「時価総額こそが企業価値」と信じてきた若手経営者が、メディア事業を通じて気づいた経営観の変化。資本主義と世界観の両立、M&A経験から得た学び、そして「いい事業といい世界観」を小人数で着実に作る方針へとシフトした思考の軌跡を語る。
以前は「時価総額10兆円企業を作りたい」と公言し、企業価値の最大化こそが正義だと信じていた。今もその思いは消えていないが、最近になって「時価総額や企業価値が全てではない」と考えるようになった。
もし全てが順調にいっていたら、この考えに至らなかったかもしれない。さまざまな失敗を経験し、時価総額だけを伸ばし続けた先に何があるのかと自問したとき、それよりも自分自身が抱えた課題を解決すること、困っている人を助けることのほうが大事だと感じ始めた。
M&Aや就活、転職に悩んでいた過去の自分と同じような人を助けることのほうが、自分にとっても社会にとってもプラスに働く。そう思い始めたのが、この動画で語られる方針転換の出発点である。
まだ資金調達による株式譲渡は行っていないが、上場後に時価総額を上げ続けることや、数百億・数千億円規模でのM&Aに憧れていた時期もあった。しかし最近は、メディア会社として「世界観を作る」ことと、資本主義的な経済合理性が必ずしも一致しない場面に直面し、約1年前から悩んでいたという。
具体例として挙げられたのが、コンテンツ制作の判断だ。世界観を作るためには制作したほうがよい動画でも、経済合理性だけを考えれば赤字になるからやらないほうがいい、というジレンマである。メディア企業において、資本主義と世界観の両立は意外に難しいと痛感したという。
究極的に何が一番大事かと考えたとき、自分自身が抱えた課題を解決したときに最も幸せを感じることに気づいた。だからこそ、時価総額最大化のための意思決定と、世界観や課題解決のための意思決定が一致しない場合、後者を優先すると決めた。
M&Aに関するメディアを始めた背景には、「売り手と買い手の情報・機会の格差」への問題意識があった。自身は売り手側の強い原体験を持っており、当時は「M&Aはかっこいい」「M&Aすれば次のステージに行ける」と思い込んでいた部分があったという。
もちろん事業譲渡や会社譲渡で得られるキャッシュなど、M&Aのメリットは多い。しかし毎月・毎年きちんと黒字で利益を積み上げているのであれば、必ずしもM&AやIPOがゴールではない、と最近は考えるようになった。
また、自身のM&A経験から「実態よりも高い評価がついた場合、後からしっぺ返しを食らう」と痛感したという。欲望ではなく、自分が好きだと感じることや意義を感じることを判断基準に意思決定していく方針を語っている。
事業を伸ばそうとするあまり、「拡大」ではなく「膨張」になっていた感覚があったという。とにかく人を増やさなければ、売上を伸ばさなければと思い詰めていたが、それは違うと気づいた。
ChatGPTをはじめとするAIなどのテクノロジーが進化する中、少数精鋭で優れた事業を作るほうが、1万人規模の会社よりもインパクトが大きい場合もある。本当に作りたい世界観や事業を実現できている状態のほうが、自分の幸福度も社会への価値も大きいと考えるようになった。
そのため、規模拡大だけを目指すのはやめると決めた。成長は続けたいが、その先にあるのは時価総額という数字ではなく、本質的な価値を作ることだ。シンプルにいい事業といい世界観を作ることに集中し、「小人数で大きなことを成し遂げるほうがかっこいい」と最近は感じている。自社のビジネスモデルもスモールビジネス寄りであり、利益を着実に積み上げることを今年の目標にしているという。
動画内では、最近学んだこととしてメモしていた項目が共有された。
1. キラキラに騙されない・パリピにならない
2. 現金がすべて。キャッシュにシビアになる
3. 経営もコンテンツ企画も「側(がわ)」から入らない。流行や見栄えだけで判断しない
4. できるだけ正直にいる。嘘はつかない。正直は信頼を生む
5. 恥はさらせばさらすほど良い。自身の恥さらしは親近感を生む(M&A体験談を語ったときに好評だったという実感から)
6. 一定「鎖国」して、山の対象でもいいからきちんと成長する。情報過多の中で自分と対話する時間を作る
7. 規則正しい生活が大切
「側から入る」とは、どこかで流行っているからまねをする、投資する、といった本質を理解しないままの判断のこと。これがうまくいかなかった経験から、本質を見極める姿勢を重視するようになった。
約10人規模の会社でストックオプションを2回発行したが、現時点ではあまり効果を感じていないという。離職防止やモチベーション向上といった効果は今のところ見えていない。制度自体は今後も継続する方針だが、それ以上に「一緒にいるメンバーが運命共同体だと思ってもらえる振る舞い」、つまり制度ではなく心の部分が重要だと感じているという。
一人では何もできないので、会社が大きくなったらみんなで果実を分ける——そのスタンスを持って、私欲をなくして行動していくと語る。
向き合うべきは自分が抱えた課題感や解決したいテーマであり、世界観を作るために集まったメンバーがそれをやり遂げた結果として価値がつく。この順番を逆にしてはいけない、というのが導き出された結論である。
これまで自分自身、大学の偏差値を追うような感覚で時価総額を盲信しすぎていたと振り返る。「1点突破」が大事だと考えてきたが、それだけではダメだと最近気づいたという。
行動力全振りで動画だけ作ればいい、営業全振りで物が売れればいい——それでは経営はうまくいかない。得意・不得意はあっても、すべてのことにある程度の理解と知見がなければ組織化はできない。
バックオフィス、メディア制作、ファイナンス・会計、採用、組織運営──どの力も必要であり、それがなければ成し遂げたいことは成し遂げられない。だからこそ、全部やろうと決めたという。
本動画は、時価総額最大化を目標に掲げてきた若手経営者が、メディア事業を通じて経営観を見直し、「いい事業といい世界観を小人数で着実に作る」というスタンスへとシフトした過程を率直に語ったものである。M&A経験から得た「実態より高い評価は後でしっぺ返しが来る」という学びや、ストックオプションの限界、そして全方位への理解の必要性など、スタートアップ経営者にとって示唆に富む内容となっている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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