若手起業家・赤橋ふみ子氏が「組織を作るのが苦手」という悩みを成田修造氏にぶつけた事業相談企画。マネジメント能力以前に問われる採用とカルチャー、そして憧れる組織像から逆算する経営思考について語られた対談を再構成してお届けします。
若手起業家が抱える「組織を作るのが苦手」という悩みは、本当にマネジメント能力の問題なのでしょうか。M&A CAMPの事業相談企画に登場した学生起業家・赤橋ふみ子氏は、組織を大きくすることへの苦手意識を率直に告白します。それを受けた成田修造氏の答えは、マネジメントの前に「採用」と「カルチャー」を見直すべきだという、本質的な指摘でした。
赤橋氏は冒頭、自身の悩みをこう打ち明けます。「マネジメントというか、組織を作っていくのが苦手です。言語化できていない自分の感覚だけど、なぜか絶対こう行こうと思ってしまうものがある。それがうまく伝わらず、チームが崩壊した経験も何度かあって、人を入れることや組織が大きくなることに苦手意識がある」。
これに対し成田氏は、「それはマネジメント能力の問題と見ない方がいいんじゃない?」と切り返します。
問題の所在は、入っている人そのものにある可能性が高いというのです。価値観のずれ、能力の不足、社会人としての経験値が足りなすぎて知らないことが多すぎる、そもそも感情の起伏が激しい人を入れてしまっている──こうしたケースは普通にあると指摘します。
成田氏は、自身がマネジメントの第一歩だと考えるものとして「アンガーマネジメント」を挙げます。
「あらゆる違和感に寛容になる」こと。孫正義氏のような爆発的な能力があればアンガーマネジメントは不要かもしれない。しかし、それは結果的に「言ったことをただ兵隊がやっているだけの会社」になってしまうとも語ります。そういう会社を作りたくないのであれば、怒りのコントロールはまず満たすべき条件だと言います。
話は採用論へと展開します。成田氏は、ハーバード大学のすごさを「アドミッション(誰を入れるかの管理)」に見出します。
ハーバードらしさを厳密に定義し、点数や運ではなく「ハーバードらしいかどうか」で選び抜く。企業言語で言えばカルチャーフィットです。だから採用人数を絞り続け、倍率は上がり続け、入ってくる層もどんどん上がっていく。
一方で企業はどうか。「人が足りない」「ちょっと仲がいい」「あの人優秀そう」という理由で採ってしまう。結果として、違う価値観の人ばかりが集まってしまうというのが成田氏の見立てです。
赤橋氏の事業領域は、領域として日が浅く、ターゲット人材が少ないという特殊性があります。インドを知っている人、英語を話せる人、といった条件で出会った人を「運命」と思って仲間にしてしまうものの、根底の性格的な部分でミスマッチが生じやすいといいます。
現状の赤橋氏のチームは、自身より年上の30代の方と26歳の方の2人が入り、代表である自分がブレイクダウンするのではなく、社会経験豊富な2人が自分の足りなさを補って推進してくれる構図になっていると話します。
成田氏は「それはあるあるですよ。若い経営者がやるときは、むしろ優秀な人に補ってもらって、自分が成長していつの間にかそれができるようになっていく、というのはよくある」と肯定的に評価します。
では、どんな組織を目指せばよいのか。成田氏は「自分が憧れる会社はどういう会社なのか」から逆算することを勧めます。
たとえば消費者向けに製品を売る会社であれば、ナイキ、P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソンといった存在がある。P&Gはカルチャーが異常に強く、社長が変わっても100年続いている。それがないのであれば「ない理由」も明確にしなければならず、そこにこそ自分独自のカルチャー、思想、言語が宿るというのです。
さらに、組織の温度感も重要だと言います。カジュアルに話している雰囲気か、きっちりとした感じか。常に新しいアイデアを発散させているのか、それとも工場のラインのように製造しているのか。それによって企業の質感はまったく変わってきます。
成田氏自身が憧れるのは、クリエイティブな組織が協働して強く面白い製品を作る会社──イメージはピクサーだと語ります。テック寄りで言えばGoogle。本質的には同じで、Googleはよりテクノロジーベース、ピクサーはよりクリエイティブベース。
共通するのは、トップダウンではなく、ヒエラルキーが極力なく、それぞれの専門チームが協働するからこそ生まれる製品があるという文化です。日本では任天堂、昔のソニーがそれに近いと挙げます。
ゴールからちゃんと逆算する思考が、事業だけでなくカルチャーにも必要だというのが成田氏のメッセージです。
組織崩壊する理由は、いろいろなカルチャーの人がごちゃまぜになって価値観の相違が起きていること。結果的に組織が回らず、結果的に数字がつかない。経営者は数字がつかないことに目が行きがちで、仕組みづくりや施策に走るが、本当は「最初に誰を入れているか」を見るべきだと成田氏は指摘します。
赤橋氏のチームは、デザイナーが韓国人、マーケ感覚はインド人に頼むなど多国籍構成。成田氏は「シリコンバレーと同じですね」と評価します。
シリコンバレーの強みは土地ではなく、インド人も中国人もアメリカ人もいる人種のるつぼであること。だから英語で発信した瞬間に「インド人から見ても違和感ない」状態となり、一気に広がる。赤橋氏のブランドが「どこでも売れそうなデザイン」になっているのも、その多国籍チーム構成が効いている可能性が高いと指摘します。
DtoCブランドで多国籍に物作りをしている会社は他にあまりなく、これは明確な強み。再現性は一旦置いておいて「突き抜ける」価値があるかもしれない、というのが成田氏の見立てです。
上場しない方がよいのではという赤橋氏の感覚にも、成田氏は理解を示します。組織を大きくしたくないという感覚が先にあり、それが売却を考える理由になっている可能性もあるからです。
そのうえで提示されたもう一つの選択肢が「ポートフォリオマネジメント」です。複数の製品が出てきたところで、それを全体で総合的にマネジメントする。LVMHやP&Gのように、社内に多数のブランドを抱え、どの製品にどれだけ投資してどうリターンを取るかを財務的に管理する。
そうした財務的なマネジメントを担う人と一緒にやり、赤橋氏自身はひたすら新しいものを作るチームを作る。株主としてずっとやり続ければよく、上場しなくてもサントリーのように本体は非上場で子会社だけ上場している例もある──そう成田氏は語ります。
組織作りが苦手だと感じたとき、まず疑うべきは自分のマネジメント能力ではなく、採用とカルチャーの設計です。憧れる組織像から逆算し、誰を入れるかを定義し直すこと。怒りをコントロールし、違和感に寛容になること。そして、組織を大きくすることだけが選択肢ではなく、ポートフォリオで運営する道もあること。若い起業家が突き抜けるためのヒントが詰まった対談でした。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
