コーチング会社を率いる村岡氏が、年商25億円を達成しても残る違和感をDMM亀山会長にぶつける。規模拡大の意味、役職が生む権威、そして「最後まで迷いながら死んでいく」という経営の本質が浮かび上がる対談。
ベンチャー経営者にとって「年商◯億円」は、わかりやすいゴールだ。しかし、そのゴールに近づくほど、最初に抱いていた目的や面白さが薄れていく──そんな葛藤を抱える経営者は少なくない。
今回のM&A CAMPでは、コーチング会社・株式会社らを率いる村岡氏(38歳・CPO=最高哲学責任者)が、DMM創業者である亀山会長に、自身が直面する経営の悩みをぶつけた。テーマは「年商の意味」「再現性と面白さのバランス」「役職が生む権威」の3つ。経営フェーズが変わるたびに突きつけられる、普遍的な問いに対する亀山会長の回答を再構成する。
村岡氏が代表を務める株式会社らは、現在7期目。もともと「ゴールB」というフィットネス事業からスタートし、キャリアコーチング、そして法人向けの組織コーチングへと事業を転換してきた。前期売上は25億円、今期は50億円をゴールに掲げている。
特徴的なのは、村岡氏自身の肩書きだ。CEO(最高経営責任者)ではなく、CPO=チーフ・フィロソフィー・オフィサー(最高哲学責任者)。社長は別のメンバーが務め、村岡氏は会社の哲学や思想を担う立場に回ったという。
この役職変更の背景には、村岡氏自身のモヤモヤがあった。「年商◯億行きました」「ビジョンが広がりました」と言い続けるうちに、いつの間にか目的を見失っていく感覚。それを乗り越えるために、あえて哲学を担う役職を作ったというわけだ。
村岡氏が最初に投げかけたのは「年商の意味」という問いだった。コーチング事業はBtoCの色が強く、不動産のように1物件1億円といった売り方ができない。1億円を売るには相応のユーザー数が必要で、定量と定性のゴール設定が難しい──そんな悩みである。
これに対し、亀山会長の答えは明快だった。シェアを取るために年商を上げることには、確かに価値がある。100億円市場で年商10億円なら10%、20億円なら20%。市場でナンバーワンを取れば信用が生まれ、提携や取引の声がかかる。世間的なブランドが上がり、いわば「はったりが効く」状態になる。これが、規模拡大の最大のメリットだ。
ただし、亀山会長はビジョン達成と売上を直結させることには慎重だった。村岡氏のビジョンが「すべての人を、植え付けられた制限から解放する」ことであれば、本来追うべき指標は売上ではなく「講義を受けた生徒数」かもしれない。1人1万円を5000円に下げて、より多くの人に届ける選択肢もある。何を成し遂げたいかによって、適切な指標は変わるはずだ。
話題は2つ目のテーマ「再現性と面白さ」へと移る。村岡氏は、ベンチャー期の混沌とした面白さや、「こいつしかできない」という属人性に強く惹かれるタイプだという。社員200人規模になり、マネージャー層が組織化され、再現性のある仕事が増えてくると、急速に面白くなくなる感覚があるという。
亀山会長はこれに同意する。10人で経営していた頃は、社員一人ひとりと「お前これやりたいんだろ」と話せた。しかし100人を超えれば顔と名前が一致しなくなり、社長は事業責任者を通してしか組織を見られなくなる。社員との関係は薄くなり、「楽しかった仕事」が「こなす仕事」に変わっていく──これは規模拡大に伴う構造的な現象だという。
さらに村岡氏は、AI時代の経営における「属人性の価値」にも触れた。マネジメント能力よりも、突き抜けた個性のほうが希少性を持つ時代になるのではないか、と。亀山会長もこの見方には頷きつつ、ヤクザの組織暴力を引き合いに「組織化された100人が個人より強かった」過去のロジックが、AIやテクノロジーによって変わりつつあることを指摘した。1人がAIやロボットを使って100人分のパワーを発揮できるなら、組織化の価値そのものが相対化される。
村岡氏のコーチング事業では、定量的な売上の議論と、定性的な「何のためにやるのか」の議論が経営会議でぶつかることがあるという。亀山会長のアドバイスは、ある意味でシンプルだった。
「最低限、利益が100万円でも出る基準なら共存できる。赤字に転落するならさすがに続けられない。でも、株主がいないなら、利益がなくてもいい。維持できる範囲ならずっと続けていい」
つまり、会社を「価値を高めて売却する箱」と捉えるか、「やりたいことを世の中に届けるための箱」と捉えるかで、経営判断の基準は大きく変わる。村岡氏が後者を選ぶなら、利益のためにやりたいことを諦める必要はない、というのが亀山会長の見立てだ。
3つ目のテーマは、役職が生む権威の問題だった。村岡氏の会社にはCPO以外にもCXO的な役職が複数あり、肩書きがつくと当人の振る舞いも、周囲の扱いも変わってしまう。コーチング会社として「上下関係なくクリエイティブな意見が出る組織」を目指すうえで、これは厄介な現象だという。
亀山会長は、役職の権威性を否定はしなかった。最終的にすべての責任を取るポジションがある以上、その意見が通ることには合理性がある。ただし、それが過剰に効くと、若手の意見が通らず、忖度が生まれ、いずれ「裸の王様」になりかねない。亀山会長自身、2兆円規模の経営者から「ある時点から不満を言われなくなった」という話を聞いた経験を共有した。
忖度させない組織を維持するのは、亀山会長自身も苦労してきた領域だという。スタートアップ期は「緩い独裁」がスピードを生むが、規模が大きくなれば独裁の弊害も出てくる。このバランスをどう取るか、明確な正解はない。
ではどうすればいいのか。亀山会長が提示した解は「会社を分ける」だった。
200人規模になり、真面目で意識の高いメンバーが集まる組織と、ベンチャー的に尖ったメンバーが集まる組織は、同じ箱では共存しにくい。だからコーポレート機能だけ1つに集約し、事業ごとに会社を分ける。決裁権を完全に分離してしまえば、それぞれのスタンスで経営できる。
DMMグループも、サッカーチームや42(エンジニア教育機関)、発射台といった「思いが強くてお金を使っていく」領域と、利益を出す事業領域を分けて運営している。グループ全体としての絵があるから、稼ぐ部署が思いの強い部署を支える構造が成り立つ。
村岡氏もこの提案に手応えを感じた様子だった。1つの会社で哲学と経済を両立させようとするから衝突するが、箱を分ければそれぞれが最適化できる。
対談の最後、村岡氏が亀山会長に尋ねた。「結論はいつ出るんですか?」
亀山会長の答えはこうだった。「最後まで迷いながら死んでくよ」「結論なんて出ない。出た段階で迷わないってことは、もう終わりってことかもね」
経営者は一生、規模と目的、定量と定性、権威と自由のあいだで揺れ続ける。村岡氏はこの言葉に救われたという。「答えが出ない」のではなく「答えを出さないまま走り続ける」のが経営者の宿命なのだ。
村岡氏は自社の経営の葛藤をすべてYouTubeで公開しているという。創業7年分の試行錯誤がアーカイブされており、それ自体が「経営のリアル賞」のようなコンテンツになっている。亀山会長は「青春だな」と笑った。
業績を追うことと、やりたいことをやること。この2つは決して二者択一ではない。だが、両立させるためには、会社の構造自体をデザインし直す柔軟さが必要だ──対談はそんな示唆を残して終わった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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