M&A BANKの島袋氏は、一度は会社を売却し「これからは全部M&A」と考えた経験を持つ。しかし大した事業はできないと痛感し、現在はIPO路線へとシフト。売却前提の経営の落とし穴、M&A仲介市場の現状、買い手側支援やPMIなどの空白地帯まで、M&A CAMPとの対談で語った内容をまとめる。
島袋氏は、規模のある会社をつくろうとするなら、売却前提で経営トップが事業を動かしてはいけないと断言する。
株主は出口がないと換金できないため売却を意識するのは合理的だが、経営者が売却前提で動くと社員や関係者に「いつか売るのでは」という空気が伝わり、組織に熱狂が生まれにくい。競合が顧客のために商品やサービスを磨いている間、自分たちは自社のキャッシュフローばかり考えてしまうことになる。カルチャー形成も「できる人だけ・アウトソーシングでいい・利益さえ出れば」という発想に流れ、ドライな組織になりやすい。
島袋氏自身、一度売却して経営を卒業できると感じた経験から「これからは全部M&Aだ」と動いた時期があったが、「大した事業はできない」と痛感したという。
IPO路線を選んだ背景にあるのは「社会性」と「安定性」だ。上場会社は金融商品としての側面を持ちながら、調達した資金で会社を成長させる責任を負う。そのため社長依存度を下げ、即決即断ではなくガバナンスを効かせる仕組みを整える必要がある。
島袋氏は「種銭をある程度貯めたうえで、より大きな事業に挑戦するのは十分にあり」と話す。実際にやっていて楽しいのは、ガバナンスが厳しくなっていくのに事業が伸びている瞬間、自分がオーナーであるにもかかわらず「待ってください、本当に大丈夫ですか」とノーを突きつけられる瞬間だという。
「経営をバリバリやっているけれど、心の中はどんどん株主寄りの考えになっていく」。投資家的な視点を経営者自身が持たないと、上場フェーズの会社は伸ばせないという認識だ。
上場後に求められる毎年130%以上の成長について、島袋氏は「90%は経営者の能力ではなく、事業とマーケットで決まる」と分析する。
- 広告代理店やD2C系のEC通販などは、毎年130%成長を読みづらい
- 店舗系は物件さえ決まれば計画通りに展開しやすく、再現性が高い
- M&A仲介や人材紹介は「アドバイザーをいかに採用できるか」という難度の高い仕入れ問題を抱える
そのうえで「これからM&A領域で勝つには、優秀な人材を“アドバイザーに転身させる教育(エデュケーション)”側にポジションを取る企業が強い」と予測する。大手にくすぶっている優秀な人材を、ファイナンスや業界知識のギャップを埋めてアドバイザーに変えていく仕組みを作れた者が次の勝者になる、という見立てだ。
M&A仲介市場について島袋氏は「もうタイミングとしては遅い」と語る。1,000億円超の上場仲介会社が複数存在し、効率化に差はあれど、顧客から見れば結局「人」と「会社の名前」で選ばれているのが現状だからだ。採用戦争の様相を呈しており、領域単体での差別化は難しい。
そこで島袋氏が示すのは「M&Aで流入させて、M&Aを売らないモデル」。M&A BANK自身も流入してきた経営者をクラブピラティスのフランチャイズオーナー候補に転換するモデルを実践している。M&Aを入口にしながら、別の事業へ転換させる力が重要になってくる、というのだ。
対談では、買い手側に特化したサービスやPMI(M&A後の統合作業)支援の可能性も話題になった。売り手向けの情報は世に増えているが、買い手側に特化したサービスはまだ少ない。上場企業を含む買い手はM&Aを成長戦略の柱に据えながら、担当者を採用できなかったりナレッジが不足していたりするケースが多い。
PMIについて島袋氏は「基本的に買い手の責任」とした上で、買い手がカルチャーをどう扱うかで難易度が変わると指摘する。「買ってから朝礼をやります」と一気に変えに行くケースは現場で混乱を生みやすい。一方、最近M&Aを活発に活用して成長している会社は、無理にカルチャーを変えにいかない傾向があるという。買い手側のリテラシー向上を支援するコンサル領域には、参入余地が残されている。
