民衆事業の買収を発表したポート社の春日社長に、上場後も伸び続けるためのM&A戦略、ポートフォリオ経営の考え方、買収判断の基準について聞いた。「伸ばせる自信がないM&Aは絶対にするな」と語る経営哲学とは。
M&A CAMP編集部です。今回は、民衆事業の買収を発表したばかりのポート株式会社・春日社長にお話を伺いました。新卒採用支援を起点に、エネルギー、ファイナンスへと事業領域を広げ、上場後も成長を続けるポート社。その背景には「伸ばせる自信がないM&Aは絶対にしない」という明確な哲学と、初期から多角化に挑んできた経営判断があります。本記事では、買収によるシナジーの捉え方、ポートフォリオ経営の真意、そしてデューデリジェンス(買収前の詳細調査)の段階で成長シナリオを描き切る重要性について、春日社長の言葉から紐解きます。
――今回の民衆事業の買収は、他事業への影響をどのように想定されていますか。
獲得した会員データに対して人材領域からクロスセルしていくといった動きはもちろんあります。ただ、明確に違った領域へのシナジーを意識してM&Aをすることはしていません。
どちらかというと、いい意味でいろんな領域での事業をやっているし、チャレンジをしているので、各事業の責任者からすれば「負けられない」という気持ちでより頑張る。これが大きい。
ビジネスモデルの大枠も似ています。制約支援事業、つまり企業の人材採用や販売促進活動の制約を支援するというコンセプトは一緒ですし、Webマーケティングを通じてユーザーを集めるという点も共通している。人材支援で大きいプロダクトをM&Aしてさらに強化されたことで、エネルギーやファイナンスのチームからしても「これも負けられない」となる。そうした相乗効果を狙う競争環境でやっています。
――人材事業かつメディア中心のビジネスは利益率が高い反面、毎年2倍といった成長は難しいイメージがあります。どこまで伸ばすイメージですか。
新卒の採用支援市場は大体1,400億円ぐらいあると思うので、少なくとも20%ぐらい取れば300億円ぐらいの売上が取れる。ソ単体で見てもそこぐらいまではまず行きたい。20代の転職マーケットに入っていけばさらに大きいので、社会人の入り口のところから順々にアプローチしていきたいと考えています。
――同じようなモデルで横展開しても意外と伸びないケースもありますが、なぜでしょうか。
やはり「近接性」だと思っています。新卒のビジネスをやっていて、例えば転職全体を始めると30代も40代も50代もいる市場になる。市場環境がまったく異なります。人材紹介でも、新卒と既卒・第二新卒に対するコンサルなら相性がいいんですが、30代40代のキャリア転職になるとミスマッチが起きる。だからこそ、いかに近接する領域から進めていくかが重要です。
第二新卒は意外とボリュームが大きい。転職する率も上がっていますし、20代の採用強化を各社が図っている。新卒もマーケットがもっと伸びる可能性があります。求人サイトに掲載していた会社は大体2万社ぐらいと言われていますが、人手不足で中途もバイトも取れないとなると「新卒を取りに行こう」となるからです。
――上場した後に伸び続ける会社になるために、何が違うと思いますか。
難しい問いですが、一つあると思っているのは、人材単独でIPOしてそこから全然違う領域に入っていくハードルはすごく高いということです。一部事業投資で赤字になってしまうと、本業の利益でその赤字を吸収して、それでも成長を求められる。多少厳しいなと思った瞬間に引いてしまう可能性がある。
我々の場合は未上場の創業3〜4年のタイミングからありとあらゆる領域に手を出してきました。上場直後の1〜2年は市場との対話があまり分かっていなかったこともあって、どんな領域でも買収するぐらいの形でやっていた。だから、新領域に対するアレルギーがない。たくさん失敗してきたところも大きいと思います。
今は人材、エネルギー、ファイナンスの3領域が大きいのですが、エネルギーは今期の第2四半期のタイミングで人材の売上高を抜きました。アレルギーがないというのが大前提としてあります。
