スタートアップが長期で稼げるビジネスモデルを構築するために押さえるべき指標とは何か。継続率、客単価、変動原価率、CAC、固定費の5つの観点から自己診断する方法と、CXO採用や組織設計の最適なタイミングについて専門家が解説する。
スタートアップが長く稼ぎ続けるビジネスモデルを組み立てるには、感覚ではなく具体的な指標で自社の状態を把握する必要がある。本記事では、ビジネスモデルを因数分解した上で、それぞれの指標について「理想的な水準」と「要注意ライン」を明確にする方法を紹介する。投資家との対話やイグジット時の適正価格交渉にも直結する、共通言語としてのフレームワークである。
最初の指標は継続率である。理想は月次99%以上。98%以上であれば及第点と言えるが、99.7%や99.6%といった水準を下回ると、ビジネスの天井が早くやってくるという意識を持って組み立てる必要がある。
ただし例外もある。解約する顧客をオーガニックの流入でカバーできているビジネスモデルであれば、継続率が98%や97%であってもうまくいくケースは多い。獲得コストをかけずに新規顧客が入ってくる構造があるかどうかが鍵となる。
客単価については、パレートの法則で仕上がっているビジネスが多いという事実を踏まえる必要がある。完全な固定単価のSaaSではこの法則は当てはまらないが、ECやゲームなど顧客によって使う額が異なるプロダクトでは「2割の顧客で8割の売上が作られている」状態が一般的だ。
そのため、顧客を高単価客とその他に分けてマネジメントすることが重要になる。高単価客の継続率はどうか、高単価客の客単価はどうかを継続的にウォッチし、それに対するPDCAを回していく姿勢が求められる。
SaaSのプロダクトやネットで収支するプロダクトの場合、変動原価率は10%未満が望ましい。ビジネスを構築している時期にはカスタマーサクセスにコストが太めにかかり、20%程度になることもあるが、20%を超えていたら落第点だと考えておいた方がよい。
顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)の関係についても明確な基準がある。理想は「CAC×3 ≦ LTV」、すなわちLTVがCACの3倍以上であること。お金をかけた額の3倍以上の売上が見込める計算式が立たなければならないということだ。
なぜ「3倍」なのか。これは大体1年で顧客獲得コストをLTVで回収できる水準にあたる。1年で顧客獲得コストを回収できる構造であれば「健全」と判断できるため、3という値が置かれている。
固定費に関しては、基本的に効率を高めるベクトルでさまざまな費用を下げていく必要がある。その上で重要になるのが「思考投資」という考え方だ。これは「先行投資」ではなく、考え抜いた投資を行うという意味である。
たとえば人を入れる際、組織を先に整えてなんとかしようとするケースは多い。気持ちは分かるが、固定費の部分にあたる人件費はできるだけ後にした方がいい。一方で、顧客獲得のための営業や、変動原価に該当するプロダクト人員は先行投資が可能な領域だ。
コーポレート機能、バックオフィス、サポートのための機能などの人員は固定費に該当するため、できるだけ「思考投資」であるべきとされる。これはオフィスについても同様で、気軽にキラキラのオフィスに引っ越すべきものではない。プロダクト人材や営業人材を獲得するために必要な採用コストとして割り切る場合もあるが、それはビジネスモデル上、変動原価の効率を高めたりCACを下げたりするために人材を入れていく必要がある時期に限られた話である。
スタートアップ経営者がこれらの指標を共通言語として当たり前に使えるようになれば、成功率は格段に上がる。投資家との対話もビジネスモデルを共通言語にして行えば、対等な議論が可能になる。
そしてこれはイグジット時の適正価格を導き出すことにも直結する。各指標のどこをどれだけ高めれば株式価値が正当に評価されるのかという議論ができるようになるからだ。別の言い方をすれば、「今回VCから調達するこの○億円は、この指標を改善するためにこれだけのプロダクトの磨き込みを行う、そのための人件費として使う」という合理的な説明が可能になる。
CXO採用のタイミングについても、フェーズごとに考え方が異なる。たとえばCFOの仕事は、ステージによって大きく変化する。
- 0→1の時期:CFOは基本的に必要ない。シード調達やシリーズA調達はCEO自身がVCと会話する方が現実的。ファイナンスがあまりに苦手な場合のみ、シェアCFOのような外部に業務委託で頼むぐらいがちょうどいい。
- シリーズB~ミドル・レイター期:CFOが必要になってくる。優先株を使った調達やビジネスモデルのモデリング自体をCFOが担い、投資家との対話や事業現場へのマネジメントへの落とし込みを行う。
- 上場以降:機関投資家に対してビジネスモデルやビジョンを伝え、自社を買ってもらう仕事に変わる。金融のプロと対峙できる人材が必要になる。
どのフェーズでもやっている仕事は全然違う。だからこそ「いつ必要なのか」という問いだけでは語りきれない。本当にユニコーンを目指すのであれば、早い時期にCXOのタイトルをつけない方がいいことも多い。モデリングができ、それに基づくマネジメントができ、市場との向き合いができるスペックの人が来てくれて初めてCFOというタイトルをつけるという考え方の方がよい。
シリーズAやBの時期にCFOというタイトルをつけるケースは多いが、その時期にはむしろファイナンスではなく、アカウンティング(経理)の頼れる責任者がいてくれる方が重要だったりする。「キラキラしたCFO」という話で来てしまう人ではない方がむしろいいぐらいに考えてもいい。本当の意味でのCTO、本当の意味でのCFOとは、グロースした先も技術や財務の経営視点を持てる人材を指す。
外部から異なる文化圏の人材を入れていい時期についても明確な答えがある。事業がある程度成立しており、創業者中心にミッション・ビジョン・バリューがちゃんと整い、それが組織に浸透した状態になって初めて、別の文化圏にいた人に入ってもらうのがOKになる。
もちろん前提として、外部から取ってくる人材がミッション・ビジョン・バリューにしっかり共鳴し、そこにフィットすると握ることができている必要がある。カルチャーができていないところに強い別のカルチャーを持つ人を入れると、混ぜることが危険になる。会社の中の「法律」がちゃんとできていない状態だと、組織がぐちゃぐちゃになる可能性があるからだ。
そのためにも、モチベーションクラウドやWevoxといった組織の状態を定量的に診断するツールを使い、理念やミッション・ビジョン・バリューの浸透度合いをしっかりモニタリングしておくことが重要となる。望ましい状態になったところで初めて、外部人材を入れるのが良いタイミングと言える。
長期で稼げるビジネスモデルを構築するためには、継続率、客単価、変動原価率、CAC・LTV、固定費という5つの指標を「方程式」として自己診断することが欠かせない。さらに、CXO採用や異文化人材の登用についても、フェーズと組織状態に応じた最適なタイミングが存在する。これらを共通言語として持てば、投資家との対話もイグジット時の評価交渉も、合理的な議論として進められるようになる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
