英語コーチングサービス「プログリット」を運営する株式会社プログリット代表の岡田祥吾氏。マッキンゼーを2年で退職し、創業から6年で上場、時価総額150億円規模まで成長させた経営の裏側には、競合分析を一切行わず顧客に向き合う姿勢と、バリューの徹底浸透があった。
株式会社プログリット代表の岡田祥吾氏は、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、アナリストとして2年間勤務した後に独立した。当初は3年間勤めるつもりだったが、2年経ったタイミングで「アナリストの仕事における成長が鈍化してきた」と感じ、昇進してさらに数年留まるか、起業するかの選択を迫られた末に退職を決めた。
共同創業者は、大学時代にアメリカ・シアトルへ留学した際に出会った友人。リクルートに勤めていた共同創業者へ岡田氏が起業を持ちかけ、当初は家事代行サービスでの起業を検討していた。
しかし、投資家回りでフィードバックを受けるうちに「この問題を本当に解決したいという使命感が自分たちにはない」と気づき、起業前にピボットを決断。投資家との壁打ちを重ねるよりも、自分たちが心から取り組みたい課題を選ぶべきだと判断した。
そこで浮かび上がったのが、日本社会における英語学習という大きな課題だった。岡田氏自身もマッキンゼー時代に英語で苦労した経験があり、解決の仮説も持っていた。エクイティ調達も諦め、自己資金で勝負することを決めた。
プログリットは創業から上場まで、エクイティはエンジェル投資家数名から受け入れたのみで、ほぼデットファイナンスのみで成長してきた珍しい上場企業である。
上場を意識し始めたのは、創業半年で出資を受けた投資家・瀧本氏からの助言がきっかけだった。創業1年目頃に「上場した方がいい」と勧められ、岡田氏は素直にその助言を受け入れた。
瀧本氏が上場を勧めた理由は、英語ビジネスで上場している会社がほとんどなく、上場による信頼性の向上、知名度、差別化のインパクトが非常に大きいというものだった。
上場審査の際には、ビジネスモデル上のコンプス(類似企業)が見当たらず、最も近いのはライザップ程度。証券会社や機関投資家との議論はかなり難しいものだったという。創業2年目の段階で岡田氏は社員に対し「3年後に上場する」と宣言し、準備を進めた。
プログリットが急成長した背景には、岡田氏の独特な経営姿勢がある。それは「競合他社の分析を基本的にしない」というものだ。
マッキンゼー出身者としては逆方向の発想だが、岡田氏は「競合を見れば見るほどサービスが似てきてしまう。お客様を見るより競合を見る時間のほうが長くなってしまう」と考え、能動的な競合分析を避けてきた。
創業期、プログリットは「趣味で英語をやりたい人は来ない方がいい」という尖ったキャッチコピーをLPに掲げていた。本気で英語を学びたい人に対する受け皿が他に存在しなかったため、結果として強いポジショニングが生まれた。
岡田氏自身は「市場が空いていた」というよりも「自分たちが作り出した」感覚に近いと振り返る。最初の家事代行のアイデアが市場発想で失敗したことを反省し、自分たちが本当にやりたいことを起点にサービスを磨き続けたことが、結果的に競合優位につながった。
英語学習サービスは社会人にとって決して安くなく、ブランド力のない創業期に集客を成立させるのは容易ではない。しかし岡田氏は「不思議なことは全然やっていない」と言い切る。
施策の中心は、SEM、Facebook、Instagram、アフィリエイトといった一般的な広告。創業者2人が外注せず、自分たちで日々バナーを作成しながら運用していた。媒体ごとに張り付き、Google、Facebook、各プラットフォームのデータを見ながら改善を重ねるという地道な作業を繰り返していた。
この広告領域は、岡田氏が権限委譲を最も遅らせた領域でもある。集客の入口を経営者自身が握り続けたことが、安定した新規獲得に寄与した。
また、ビジネスモデル上、契約時に料金を全額前受けで受領する仕組みであったため、給与の支払いに対するキャッシュフロー上の不安はなく、採用と教育に資金を回しやすかった点も急成長を支えた。
創業3年で売上17億円に到達したものの、岡田氏は「全然うまくいっているように見えなかった」と当時を振り返る。
社内の空気は楽しいサークルに近く、3年後に売上30億、50億規模になっている延長線上の組織がイメージできなかったという。そこで岡田氏は社名・ミッション・バリューをすべて刷新する決断を下す。
刷新後は社員の退職が一気に増え、業績も一時停滞した。しかし振り返ると、この決断が以後の成長を決定づけたと岡田氏は語る。
