東京プロマーケット上場を目指していたダイアリー社が、Jアドバイザー選定の段階で1社から「お受けすることが難しい」との回答を受けた。動画コンテンツ3,000本の精査が困難という理由を中心に、代表と社員が率直に語り合った。経営者としての葛藤、組織づくりの本質、上場の意味を問い直す対話の記録。
M&A CAMPを運営するダイアリー社の代表が、約1か月前に公開した「上場目指します」という動画から一転、上場審査の前段階でつまずいたことを率直に報告した。
同社は、東京プロマーケット、続いて名古屋証券取引所、グロース市場へとステップアップしていく構想を発表していた。最初のステップである東京プロマーケット上場に向けては、Jアドバイザー(J-Adviser:上場準備や上場後の継続的な助言を担う、東京プロマーケット特有の指定アドバイザー)の選任が必須となる。同社は2社にJアドバイザー就任を申し込んでいたが、そのうちの1社から「お受けすることが難しい」との回答が届いた。
「上場審査を受けるその手前の、審査前審査で落ちるという事態になっています」と代表は語る。動画はまさに、その回答メールが届いた直後の感情を残しておこうという思いから収録された。
Jアドバイザー就任を辞退された主たる論点は、同社が運営するYouTubeチャンネルおよびSNSに掲載されている動画——ショート動画も含めて約3,000本——の精査の現実性にあった。
上場準備においては、各コンテンツがガバナンス体制やコンプライアンスの観点で問題ないかを一件一件検証する必要がある。しかし3,000本という量は、これまでアドバイザーが取り扱ってきた上場準備企業のコンテンツ量と比較しても膨大であり、就活関連動画のエビデンスの確認や、場合によっては動画の非公開対応が必要になる可能性もある。総合的に、万全な審査ができるか不確実な状況にあるという判断だった。
代表自身は、明示的に書かれていなかったものの、業績面でもまだ足りない部分があり、それも含めて総合的に判断された結果だろうと推測している。
「いやあ、本当に舐めてました、というのが結論です」。代表は包み隠さず語る。「初手でつまずくとは、何とも言えない気持ちです。プロマーケットを舐めていました、正直」。
上場宣言を社外に出していたことで、社員にどう伝えるかも悩ましかったという。「やっぱり会社として、皆さんがたまにご意見いただく通り、まだまだ赤ちゃんというか、学生ベンチャーに毛が生えた程度の会社なんだなと認識させられました」。
一方で、Jアドバイザー候補との対話を通じて、ガバナンス体制、労務デューデリジェンス、クイックレビュー(上場準備の入口で行う簡易調査)、内部統制の実態調査など、経営者として整えるべき領域の「基本のキ」に触れることができたとも振り返る。「経営って、いろんなことをしなきゃいけないんだなと改めて認識できました」。
今回の出来事を通じて、代表の中に強くなったのは「クリエイターとして突き抜けるか、経営者としてビジネスを伸ばすか」という葛藤だった。
「自分が向いているのは、コンテンツクリエイターとしてなり上がっていくことなのか、経営者としてなり上がっていくことなのか。使う筋肉が全然違うんだなというのを感じました」。
この問いに対し、社員のジョン氏は「亀は泳ごうと思えば泳げる。うさぎは泳げないけれど」とたとえつつ、代表が動画コンテンツに向いていると感じる一方で、経営者になりたいという志向を尊重するべきだと答えた。「自分の方向性、目指そうと思っている方向性とは少し違う可能性はある。だから焦らず、方向性を見ながらやればいい」。
代表自身は「自分が困ったことを解決するコンテンツやサービス、プロダクトを作って、自分が作りたい世界観を作りたい」というのが根幹の動機だと語る。手段としての会社作りであり、YouTube運営であるという位置づけだ。それでも上場というプログラムは、仕組みづくりの手段として、また人生の体験として「やってみたい」と思える対象だった。
対話の中で、社員から鋭い問いが投げかけられる。「なんでそんなに急ぐ必要があるんですか」「そもそも、なんで上場したいんですか」。
メディア企業として上場している事例は決して多くない。社員の一人は「縛られないことによって生み出せる価値こそメディアができることだと思っているので、私はあまりショックを受けていない」と語った。「目の前の仕事と、自分が持っている事業と、会社を伸ばすことに注力していれば、結果として上場になるならそれでいい。上場を目指して頑張っている人なんていないと思います」。
この言葉に代表も「その通りですね」と同意する。仮に今期の業績で前審査をギリギリ通過したとしても、本質的にはあらゆる規制に追われ、本来投資すべき領域に投資しきれない可能性は大いにある——そう冷静に見れば、今のタイミングが最適とは限らない。
代表が次に直面しているのは、自身が苦手とする領域を補える人材をどう確保するかという課題だ。「採用というか、得意な役割を担ってくれる人を探したり、社内から抜擢するほうが現実的にいいだろうと思っています」。
社員からは、外部採用への賛同の声が上がった。「得意なところを伸ばして、代表が不得意なところを補ってくれる人を入れることで会社が爆速で伸びるなら、結果として代表が作った会社が大きくなる、ということじゃないですか」。
別の社員は、これまで複数の経営者を見てきた経験から「代表は圧倒的に自由人で、プレイヤー気質。行動量で言えばナンバーワン。だからこそ、代表のことをよく理解してくれるバディ的な立ち位置の人がもう一人いたら、もっと伸びるのに、と思ったことがあります」と語った。
代表の意思決定や考えを言語化し、社員に納得感ある形で伝えられる人材——その必要性を、社員たちは率直に伝えていた。
上場前審査は、落ちたからといって受けられなくなるわけではない。売上が立ち、状況が認められれば、再度審査を受けることは可能だ。動画本数の問題があるもう1社についても、業績が証明できれば検討の余地は残っている。
対話の最後、社員から出た言葉がこの日の議論を端的にまとめている。「新規上場審査がなんかゴールみたいになっているけれど、社員はもう足をつけて、目の前の仕事をやるべきことをやるだけです」。
代表もこれに頷き、規模を追うのではなく、誇れる事業を作ることに重心を置く方向性を改めて確認した。「規模感を追い求めると病んじゃうんですけど、大きいことをしたい気持ちもある。それがどっちも、という感じですね」。
挫折の報告でありながら、組織の現在地と次に取るべき手を率直に共有する場となった対話だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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