オンライン家庭教師「東大先生」を運営し、1〜2年以内のM&Aを視野に入れる東大卒起業家・堀氏。元クラウドワークス成田修造氏と克健太氏が、スモールビジネスM&Aを前提に走る若手経営者の「次の一手」と人生観について本音で語り合った。
本記事は、M&A CAMPで配信された事業相談企画の対話を再構成したものです。元クラウドワークス取締役副社長で複数社の経営に携わる成田修造氏と、未来ワークスへの事業売却経験を持つ克健太氏が、相談者として登場した株式会社東大先生・代表の堀氏のキャリアと事業について議論しました。
堀氏は2018年に東京大学に入学し、2022年に農学部を卒業。学生時代に株式会社デリサーチを立ち上げ、フードデリバリーの比較アプリ開発を手がけました。卒業後は三菱商事に入社しますが、入社直前に2社目となる株式会社東大先生を設立。現在は三菱商事を退職し、東大先生1本で経営を行っています。
東大先生は、講師全員が東京大学の学生で構成されるオンライン家庭教師サービスです。一般的な学習塾との違いは、授業に加えて学習コーチングを提供する点にあります。堀氏は「ライザップの受験版に近い」と表現する一方で、「授業をしないわけではなく、授業もしながらコーチングも行うハイブリッド型」だと説明します。
対象は小中高生ですが、進学実績だけにフォーカスせず、「学びを愛する人材の育成」を理念に掲げているのが特徴です。
プランは授業時間(60分・90分)と頻度(週1〜3回)の組み合わせで6パターンを用意し、ボリュームゾーンは週2回。集客はFacebook広告がメインで、近年はYouTubeやTikTokなどSNS広告経由の流入も増えています。
業績は昨年の売上が約1.5億円、今年は約5億円を見込む急成長フェーズです。粗利率は約80%と高く、堀氏はその要因を「1社目から続くエンジニアメンバーによる独自CRMの開発など、システムの効率性が高い点」だと語ります。
注目すべきは、堀氏がM&Aを前提として2社目を設計している点です。創業メンバーに友人を一切入れず、すべて求人サイト経由で採用しているのも、そのためのスタンスだといいます。学習塾を中心としたM&Aを1〜2年弱以内に実現することが目標です。
この相談に対し、成田氏は「アメリカでも全く同じことが起きている」と指摘します。経済合理的に考えれば、商社で年収2,500万円程度を上限に馬車馬のように働くより、自分でキャッシュフローを生む事業を作ってM&Aを目指す方が合理的だ、と。「いわゆる知的能力が高い人がスモールビジネスM&Aに参入するケースが、この5年で急増したイメージがある」と語ります。
しかし堀氏の相談はここから哲学的な領域に入っていきます。「M&Aしなくても利益は出ている。お金持ちになりたいという欲求がスタートではない」と前置きしつつ、彼が抱えていたのはむしろ自分自身のキャリアと人生観についての迷いでした。
三菱商事を辞めた際に「レールを外れた」と見られることが多かった一方、堀氏自身は「未だに自分は『お利口さん』のままだ」と感じているといいます。
「現代はM&Aがしやすくなり、資金調達も容易になった。若い経歴やブランド力があるとちやほやされやすい。しかし、自分が本当にやりたいことが何か、どういう起業家になりたいのか——中身は空っぽなんです」
スモールビジネスM&Aをイグジットの形として選ぶ若手起業家が増えている今、その先のキャリアをどう描くか。これが堀氏の本当の問いでした。
克氏は、堀氏の悩みに対して「アカデミックスマートにも振り切れず、ストリートスマートでもない、中途半端なスマートさに苦しむハイエンド層は確かに存在する」と指摘。「彼らにこそ本気のキャリアコーチングが必要だ」と話します。
成田氏はさらに踏み込みます。「なめられない程度の金銭的成功を収めた後は、自分にしかできない代表作を作るべき。プロフィールはどんどん短くしていくのがいい。一行で語れるくらいに」。
そのうえで、堀氏に対しこう問いかけます。
「東大家庭教師の事業も、フードデリバリー比較も、正直しっくりきていないんじゃないですか。やれることをやっているだけ。儲かるからやっている。能力があるなら、想像できないくらいのリスクを取って、盛大に失敗してみたらいい」
例として挙がったのは電気自動車事業や、貧困・戦争の解決といった社会課題テーマ。「ちょろっとやってちょろっとうまくやる、その癖から抜けることが大事」というメッセージです。
堀氏は対話の中で、自身の内面についてこう吐露しました。
「キャリアでちやほやされる瞬間が増えるたびに、虚しさを覚える。承認欲求が満たされた時に、ここに価値がないんじゃないかと思ってしまう。それが増幅していくと、死ぬ時の虚しさも増えるのではないかと感じる」
そんな彼に成田氏は、「死ぬ時にこれくらいできたら満足だな、というイメージはないんですか」と問いかけます。堀氏は「本源にはあるが、できないと思っている自分を負担している部分がある。資本主義的なKPIで考える癖が無意識に染み付いているのかもしれない」と答えました。
憧れの存在として堀氏が挙げたのは、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴氏。「過小評価できないほどの作詞作曲の力。才能の領域が大きい人」と評します。
対する成田氏は、「自分の才能との親和性が高い領域でないと勝てない。でも、本当にすごいと思うのなら、一旦そこに全力で挑戦してみるという選択肢もある」と返しました。
この相談で浮かび上がったのは、スモールビジネスM&Aを前提に走るハイエンド層の若手起業家たちが直面する、共通の課題です。経済合理性で動けば動くほど、自分の人生における「代表作」が見えなくなる。承認欲求が満たされるほど虚しさが募る。
成田氏と克氏が示した方向性は明快でした。「金銭的な成功はあくまで前提。その先は、自分のエネルギーとパッションを何に向けるかを徹底して問う必要がある。ちょろっとうまくやれてしまう領域から飛び越えて、本当にワクワクするテーマに挑戦せよ」。
堀氏自身、「2手目をどう打つかについてピントは合ってきた」と振り返り、対談は1社目の具体的な事業相談へと続きました。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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