M&A BANKでは月額型の経営者サロンも運営している。売り手の経営者は孤独で、相談相手や情報源を求めている。月額5万円という設定は一見高いが、「M&Aは金額が大きいので、表明保証の条項一つを知っているだけで月額費用は十分にペイする」と島袋氏は話す。売却後も同じサロン内で友人関係が続き、運用やキャリアの相談相手にもなるという。
売り手側に圧倒的に情報が少ない、というM&A業界の構造的課題への一つの回答が、サロンというフォーマットだ。
クラブピラティスのフランチャイズは現在およそ60店舗規模。「3店舗を超えるとオペレーションが楽になる」のが実感だという。
オーナーと店長が1対1ではなく1対Nの関係になることで、店長同士に横のつながりが生まれる。競争環境が自然に成立し、ノウハウもシェアされる。店舗が増えるほどオーナーが直接動く必要は減り、権限委譲とノウハウの蓄積が進む。日本で成功したオーナーがシンガポールに出店するなど、海外展開の選択肢も生まれている。
また、M&Aで会社を売却した経営者にとって、女装期間としてフランチャイズオーナーになる選択肢には独自の意味があると島袋氏は語る。やりたいことが固まるまでの間、パッケージ化された事業に取り組みながらコミュニティに入れる。場合によっては多店舗展開してフランチャイジー側で売却する道もある。
フランチャイズ選びのポイントとして島袋氏は「オーナーが儲かっているか」「そのフランチャイズがスタートアップか実績ありか」を挙げた。実績がありすぎると出店余地がなく儲かりづらい場合もあり、判断は株式市場のセンスに近いという。
M&A BANK周辺の調達は、CVC1社を除いてほぼエンジェル投資家から。バリュエーション約100億円で15億円規模を集めている。
島袋氏は「VCは出資元への損失を出せない構造上、オーナーの判断と衝突しやすい場面が稀ではなく、結構多い」と話す。一方、エンジェルは「M&AでもIPOでもいい」という応援スタンスの人が多く、価値観が合いやすい。ただし、ゼロから最短最速で成長したい場合は、VCのプレッシャーが推進力になることもあるという認識だ。基本的に資金調達は最終手段、というのが島袋氏のスタンスである。
なお、若手起業家が資本政策で失敗しても、長期で見ればやり直しは効く。「失敗した人のほうが先で語れることが多い」というメッセージも語られた。
対談の後半は、M&A CAMPがM&A仲介事業を立ち上げるべきかという相談に対する島袋氏のアドバイスに展開した。
- 仲介単体は片手間では成立せず、フルコミットの人員が必要
- M&Aは「マグロ漁船」のように、当たれば大きいが当たるまで赤字を掘り続ける事業。サブスク型の安定収益と組み合わせるべき
- M&A CAMPには上の世代の経営者との人脈という強みがあり、出演経営者の顧問枠を地方経営者に紹介する商品化が考えられる
- 買い手向けコンサル、M&A査定エージェントの開発、教育したアドバイザー人材を月額で派遣するモデルなど、成果報酬構造を破壊する新領域にも余地がある
M&Aを入口に、フランチャイズや顧問サービスへ広げる「経営者の出口と入り口を支援する事業」というコンセプトは、両社の事業設計に共通する思想として浮かび上がった。
島袋氏のメッセージは一貫している。規模を目指すなら売却前提で経営しないこと。M&A仲介単体ではもう勝負できないこと。買い手側・PMI・教育など、空白地帯にこそ次の事業機会があること。一度売却を経験したからこそ語れる現実と、IPOを見据えてガバナンスを整えていく現在進行形の挑戦は、M&Aを検討する経営者にとって示唆に富むものだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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