M&Aバンク創業者の島袋氏とMA CAMPの柴氏が、IPO準備の制約、M&Aで得た資金の使い道、経営者としての責任と自由のバランスについて本音で語り合った対談。上場を目指す若手起業家が知っておくべき現実と選択肢を浮き彫りにする。
MA CAMPの柴氏が、約1年ぶりにM&Aバンク創業者の島袋氏にインタビューを行った。前回の対談からの大きな変化は、柴氏の会社が今年2月にポート株式会社から一部増資・一部売却を受け、IPOを目指す方針に舵を切ったことだ。
柴氏は方針転換の理由をこう語る。「総合的にM&Aのメディアを始めて色々話を聞けば聞くほど、結局IPOが一番なんだかんだいい、という結論にたどり着いた。関係者の方が経済的にも幸福になり、自分自身も中長期で大きくなれる。元手が大きくなればなるほどレバレッジが働くから、自社株が一番効率がいいんじゃないかと」。
相談した10人ほど全員に反対されたというが、柴氏はこの逆張り路線にチャレンジしたいと話した。
島袋氏自身は数年前にIPO路線へ切り替えており、現在は時価総額96億円のバリュエーションで上場準備を進めている。43歳の島袋氏は、27歳の柴氏に対して「若いならIPOにチャレンジした方がいい」とアドバイスした。
理由は経営者としての経験値だ。「上場準備をすると、オーナーシップの効かないワンマンじゃない経営を強いられてくる。その経験はなかなかできない。上場を目指すと、それに乗っかろうとしてくれる優秀な人が集まりやすい。後の経営にプラスになる」と島袋氏は指摘する。
さらに、自社株の経済合理性についても触れた。創業社長で株を持っていても、上場後に株を大量売却するのは現実的に難しい。時価総額が上がっても売りづらいと一般に言われる中で、最低でも200億円規模の上場でなければメリットは薄いという見方だ。柴氏も「最低でも時価総額200億〜300億円ぐらいで上場できるレベルでなければ意味がない」と同意した。
島袋氏のM&Aバンクは、これまで6回ほどの第三者割当増資で2桁億円規模の調達を行ってきた。1社のCVCを除き、ほぼすべてエンジェル投資家からの調達だという。
「M&Aがどんどん増えてきて、出資できる金持ちがめっちゃ増えてきている。売却した年はエンジェル税制で投資できれば節税にもなる」と島袋氏。1案件あたり2,000万〜3,000万円、多い人では5,000万円規模で出資する個人投資家も珍しくないという。
M&Aバンクという媒体自体がIR的な役割を果たしている側面もあり、「YouTubeで実績を出してきたからこそ、エンジェルからの調達もスムーズになった」と振り返った。
柴氏が最も気になるのが、IPO準備に伴うコンテンツ制限だ。島袋氏の答えは率直だった。「めっちゃかかる。動画を勝手に上げることはできない。チェックを通した上で出している」。
話題に上がったのは、過去にM&AバンクのSNSで炎上したケース。動画も含め、当時はチェックを経ずに公開したものが社内的に問題視されたという。「未熟だった。上場を目指すなら本当に気をつけた方がいい」と島袋氏は警告する。
また、社長個人がメインで出演し続ける動画フォーマットには「この人がいなくなったらビジネスが回らないのでは」という懸念が必ず指摘されるという。「分散しなきゃいけない。あくまでもツールのひとつ、集客チャネルのひとつという位置づけにしないと上場準備では成り立たない」。
バーチャルキャラクター(VTuber的なIP)を活用するアプローチが、属人性を切り離すヒントになり得るという話題にもなった。
島袋氏は20代・30代の経営者向けに3つの選択肢を提示した。
第一に、可能ならまずM&Aで一度キャッシュリッチになり、その資金を元手にIPOに挑戦するルート。柴氏のパターンが該当する。
第二に、地方で代々続くオーナー企業を太く長く運営するルート。「インフルエンサー社長や上場社長ばかりがすごいわけではない。地方の長く続く企業はサービスのクオリティや従業員の生活を本気で考えている。これもまたすごい」と島袋氏。
第三が、インフルエンサー型の経営者として動画でレバレッジを効かせるルート。「インフルエンサー活動が楽しくてYouTubeをやっているのに、経営者として黒子に回れるのか。自分はまだ覚悟が見つかっていない」と島袋氏は本音を吐露した。
話題はM&A後のキャッシュの使い道にも及んだ。島袋氏は1社目を売却して手取りで約2億円を得たが、「2年も経たずに残り100万円まで減った」と明かす。
内訳は、次の事業のライセンス取得に約1億円、M&Aバンクの赤字補填に約6,000万円。さらに高級時計(オーディマピゲ)の購入や、知人の事業への投資が続いた。「説明がうまい人から誘われると『投資しないと損だ』と思ってしまう。これは自分だけじゃなく、M&Aした周りの人にもめちゃくちゃ多い」と苦笑する。
柴氏は「2億円をそんな短期間で使い切る自信は自分にはない」と驚いたが、島袋氏は「贅沢に使うお金なんて知れている。事業投資で溶けていくのが大半だ」と説明した。
対談の終盤、島袋氏は経営者としての葛藤を語った。「俺はインフルエンサー能力の方が高いと思っている。経営はむずい。20代の採用もしなきゃいけないし、文化を作っていかなきゃいけない」。
クラブピラティスは順調だが、他に立ち上げたブランドは事業をエグジットするタイミングを誤って撤退した経験もある。「M&Aバンクで『◯億すごいですね』と言っているのに、頭の中はもう一方の事業のリストラのことで一杯、という矛盾が辛い」。
それでも経営を続けるモチベーションは「責任1,000%」だという。資本市場でのバリュエーションを目指すゲームに依存しすぎない方がいい、という考えも持ちながら、ステークホルダーへの責任で走り続けている。
柴氏は「数年後、自分も同じ葛藤に直面しそう」と共感した上で、「結局自分は中長期で動画コンテンツに張りたい。退屈になるのが一番怖い」と自身のスタンスを語った。経営者としての適性、コンテンツクリエイターとしての強み、そして時価総額数百億円という目標──そのバランスを探る対話は、IPO準備中の若手経営者に多くの示唆を残した。
本対談で浮き彫りになったのは、IPOとM&Aは単純な優劣で語れないという事実だ。創業者がある程度株を持つフェーズなら、お金の最大化という観点ではM&Aが合理的という見方もある。一方で、若い経営者が経営力の幅を広げ、優秀な人材を集める観点ではIPO挑戦に意味がある。さらに、地方オーナー企業の道も含め、経営者の生き方は多様化している。
島袋氏が語る「責任で走る経営」と「インフルエンサー的自由」のバランスは、メディア事業を軸にする起業家にとって普遍的な問いだ。柴氏のIPO挑戦が今後どう展開していくか、続報に注目したい。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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