22歳で起業し、創業1年4ヶ月で資金ショート寸前まで追い込まれた西澤亮一氏。そこから売上551億円企業へ成長させたネオキャリアの軌跡と、組織を支えるパーパス・バリュー設計、そして経営者が陥りやすい落とし穴について語る。
ネオキャリア代表・西澤亮一氏が起業したのは2000年、22歳のときだった。大学卒業後の半年間、ベンチャーキャピタルが立ち上げた「新卒から会社を作らせる」プログラムの第1期生として就職した17人のうち、互選で選ばれた9人が創業メンバーとして会社を立ち上げた。
資本金は3000万円。社名候補には「ジョブリッチ」「ジョブエモ」など複数案があったが、最終的に「規律こそが無敵」という考えから「ネオキャリア」に決定した。当初の主力事業は、株主が扱っていた求人メディアの代理販売だった。
「マイナビさんやリクナビさんのような強い媒体は取り扱えなかったので、ずっと赤字でした」と西澤氏は当時を振り返る。
2002年3月、創業からわずか1年4ヶ月で給与の支払いが止まる事態に陥る。当時の社長は退任し、会社存続の危機を迎えた。
そのとき、唯一売上の半分を作っていたのが西澤氏だった。媒体販売だけでなく、スカウトメールの書き方や入社時のフォローまで踏み込んだ価値提供を続けていた結果、顧客との関係が深く、リピート受注を獲得できていたという。
「株主も社員も『西澤が代表をやるなら俺たちももう少し頑張る』と言ってくれた。どちらかと言うと、社長になったというよりはさせられた、無理やり代表になったという感覚に近い」
代表就任初月から黒字化し、1年半で4000万円の利益を出して累損を解消。2004年9月に過去の赤字を完全に埋めた。
2008年までに売上は約20億円規模まで成長する。西澤氏が成長の要因として挙げるのは、徹底した顧客グリップだった。
「月に60件ぐらい訪問していました。人材会社はサービス自体に大きな差はないので、営業を頑張って成果を上げ、リピートをいただく構造です」
リード獲得の手段として印象的なのは、自身では当時ゴルフをしないにもかかわらず、毎月ゴルフコンペ(通称「108の会」)を主催していたことだ。30〜50代の経営者が集まる場で、20代の主催者として一生懸命挨拶することで、決裁者層から有望なリードを継続的に獲得した。
会社規模20名のときに新卒15名、50名のときに新卒40名を採用するという思い切った投資も、第一次成長期を支えた。
「中途で優秀な人は来てくれませんでした。当時、自分は20代後半で、規模も小さい。でも『ベンチャー企業』として熱く語ると、たまに優秀な新卒が口説けたんです」
2005〜2006年で社員数は20名から100名へ拡大。当時インターンから入った新卒が、現在も部長・本部長クラスで会社を支えているという。
既存の人材ビジネスだけで売上100億円が見えた時期、西澤氏は「100億で止まる人材会社が多い」という危機感を持った。
2011年の経営合宿で、人材・IT(テック)・グローバルの3領域を軸に、2020年に550億円の事業規模を目指すと決定。「『55に何かを掛けたら550』というノリで決まった目標でしたが、各取締役が積み上げると行けそうだという感覚がありました」
この方針のもと、介護・保育領域の人材ビジネス、海外展開、HR SaaSなどに利益をほぼゼロまで投資。新規事業は西澤氏や役員クラスが担当し、既存事業は新卒上がりの若手部長層に任せるという大胆な役割分担を敷いた。
結果として、3割程度の事業が当たり、それぞれ30億〜100億規模の事業に育ち、2019年には目標を1年前倒して551億円を達成する。
急成長の代償として、組織は破裂寸前まで膨張した。SaaS事業(ジンジャー)と既存の人材事業はビジネスモデルもカルチャーも異なり、両立が難しくなったため、2021年11月に「jinjer株式会社」として分社化する決断に至る。
「本質的には1つでやっていきたかったのですが、両方の事業価値を最大化するにはこの選択しかないと判断しました」
分社化に伴い、約400人のメンバーが転籍。新卒入社直後の社員も含め、一人ひとりに丁寧に説明し、希望を確認しながら振り分けを行ったという。残されたネオキャリア側にとっても、最も投資していた「4番バッター」が抜ける形となり、立て直しのためにパーパスから「セブンゴールズ」までを再設計するプロジェクトを走らせた。
ネオキャリアの強いカルチャーについて、西澤氏は「規律」をキーワードに挙げる。
「統制ではなく『規律』です。挨拶をする、時間を守る、みんなで同じ行動をする。私たちは25年間、毎朝復唱を続けています。自分を律するという意味での規律はとても大事です」
さらにサービス業としての姿勢を、ディズニーランドのキャストになぞらえる。「キャストぐらい楽しめているか、ホスピタリティを持ってゲストに接しているか。苦手なお客様がいるなんて、キャストは言わないですよね」
バリューの中心に据える「楽しみが止まんない」という言葉も、こうした思想から生まれている。
約4000人規模に育った組織を束ねるのは、Why(パーパス)、Where(2030年セブンゴールズ)、How(バリュー)の3層構造だ。
パーパスは「人と本気で向き合い、未来を切り拓く」。その下に2030年に達成する7つの定量ゴール、各事業部ごとに連邦経営的に持つビジョン、そして全社統一の7つのバリューが置かれている。
「ほとんどの会社はここが緩かったり、プロダクトにフォーカスしてWhyが弱かったりします。背骨がちゃんとしていないと、人は立てないし歩けない。ここに魂を込めて、自分ごと化できる施策を地味に積み重ねることが伸びる会社の条件だと思っています」
バリュー策定時には全社員アンケートで好きな言葉や大事にしている価値観を集め、ディスカッションを重ねた。社員総会での発表後も、西澤氏自身が1対Nのセッションを繰り返し行い、浸透を図っている。
最後に、西澤氏は若手経営者への警告を込めて、自身が最も意識していることを語った。
「役職や報酬、上場経験などで、人にはバイアスがかかります。経営者は誰よりも勘違いしやすい生き物なんです。それでも一個人として徳を積んで、いいやつでい続けられるかが本当に大事です」
そのために、西澤氏は「偉そうにしない」ことを徹底的に意識しているという。「これを意識するだけで嫌われなくなる。大体の経営者は嫌われてダメになっていきますから」
会社が目立つことは良いが、経営者個人が目立ちすぎると嫉妬や妬みが集まる──22歳で起業し、25年にわたり経営の現場に立ち続けてきた西澤氏ならではの、実感のこもった言葉だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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