創業1年、4ヶ月で英語が話せるようになるコーチングサービスを展開する経営者が、DMM亀山会長に事業相談。拡大路線か少数精鋭か、人かAIか、サービス品質と規模のトレードオフをめぐる本音の対話を収録。
創業1年で英語コーチング事業を立ち上げた起業家が、DMM亀山敬司会長に事業相談を持ちかけた。サービスの内容は、1日1時間の学習を4ヶ月続けることで、初めて会ったネイティブと30分間の雑談ができるようになるというもの。料金は60万円で、ライザップの英語版に近いポジションだ。
オンライン完結型で、毎日の英語学習と日記提出に加え、週1回のオンラインレッスンで発音などをチェックする。創業から1年で約40人が受講し、アンケートでは100%が「30分話せるようになった」と回答しているという。
相談者はもともと、英語コーチング業界で先行して上場を果たした「プログリット」の創業メンバーだった。プログリットは岡田祥吾氏が創業し、本田圭佑氏らが株主に入り、約30億円で上場、現在は時価総額200億円弱に成長している。相談者はそこを離れ、同じビジネスモデルながら「話すこと」にフォーカスし、講師の給料水準もより高く設定したサービスを立ち上げた。
相談者の悩みは明確だった。専門領域では実績があるものの、経営者として何から手をつければよいか分からない。「とにかく売上を作る段階だが、これでは一生通用しないのではないか」という葛藤を抱えているという。
目指す姿は、講師を10人ほど採用し、品質を担保しながら回し、講師も会社もハッピーな状態をつくること。上場や数百億規模の自己資産形成は望んでいない。
これに対し亀山会長は、まず現状の収益構造を確認した。年間売上は約5,000万円、月次コストが約300万円、営業利益はおおむね年間1,000万〜1,500万円。固定費はオフィスを持たず業務委託中心で抑えており、最大のコスト要因であるマーケティング費用も、相談者自身が足で営業して最小限に留めている。
亀山会長は核心を突く。「2人でやっていて黒字でも、社員が4〜5人になったら赤字になるのはよくあるパターン」。マネジメントコスト、経理処理、組織化に伴う管理コストが一気に増えるためだ。
そのうえで放たれたのが、この対話を象徴する一言だった。「拡大するも地獄、拡大しないも地獄」。
亀山会長は、ビジネスを拡大することで起こる2つの構造的変化を指摘する。1つは集客コストの上昇、もう1つはサービス品質の劣化だ。
集客については、知り合い経由の獲得から、Web広告、さらにテレビメディアへと拡大するにつれて、1人当たりの獲得コストは段階的に上がっていく。メルカリのような企業がテレビCMに大きく投じるのは、「分母を増やすため」「シェアを取るため」といった戦略目的があるからだ。
サービス劣化はより深刻な問題だ。「自分がやればいいサービスでも、社員に任せた瞬間に劣化する」。亀山会長は自身が雀荘経営をしていた頃、評判の良かった店舗を社員に任せたら半年で潰れた経験を語る。「自分がやったらいいサービスは、それが当たり前。気合が違う。当事者意識が違う」。
つまり拡大すればするほど、獲得コストは上がり、サービスは劣化する。それでも利益を残すには、相当な利益幅と仕組みづくりが必要になる。「何万人もいるから10%でも10億残ります、という構造を作らないといけない」。
対話は英語コーチング業界特有の収益構造にも及んだ。WebサービスやIT業界では、ある分岐点を超えると変動費がほとんど増えず、利益率が一気に上がる。サーバー費が増える程度で、追加売上の9割が利益になることもある。
しかし英語コーチングは違う。原価の5〜6割が講師費用に固定的にかかる人件費依存型のビジネスだ。さらにDMM英会話のようなフィリピン人講師を活用するモデルでも、円安になれば人件費が相対的に上がり打撃を受ける。
「マーケティング費用に回せる原資は20〜30%しかない。ゲーム業界なら50%かけられる世界で、競合は55%、60%と積み上げてくる。結局Googleばかり儲かる構造になる」と亀山会長は指摘する。
相談者は次の打ち手として、メソッドを書籍化する構想も明かした。受験者数の多い英語領域でテキストを出版し、リード獲得チャネルにしたいという狙いだ。
亀山会長の評価は冷静だった。「教える技術を体系化する価値はあるが、似たような本は世の中にいくらでもある。リード取りには使えるが、それだけで安くは獲得できない」。テキスト出版は事業のインパクトとしては限定的だという見立てだ。
対話の終盤、亀山会長は英語学習領域における最大の脅威としてAIコーチングの台頭を挙げた。AIは変動費がほぼかからず、開発さえ済ませれば100人、1,000人規模の対応が可能になる。海外ではすでに「AIチューター対人間講師」の構図が顕在化しつつある。
「自分のノウハウをAI化する方向に振った方が、まだ道は開ける」と亀山会長は助言する。講師の腕を上げて給料を上げる方針とは逆行するため、経営判断としては難しい選択になる。
それでも相談者は「私は人で行きます」と即答した。亀山会長は「それは各自の決め方」と応じ、対話を締めくくった。
亀山会長自身も、相談者のサービスを実際に体験して英会話力の向上を実感したという。それでも継続には至らなかった理由は明快だった。「同時翻訳がAIで対応できる時代だから、4ヶ月勉強する気にならなかった。むしろ体力はAIで代替できないから、その時間でプールに行こうと思った」。
サービスの良し悪しと、ビジネスとして成立するかは別問題である――対話全体を貫いていたのは、この経営の本質だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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