キープレイヤーズ代表でエンジェル投資家の高野秀敏氏が、20年のHRビジネス経験と70社超の投資実績から導き出した「ベンチャーの作法」を語る。仕事を息を吸うように続ける哲学、AI時代の経営、ソロプレナー化する働き方、そしてエンジェル投資の実態まで、若手経営者必読の内容。
キープレイヤーズ代表の高野秀敏氏は、インテリジェンス(現パーソルキャリア)出身で、HR業界に足掛け20年従事してきた人物だ。現在はキープレイヤーズに加え、エージェントセブン、ペイキャリアといったグループ会社を率いる傍ら、エンジェル投資家として70数社に投資、うち5社ほどが上場している。創業から役員として関わって上場した会社にはクラウドワークスやメドレーがあり、顧問業や社外役員も合計30社ほど務めてきた。
直近では、自身が支援して上場した会社が174社にのぼった経験を活かし、M&A仲介の領域にも自然と相談が集まるようになっているという。仲介会社のような専業ではなく、長年付き合いのあるオーナー社長や、優秀な2代目・3代目経営者からの「次の事業を作るために会社を買いたい」「ファイナンスして上場を目指すべきか、売却すべきか」という相談に応える形だ。
高野氏は、ソロプレナーやフリーランスという働き方が流行する前から、個人プレイ中心の活動を続けてきた。結果的に投資家となり、グループ会社が増えていったが、本人は「自分は独自の人生を歩んでいくタイプという認識はなかった」と語る。
現在のキープレイヤーズは、高野氏個人と一緒に動く数名の体制で、採用コンサル・顧問・採用代行・ヘッドハンティングを行っている。グループ全体での正規雇用は約20名規模。「個人プレイでできる部分と、組織でできる部分を分けながら、模索してやっている」という。
HR市場自体も大きく変わった。ダイレクトリクルーティング型へのシフトが進む一方で、隠れた優良企業ではエージェント経由のニーズも残る。さらにはバーチャルヒューマンによる24時間面接といった前衛的な取り組みも一部企業で始まっており、時代に合わせた変化が求められているという。
なぜそんなに毎日頑張れるのか。SNSでも常に誰かのコメントに反応し、本まで書いている——そう問われた高野氏の答えはシンプルだった。
「単純に仕事が好きなんです。息を吸うように仕事をしたい」
逆に、利益が大きくても自分の趣旨に合わない仕事は受けないと決めている。「息が詰まってしまう」からだ。20年経営をしてきた中で、成功後に体調を崩したりメンタルを病んだりする人を多く見てきた経験が背景にある。
実家が農家だという高野氏は、「畑を耕すように」自分のペースで続ける働き方を志向している。傍からは猛烈に頑張っているように見えても、本人の感覚は呼吸に近い。「今日この瞬間やれば儲かる話はいくらでもあるが、邪な仕事は周りにも迷惑をかける」という言葉には、長期で価値を生む経営者の視点がにじむ。
高野氏は自身のエンジェル投資のスタイルを「ハンズイフ」と表現する。ハンズオンのように毎週ミーティング・週次報告という関わり方は「絶対に嫌だし、起業家側にもニーズがない」。基本は「必要に応じて連絡してください」というスタンスだ。
顧問先や役員として入っている場合は、定例ミーティングやSNS投稿などやるべきことが決まっており、それを着実に実行する。一方、シード投資中心のエンジェルでは、起業家が模索中であることが多く、自由度を求める起業家との相性で受けることになる。
投資先は基本的に「向こうから話が来て、検討して出す」というスタイルで、結果的に約1割が上場している。プロエンジェルとしてアグレッシブに動いているのは、ネットマーケティング・お見合い創業者の宮本氏ぐらいではないか、と高野氏は見立てる。多くのエンジェルは本業を持ちながら活動しており、ファンド化していくのはそこから先のステップだ。
メガトレンドとして動画の時代はすでに来ている。ただし、ビジネス系で動画を続けられる経営者は意外に少ない。「気は強くリーダーシップもあるが、繊細な人が社長には多い」——表に立って叩かれる役割は誰にでもできるわけではないからだ。
高野氏の見立てでは、表に出る社長の場合はナンバー2や共同創業者が事業の守りを担っているケースが多く、表に出ない社長はナンバー2や若手を前に出すパターンが目立つ。「演者と企画をセットでできる人は最強」だが、それが難しいなら演者・企画・編集の3人セットで組むのが現実的だという。