バリューは岡田氏一人で言語化したのではなく、当時の管理職に近いメンバー約10人と2日間の合宿を行い、全員が付箋に「自分たちが大切にしたい価値観」を書き出してまとめた。「同じマーケティングをして、同じ営業をして、同じプロダクト開発・カスタマーサポートをしても、このバリューがなければ今のプログリットはない」と岡田氏は断言する。
プログリットの組織運営の特徴は、業績の達成意欲を管理職だけに依存しないことにある。事業部長だけでなく、KPIごとにメンバー層からも責任者を任命し、多くのメンバーが何らかの指標責任を持つ仕組みを敷いている。同じレイヤー同士で「自分はこの指標を達成する」と声を掛け合うほうが、推進力が圧倒的に上がるという。
役職の任命基準は、スキルよりもまず「会社へのコミットメントの強さ」と「マインドセット・志」。役員・部長クラスは外部からの採用とのミックスで運用しつつ、内部からの登用比率を今後さらに高めていく方針だ。
岡田氏が今後最も力を入れるのは「人事」である。優秀な人材がいかに会社の中で燃え盛り、エンゲージメント高く成長できるかが、事業会社にとって決定的に重要だと結論づけている。来期はトップ自身が人事領域に深く関与する予定だ。
プログリットはM&Aを成長戦略の一つとして掲げているが、事業計画はオーガニック成長のみで作っており、M&Aはアップサイド扱いとしている。件数目標は設けていない。
岡田氏が考えるスイートスポットは、売上規模で最低5億円、できれば10億円〜数十億円以下、利益は1億円を超える企業。「数千万円規模だと、何かあったらすぐに吹き飛んでしまう」というのが理由だ。
対象領域は次のとおり。
- 英語教育の同業企業
- 子供向け英語教育でビジョンを共有できる企業
- 留学関連サービス
- 英語に限らないBtoB向け人材育成・研修会社
特に研修会社については、現在BtoBで進めているプログリットのクロスセルや営業協力でのシナジーが大きいと見ている。
上場後の効果として岡田氏が挙げるのは、デットファイナンスのしやすさに加え、「採用が明らかに楽になった」点である。
同じ条件で募集をかけても、上場後は応募の質が上がった実感があるという。岡田氏は「優秀でベンチャーマインドのある人は非上場のほうに来るのでは」と考えていたが、実際はその逆だった。挑戦したい意欲を持ちつつも家族など生活基盤を持つ30前後の優秀層には、上場による安心感が応募のハードルを下げているのではないかと岡田氏は分析する。
動画の最後で岡田氏は、若手経営者に向けた2つの示唆を語った。
1つ目、「やっておいてよかったこと」はバリューを作り、本気で浸透させたこと。創業当初も形式的にバリューは作っていたが、本気で浸透させることにコミットしたのは社名刷新のタイミングだった。バリューが揃うことで不要なコミュニケーションが減り、評価も意思決定もバリュー起点で行えるようになる。
2つ目、「もっと早くやっておけばよかったこと」は新卒採用。新卒採用は決めてから入社まで2年、戦力化までさらに1年と、3年程度のラグがある。だからこそ創業1年目から仕込んでおくべきだったと岡田氏は強く語る。プログリットでは現在26卒採用に向け、役員・部長全員が東京・大阪で2デイズインターンに毎週コミットする体制を取っている。
求める人物像は、まず「ナイスパーソン」(人の気持ちを考えられる、自己中心的でない)が8割、自主的に問題解決できる優秀さが2割。さらにプログリットのミッション・バリューに共感していることを重視している。
岡田氏の労働時間は意外にも長くない。朝8時頃から働き始め、18時頃には終業。週3日は会食、週2日は決まった曜日に夜の筋トレ、土日は家族と過ごす時間を確保している。サウナでアイデアが浮かびやすいといい、メモを取って後日提案に落とし込むことが多いという。
「自分の能力を過信していない」と語る岡田氏。当たり前のことを淡々と続ける凡事徹底のスタイルこそが、英語教育市場で「あんまり不思議なことはないけれど、淡々と業績を伸ばしていく会社」という独自のポジションを築き上げた原動力となっている。
プログリット岡田祥吾氏の経営論には、奇抜な戦略や派手なイノベーションは登場しない。しかし、競合ではなく顧客の本気と向き合うこと、バリューを本気で浸透させること、品質を保ったうえでの適度な急成長を貫くこと、そして人事と新卒採用に長期的に投資することという、地に足のついた選択を継続したことこそが、ほぼ資金調達なしでの上場と上場後の時価総額拡大を支えた要因だと言える。急成長を目指す経営者にとって、最も再現性の高い示唆を含んだインタビューとなった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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