って事業を考えると、思考がすごく狭くなる。小さい事業しかできなくなったり、チャレンジができなくなる。まず事業を大きくすることだけを考える方がいい。結果として選択肢は後からついてくる」
M&Aを経験した若手起業家ならではの率直な対話となった座談会だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