切り抜き動画の活用も推奨ポイントだ。10分のYouTube動画を1分ずつに切り出してTikTokやInstagramのリールに転用するだけで、ある起業家はTikTokで10万人規模のフォロワーを獲得している。「100万再生は難しいが、ビジネス用途なら100再生・200再生でも単価の高いビジネスにつなげられる」と、ビジネスパーソン向け動画活用の本質を指摘する。
新著『ベンチャーの作法』のタイトルに「スタートアップ」ではなく「ベンチャー」を選んだ理由について、高野氏はダイヤモンド社の編集者とのやり取りを引きながら説明する。
「小さい会社も、無期会社も、オーナー会社もある。ベンチャーマインド——成長していこうという意志のある会社をすべて総称してベンチャーと呼ぶ」
この定義に従えば、メガベンチャーも、シード期のスタートアップも、ソロプレナーも、ずっと3人でやっていきたい職人型の会社も、それぞれの形がある。「成長していきたい会社」をベンチャーと呼ぶ高野氏のスタンスは、現代の多様化したビジネス環境に即している。
高野氏が今、最も注力したいテーマがAI活用だ。求人票の作成、会社概要のまとめ、議事録、スカウトメールなど、すでに実務で使える領域は広がっている。一方で、セールスライティングのようなSNS投稿はまだAI生成のままでは伸びにくいなど、限界もある。
注目すべきは、AI活用が進む企業で社員数が減少しつつ、売上・利益が伸びている事実だ。高野氏の顧問先でも、社員が25%ほど減りながら業務委託や顧問が増え、売上利益は伸びているケースがあるという。ある10兆円規模の会社では、主力事業の社員数が半分に減ったが、売上は維持され利益が25%上昇した。「売上が伸びなくても利益が25%増えれば株価は上がる。時代はそちらに向かっている」。
少子高齢化の日本では、OpenAIやAnthropicのようなAI基盤の勝負は難しい。しかし、AIを使いこなす側、そしてノンデスクワーカー領域(介護、建設、物流など物理的に人が必要な領域)でのM&Aや事業承継は大きなチャンスがある、と高野氏は見る。
Clubhouseが日本で流行した時、高野氏は初期から最後まで滞在し続けた。Twitter(現X)、Facebook、LinkedIn、Instagram、Threads、mixi2、TikTokと、新しいプラットフォームには一通り手を出してきた。暗号資産も、初期にビットフライヤー創業者の勉強会に参加したことをきっかけに購入し、マイニングまで試している。
「ビジネスパーソンとして1番大事な能力の1つは、まずやってみること」
もちろん全てが当たるわけではないが、Clubhouseで知り合った人脈、コロナ初期に始めたYouTubeで広がった認知など、副次的な効果は確実に積み上がる。「無理のない範囲でやった方が長続きする」というスタンスで、新しい体験を積み重ねていくことがアンチエイジング的にも効くという。
また、自分が知らない領域には意見を挟まないことも重要だ。若手向けのC向けサービスでは「自分はバイアスになる」とアドバイスを避け、聞き役に徹する。「アンラーンこそ大事」と語る48歳の経営者の姿勢に、変化に適応し続ける秘訣が表れている。
高野氏が描く今後の働き方は、ソロプレナーや小資本でできる事業と、VCから大型調達する事業が併存し、社員数ではなく生産性で評価される時代だ。AIを使いこなせる人材、ノンデスクワーカー領域でM&Aや事業承継を進められる経営者にチャンスがある。
若手起業家へのメッセージは明快だ。リクルートのような大手がやらない領域で、上場企業ではリスクが取れない踏み込んだ動画企画を仕掛け、グロースしてからクリーンにしていく——これがスタートアップ・ベンチャーの王道だという。
そして、自分の趣旨に合わない仕事はやらないこと。息を吸うように続けられる仕事を選び、長期で価値を生む経営者であること。これが、20年間第一線で走り続けてきた高野氏の「ベンチャーの作法」である。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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