――投資のポートフォリオを組むイメージですか。
そうですね。人材ビジネスのようにマッチングのビジネスでショットの売上もありますし、エネルギーであれば電気代のストック型ビジネスもある。さまざまなポートフォリオを作っていきたい。
初期からいろんな事業をやっていたのは、よくも悪くも社会的に根本的な課題があるマーケットでチャレンジしたいという思いがあったからです。人材は人手不足という根本的な課題があり、エネルギーも日本のエネルギー自給率が低いという問題がある。さまざまな社会の問題にチャレンジしたいという目的があります。
――いい意味で、ビビらない。
そうですね。あと、自分自身でM&Aのデューデリジェンス(買収前の財務・事業・法務などの詳細調査)に立ち会って、そもそも「伸ばせる」と思わないとM&Aしちゃいけないと思うんです。業績の積み増しは本当に悪だと思っていて、それでは来年の成長が本当に大変になる。毎年自分たちが考えている成長率を、このM&A案件でも達成できると思えないと危ない。
だから、見通しが立ったからM&Aをしたという順序が正しい。本当にそう思えていれば、怖いというよりはワクワクの方が勝ちます。
人材ビジネスをより伸ばすにあたって前提となるのは、集客力であり会員基盤です。会員基盤があれば、あとはマッチング率の勝負になる。この基盤を担保し続けられるかにすべてがかかっているので、担保力が上がったM&Aは、成長の可能性を確実にできる状況に近づくと考えています。
――買収すると短期的に会社全体の利益が減ることもあります。判断のラインはありますか。
2つあります。一つは、うちはIFRS(国際財務報告基準)なのでのれんは非償却。短期的な利益圧迫がM&Aによって生まれるものではない。
もう一つは、だからといって無視していいわけではなく、仮に日本基準に戻したときに償却コストが発生する。それを利益でしっかり「のれん負け」しない状態で出せるかというと、絶対できると思っているからM&Aをしている。のれんと利益でほぼトントンで利益にインパクトしないのであれば、あまりやらない方がいい。怖いですよね。
もう一つは、デューデリジェンス期間中に必ず「伸ばすシナリオ」を作り切ること。どういう施策を打てばさらに伸ばせるのか、自分の中で作ってあります。
――ポート社の成長戦略の中でM&Aは大きな柱です。
成功体験は会社の中にも蓄積されます。M&Aをして成長させていくことに対する前向きさが強くなる。うちの会社ではM&Aに対するポジティブな声が大前提で多いですし、参画したいという声も多い。就活会議の買収での成功体験などもすごく生きています。
若手経営者であればあるほど、ダイナミックであるべきだと思います。今回民衆事業を買収させていただきましたが、楽天グループさんも若いときから凄まじい成長を遂げている。ダイナミックな施策を打って大きくなっている。それを見ると、自分たちももっとレバレッジを大きくかけていかないといけないという焦りがあります。
失敗可能性はデューデリジェンスでできる限り潰し、それを超えるポジティブを見つけ、さらにポジティブに変えていく。これを積極的にやっていくには数をこなしていかないと体勢が生まれない。連続的にやっていく必要があります。PMI(買収後の統合プロセス)も戦闘を立ってやっていくべきだと思っています。
春日社長の話からは、上場後も伸び続ける会社に共通する条件が浮かび上がります。それは、新領域へのアレルギーをなくすために初期から多様な事業に挑戦してきた経験、買収案件においても「自社の成長率を達成できる」と確信できるまでデューデリジェンスでシナリオを描き切る規律、そしてのれんと利益のバランスを冷静に見極める財務感覚です。
「業績の積み増しは悪」「伸ばせると思えないM&Aはするな」という言葉は、M&Aを成長戦略の柱に据えるすべての経営者にとって、立ち戻るべき原則と言えるでしょう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
