アルバイト・新卒・転職と多岐にわたる人材業界。ハローワークから始まり、求人メディア、ダイレクトリクルーティングへと進化してきた歴史と、人材紹介・求人メディア・マッチングプラットフォームそれぞれの立ち上げ戦略を、HR領域で長年事業を手がけてきた中野氏が解説します。
人材業界と一口に言っても、その中身は驚くほど多様です。中野氏はまず、業界の構造を以下のように整理します。
対象となる雇用形態でいえば、アルバイト領域、新卒採用、転職活動の3つはまったく異なるマーケットです。さらに「マッチングの手段」で分けると、Web上で情報を得て応募する求人メディア、人が介在してマッチングする人材紹介、合同説明会のようなイベント系、そして派遣を経由して最終的に入社する紹介予定派遣などが存在します。
出会いの手段によってビジネスモデルが分かれているため、人材業界には実に多様なプレイヤーが存在しているのです。
新卒・正社員領域の歴史をたどると、最初に存在したのは国が運営するハローワーク、つまり無料の職業紹介でした。大学のキャリアセンターが学生に求人を紹介する仕組みも、構造的にはハローワークと同じく無料の職業紹介に位置付けられます。
そうした公的・準公的な仕組みに加えて、技術の発展とともに少しずつ民間ビジネスが生まれていきました。中野氏が指摘するのは、求職者側がかつて「200円の有料情報誌」を購入しなければ求人情報を見られなかったという事実です。それが無料化されると同時に、ガラケー(モバイル)でも閲覧可能になり、PCのWeb、そして現在のスマホへと閲覧環境が移っていきました。
求人メディアが画期的だった理由は、単にスマホで見られるようになったことだけではありません。中野氏は2つのポイントを挙げます。
1つは、企業側が求人ページを「自分たちで作る」ことを可能にした点です。従来、求人広告はメーカー(広告代理店)やクリエイターが制作するものでしたが、求人メディアは企業がシステム自体を直接触れるようにしました。これによって採用活動のスピードと柔軟性が大きく変わります。
もう1つは、「まずフランクに会いましょう」というカジュアル面談的なUXを生み出したこと。今では当たり前の概念ですが、当時はまったく存在しなかった発想であり、出会い方そのものを変えたのです。
アメリカから入ってきたダイレクトリクルーティングが日本でインパクトを出した背景にも、技術的な転換点があります。中野氏が強調するのは、スマホの存在です。
ダイレクトリクルーティングでは、求職者自身が履歴書(プロフィール)をアップロードする必要があります。しかしスマホ普及前は、デジカメで写真を撮影し、USBでPCに取り込み、サイズを下げてトリミングしてアップロードするという作業が必要でした。これは一般的な求職者にはハードルが高すぎ、「自分で自分のプロフィールを作る」ことが事実上不可能に近かったのです。
スマホにカメラが標準搭載され、通信速度も向上したことで、求職者が自分のプロフィールを簡単に作れる時代が訪れました。これがダイレクトリクルーティング普及の本質的なドライバーだったといいます。
近年広がりを見せるリファラル採用やジョブ型雇用について、中野氏は「リファラル自体は昔からあった『縁故採用』『社員紹介』を新しい言葉でラベリングしたもの」と説明します。
では、なぜ今これほど推進されているのか。背景にあるのは、転職に対する価値観の変化です。15〜20年前は「転職は会社を裏切る行為」という意識が強く、社員紹介で人を呼ぶことに抵抗がありました。その価値観が変わったことが、リファラル採用が広がる大きな要因になっています。
人材紹介はビジネスモデル自体はシンプルで、参入企業も非常に多い領域です。しかし売上10億円を超える企業の数はぐっと減ります。中野氏はその理由を2つ挙げます。
1つ目は、求職者の集客です。求職者を集めるのは本来非常に難しい一方、人材紹介を行うためのデータベースが業界内である程度解放されており、各社が求職者にアプローチできる仕組みになっていることが、参入のハードルを下げています。
