エンタメ社会学者・中山淳雄氏が、SNS時代の経営者に求められる「推される力」と、起業の成功を左右するモメンタムの正体を解説。透明性・余白・チーミングといったキーワードから、ファン化と再現性ある経営の本質に迫る。
M&A CAMPでは今回、エンタメ社会学者の中山淳雄氏をゲストに迎え、エンタメとビジネスの両立、そして経営者に求められる「推される力」について話を伺いました。リクルートで5年、ゲームやアニメの海外展開に10年携わり、現在はアニメ・ゲーム・テレビなど幅広い企業のコンサルティングを行う中山氏。SNS時代における経営者像、起業の成否を分けるモメンタム、そして再現性ある会社づくりの条件を語ります。
中山氏は冒頭、ファンドレイズや組織づくりにおいて経営者が「押される(推される)」ことの重要性に触れつつも、必ずしも全員が同じスタイルである必要はないと指摘します。
「対外的に営業へ出て目立つ経営者ばかりが成功しているわけではありません。エンジニア出身でビジョナリーなタイプ、一見存在感が薄く見えても要所要所でファンドレイズを成功させる方もいる。無理に自分のキャラを変えるのが一番難しい」と中山氏。狭く深く付き合うタイプならそのままで通用するモデルもあり、ピンポイントで推されればBtoBには十分だと言います。
まずは芸能界のポジションマップのように、自分が市場のどこに立っているのかを認識すること。強みを言語化できている経営者ほど強い、というのが中山氏の見立てです。
約15年にわたり「推し」のプロセスを研究してきた中山氏は、SNSの登場によって推しの構造そのものが変化したと語ります。
かつてのアイドルは雑誌・テレビ・ラジオと連動し、隠すことで崇高なブランドを形成していました。しかし現在は、デイリーでアップデートできる情報をあえて隠す行為がマイナスに働きやすい。中山氏が掲げるのは「ビジョン・透明性・余白」という三要素です。
定期的に誰と会っているかを発信したり、自身のM&Aストーリーを包み隠さず公開したりすることが、「この人は嘘をついていない」という信頼につながる。さらに重要なのは、見せるだけでなくファンに「関与」させる仕組みだといいます。クラウドファンディングや投げ銭、サポーター制度はその代表例です。
中山氏は、新しいオフィスへの引越し祝いを例に、応援のかたちが変わってきていることを説明します。
「ベンチャーへの祝いの花は、実はあまり必要とされていない。Amazonの欲しいものリストを送ってくれる経営者の方が、応援する側にとっても無駄がなく嬉しい」。透明性を持って欲しいものを開示することは、相手にギブの機会を与え、それ自体が応援する側の力にもなる、と中山氏は語ります。
ただし重要なのはリワードの明確さ。この10年でクラウドファンディング詐欺が多発した背景には、出したものに対する結果の可視化が欠けていたことがあります。
もう一つのキーワードが「ツールを示す」こと。「いまは投げ銭よりクラファンに参加してほしい」というように優先順位を打ち出せば、ファンは何をすればいいかを判断できる。応援する側は実は「何をしていいか分からない」ことが多い、というのが中山氏の指摘です。
うまくいく事例とそうでない事例の違いについて、中山氏は当たり外れの予測の難しさを率直に認めます。
「最初は本当に読めない。10回打席に立って1個見つかれば良い方で、20回30回と試している人の方が当てやすい」。特に消費者向けビジネスは、デジタルではキッチンとレジしか見えず、テーブル席のない飲食店のようなもの。料理(メニュー)を出してみて、食べられたかどうかだけが分かる──そんな世界だと表現します。
誰もが暗闇で手探りしているからこそ、誰か一人が当てれば一気にピックアップされ、差別化になる。中山氏自身も「エンタメ社会学者」というポジションを確立する前は5冊ほど本を書いて鳴かず飛ばずで、『オタク経済圏創世記』で一気に当たった経験があると振り返ります。「自分はこのポジションで行けると思った瞬間に、その強みを回し続ける」というのが彼の戦略です。
対談の核心となったのが、シリコンバレーで30年分の成長要因を分析した図表の話です。
「優秀な人材」が成功に寄与する割合は10%程度。一方で7割を占めていたのが「モメンタム」だったといいます。ソーシャルゲームが立ち上がる波、その中でM&Aが起きる流れ──そうした大きな潮流に乗れたかどうかが成功を大きく左右する。
戦略的にモメンタムへ乗ろうとしても完全には読めない。だからこそ、起業家は打席に立ち続けるしかない。フェーズ1のカオスはサバイバル能力で乗り越えるしかなく、ここで生き残れた者だけが次のステージに進める、というのが中山氏の見方です。
では、一度ヒットを出した会社が連続的に成果を出し続けるためには何が必要か。中山氏は「圧倒的に人の力」と断言します。
リクルート時代、年間1,000件のビジネスピッチを見てきた中山氏は、最終的に資金がつくのは50件ほどに絞られると言います。その選別基準として明確だったのが「チーミング」。
「同じ頭の人間ばかりで組んでいる企画は、視点が偏りやすい。あえて社外からこの人を入れている、このタレントが入っている──そういうチーム構成のポートフォリオが巧妙な企画ほど、ちゃんと選ばれる」
フェーズ0からフェーズ1へ移行する局面で再現性を持って成功する経営者は、チーミングと見せ方を計算し、ファンドレイズと戦略プレゼンを的確に行えるという共通点がある──中山氏はそう締めくくりました。
エンタメ社会学者・中山淳雄氏のメッセージは明快です。経営者が推される条件は、自分のポジションを見極めること、SNS時代に求められる透明性と余白を備えること、そして応援する側に明確なリワードとツールを提示すること。さらに事業の成功を左右する最大要因は本人の優秀さではなく「モメンタム」であり、それに乗るためには打席に立ち続けるしかない。一度ヒットを出した後の再現性は、緻密なチーミングによって生まれる──。エンタメと経営の現場を横断的に見てきた中山氏ならではの示唆に富む対談となりました。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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