クラウドワークス元COOの成田修造氏が、起業1年目の経営者・はやまりほ氏の「ビジョンと目先の売上の矛盾」という悩みに答える。ミッションとビジネスモデルの関係、顧客との向き合い方、そして信頼が積み上がるJカーブの考え方まで、創業期の経営者に向けた本質的な助言が語られた対談を収録。
起業1年目の経営者にとって、「自分が掲げたビジョンと、目の前の売上を作るための行動が一致しない」という葛藤は避けて通れないテーマです。スタートアップ向けの人材紹介事業を立ち上げて1年が経過したスワーカーズ代表のはやまりほ氏が、クラウドワークス元COOで現在は複数社の社外取締役を務める成田修造氏に事業相談を行いました。本記事では、ミッションとビジネスモデルの関係性、そして創業期に何を大事にすべきかについて交わされた対話を再構成してお届けします。
はやま氏は学生時代から「職業としての起業家」になることを目指し、サイバーエージェント新卒入社後にAbemaTVのPM、その後は藤田ファンドでスタートアップ投資を約4年半経験。20社ほどへの投資を通じて、スタートアップが抱える採用の悩みに繰り返し触れてきたことが創業のきっかけになったといいます。
現在の事業はスタートアップ特化の人材紹介エージェントで、社員はおらず業務委託メンバー4〜5名で運営。集客はビズリーチなどの媒体を使わず、リファラルとX経由の相談が中心です。すでに資金調達も済ませ、走り出しは順調に見えますが、本人には拭えない悩みがありました。
「将来的に目指したいビジョンややりたいことに対して、目先の売上を上げなきゃという時に、自分の将来やりたいことと足元の行動がズレるなと感じる時がある。そこにどう折り合いをつけるべきか」
はやま氏が描いている将来像は、スタートアップで働く人を増やすこと。人材紹介はその第一歩で、いずれはスタートアップと支援者をつなぐマッチングプラットフォームやコミュニティを作りたいという構想です。
この相談に対し、成田氏は冒頭から踏み込んだ意見を述べます。
「正直、テーマ自体がちょっとふわっとしすぎな感じがします。自分だったら、そういうテーマを置きつつ具体的な市場にいくつかのポイントを置く。例えば人材は支援した方がいい、資金調達も支援した方がいい、M&Aも支援した方がいい、というのがビジネスの市場。それと目指しているものを解釈的につなげていくアプローチを取る」
ミッションから逆算してビジネスを落とし込むのは難しいというのが成田氏の見立てです。さらに踏み込んで、こう語ります。
「ミッションの話とビジネスモデルの話はほぼ一致しない、違うものなんですよ。僕はそういうものに縋ること自体にあんまり意味がないと思っていて。どちらかというと、ビジネスをちゃんとやってお客さんに貢献して、従業員に貢献して、社会に貢献するというアプローチ。それを無理やり社会起業などで繋げて大きなムーブメントを作ろうとする人たちがいるけれど、本質的にそんなものは関係ない、というのが僕の理解です」
それでも自分の中に「成し遂げたいもの」は必ずあり、それはビジネスを続けるうちに自然に表出してくる、と成田氏は続けます。
「ミッションなんていうものは掲げるものではなくて、溢れ出ちゃうものなんですよ。学生世代から起業家になりたいという憧れがあった人なら、なおさら出てきちゃう」
成田氏が具体例として挙げたのは、東証プライム上場企業のSMSです。同社は「介護・医療を変革する」というビジョンを掲げる一方で、ビジネスモデルの根幹は看護師や介護士の人材紹介業。
「ビジョンとビジネスモデルがずれていないんですよね。高齢化社会に対して人と情報を提供するというところは見えている中で、でも硬くちゃんと稼いでいる。社長は今後介護ロボットなど最終的に見えているものはあるけれど、今はこれをやっている、と。それでいいというか、むしろソリッドなビジネスモデルのほうが全然大事だから」
掲げる理想とビジネスは切り分け、まずは目の前の顧客に貢献して稼ぐこと。そこに自分の「色」が滲み出るというのが成田氏の考えです。
話題は人材紹介事業ならではのジレンマに移ります。はやま氏は、スタートアップに向いていない求職者に対しても紹介すべきか、それともその人にとって最適な選択を伝えるべきか、という問いを投げかけました。現状は「転職者にとって一番いい転職をしてほしい」という思想で、向いていないと感じれば率直に伝えるスタンスを取っているといいます。
成田氏の答えは明確でした。
「めっちゃアリでしょ。それが大事なんじゃないですか。そこで売上が上がるから今月は5人成約、みたいになっちゃう。『5人』と言っている時点で、その人は数字に変わってしまっている。最初の0→1から拡大期への大きな分岐は、人を人として見なくなったり、マッチング件数というお客さんに本質的に向き合う習慣がなくなっていくこと。そこにこそカラーが出るんだから、いいんじゃないですか」
会社が大きくなってもこの姿勢を絶対にぶらさない、というはやま氏の決意に、成田氏は強く同意しました。
成田氏はホワイトボードに線を描きながら、創業期の事業成長の形を解説します。
「グラフで言うと、こうフラットでもないし急上昇でもない。どちらかというとJカーブ。最初の期間は売上が付かないので影響力が低い時期だけれど、その間にお客さんとの信頼がちょっとずつ積み上がっていく。信頼度数がある程度を超えてくると、一気に伸びる」
人材紹介のようにビジネスモデルでの差別化が見えにくい領域こそ、「どう接するか」というところにブランドが出る、というのが成田氏の指摘です。
「だからやるべきは、どういう風にお客さんに向き合っていきたいのか。それは企業もそうだし、求職者もそう。その向き合いたいという思想をどれだけ強化して、自分以外の人がやった時にもしっかり浸透しているというカルチャーを作ることが一番大事なんじゃないですか」
対談の最後、はやま氏は「ぶらさないというところと、ビジョンの奴隷になりすぎなくていいというところがすごく参考になった」と振り返りました。同席したふみこ氏も、人材紹介という競合の多い領域で勝つには「自分たちの色を出すこと」が鍵になる、と納得した表情を見せます。
ミッションは旗印として無理に掲げるものではなく、顧客への誠実な向き合い方の積み重ねから自然に溢れ出てくるもの。創業1年目の経営者が、足元のソリッドなビジネスを磨くことに集中する勇気をもらえる対談となりました。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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