2つ目が、規模拡大の難しさです。求職者と企業のマッチングは、組み合わせが指数関数的に増えていきます。求職者1名×企業1社なら通り数は1ですが、2×2で4通り、3×3で9通りと、関係者が増えるほど社内の処理難易度が跳ね上がるのです。
さらに、「この求職者はこの企業に合う」というマッチング感覚はデータ化しづらく、長年の経験を持つ職人的な担当者の感覚に依存しがちです。これを次世代に伝承する仕組みづくりが極めて難しいため、組織のコストが上がりやすく、規模が大きくなるほど採算が合わなくなる傾向があります。
これから人材領域で起業・新規事業を始める人に向けて、中野氏は事業モデル別に戦略を整理します。
**人材紹介の場合**は、職人的な感覚を持つ3人程度の少人数チームでも、コストをあまりかけずに高い利益を出せるケースがあります。
**求人メディアの「代理店」として始める場合**は、営業組織を作る発想が必要です。お客様への案内の型は伝承しやすいため、10〜20人規模に組織化しやすく、メーカー(媒体側)との取引条件も売上が増えるほど有利になっていきます。比較的早く規模を拡大しやすいモデルです。
**メディア自体を作る場合**は、マッチングメディアと、求職者向けのキュレーションメディア(バーティカルメディア/領域特化型メディア)に分かれます。キュレーションメディアは、求職者を集めてマッチングプラットフォームへ送客することで収益を得るモデルで、マッチング機能を持たないため小人数で立ち上げやすいのが特徴です。
一方、**マッチングプラットフォーム**は事業領域が広いためリスクは高く、成功確率は低いものの、うまくいけば成長スピードが格段に上がり、知名度も出やすいというハイリスク・ハイリターンの世界です。
どのモデルを選ぶかは、やりたいことと、自分のリスクに対する個性、そして性格も大きく影響します。
中野氏は、事業選択の本質をこう語ります。
「やりたいこと」「自分が得意なこと」「お客さんが求めていること(解決できている会社が少ない領域)」 — この3つが重なる場所を見つけられれば、事業は非常に強くなります。
ただし、自分が何を得意とするかは、ある程度やってみないと分かりません。事業として形になるのに3〜5年、長ければ10年。職業人として自分の得意を掴むのにも10年かかる。だからこそ、迷いながら進むのは当たり前だと中野氏は言います。
関西の経営者コミュニティ(秀吉会)では「案件の連続を事業と思うな」という言葉があるそうですが、中野氏はこれを少し補足します。
事業とは、お客さんに使い続けてもらう仕組みを作るか、もしくは案件の連続であっても「事業」と呼べるレベルまで規模を引き上げるか、どちらかです。
その目安として中野氏が示すのは、月間100件以上の受注、つまり20営業日で1日平均5件の受注がコンスタントに入る状態。ここまでくれば、1案件への依存度が下がり、社会的にも「こういう会社だ」と認識される。これがいわゆる「事業化」のラインだといいます。
最後に、聞き手から「前年比130%以下の成長率は良くない」という業界の通説に触れつつ、規模拡大だけに囚われて足元が見えなくなる危うさへの問題提起がありました。
中野氏も「両方が大事」と即答します。その上で、1年ごとに「今年はここを強化する」とテーマを決めながら最終的には全方位を改善していく。その結果としてBS(貸借対照表)が大きくなっていく — そういう経営が理想だと語ります。成長率と健全性を両立させる視点として、PLだけでなくBSを意識することの重要性が示されました。
人材業界は、雇用形態とマッチング手段の組み合わせで多様なモデルが存在し、それぞれに必要な組織・資本・スピードが異なります。技術の進化(スマホ・通信)が業界の構造を何度も塗り替えてきた歴史を踏まえ、自分の「やりたい」「得意」「顧客の課題」が重なる場所を見極めて参入することが、人材事業を立ち上げる第一歩となります。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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