忘年会で「会社の目標が見えない」「もう周りに期待していない」と社員から声が上がった——。10数人規模のベンチャーが直面した組織の揺らぎに、元ニューズピックス社長で連続起業家の坂本大典氏が答えた、ビジョンの言語化と「個人の覚醒」をめぐる対話。
M&A CAMPを運営する弊社は、YouTubeを軸に領域特化メディアを展開し、就活・M&A・転職などの領域でユーザーデータを起点としたビジネスを行っています。売上の95%を占めるのは就活生向けメディア「就職ダイアリー」。先日、10数名で開催した忘年会の場で、現場メンバーから率直な声が上がりました。
「明確な会社の目標、分かりやすい上場のような旗がないのは困ります」「みんな忙しくて、もう周りに期待していません」——口火を切ったのはサイト立ち上げを担う2名のメンバーでした。
社会人4年目で、ダイアリー2年目の丸山氏はこう振り返ります。「9月入社のタイミングでは『会社を上場させよう』という明確な目標があったのに、10〜11月にそれが一旦なくなった。みんな今ある事業の数字を残そうという感じで、1つのモチベーションに向かえない状況にもやもやしていた」。
もう1人のメンバーは異なる感覚を語ります。「1年前は私も大きな目標を全員で持ちたいと思っていた。でもベンチャーなので右往左往あって、方針が変わるのを経験するうちに『人は変えられない』という答えに行き着いた。だったら自分でできることをやろう、と。誰にも期待していないし、自分でやるしかないと思っている」。
この状況に対して、元ユーザベース・ニューズピックス社長で、現在はクロスローカルや庄内グループなど複数事業を率いる坂本大典氏に相談する形で、対話が始まりました。
坂本氏はまず、論点を二つに整理します。
「1つは、上場は目的じゃないということ。あくまでどんな社会を実現したいのかが先にあって、その手段として上場で資金調達するのが最短だよね、という順番になる。庄内グループも上場を掲げているが、それはゴールではなく、ビジョン実現のための手段だ」。
そしてもう1つは、メンバー側の姿勢です。「『会社のビジョンがないから頑張れない』というのは、僕からしたら個人のビジョンがないのと同じ。それを描くためにベンチャーに入ってきたんじゃないのか、と思ってしまう。それなら大企業に行けばいい、という話になる」。
坂本氏自身、庄内グループでは「地方の希望であれ」というビジョンを掲げ、地方の可能性を世界経済とつなげることを軸に据えています。
「米や観光といった地方の産業を世界に届けて外貨を稼ぐ。さらにその先で、稼いだ利益の使い道まで社会に発信したい。最終的には、日本の10歳の子供全員を1週間世界に送り出す仕組みをつくりたい。年間3000億、ハーバード並みの基金が必要になる規模だが、そこまで持っていけば日本の希望になれる」。
この強い言葉があるからこそ、高木新平氏や里見治紀氏といった経営者人材が集まり、組織が動いていると坂本氏は言います。
弊社代表が「自分は『情報格差をなくす』という軸はあるが、そんなに大それたビジョンを掲げる器ではないかもしれない」と漏らすと、坂本氏は重ねます。
「言葉は言っているうちに変わってくる。言い続けていると『俺、そういう人だったんだ』と自分で思い出す。みんなが言うことで、自分は『そのために生まれてきたんだ』ぐらいに認識し始める。だから言葉を恥ずかしがらずに、プロと一緒につくった方がいい。自分でやろうとすると、こんなかっこいいことを言っていいのかと躊躇するから」。
言語化はワーディングの専門家を入れてでも形にする価値がある——これが坂本氏の主張です。
話題は2人目のメンバーの「もう期待していない」発言の真意に移ります。
彼女が求めていたのは、実はビジョンではなく具体の情報でした。会社のPL、各チームの動き、来年の方針——意思決定に必要な情報が共有されていないことに、もやもやを抱えていた。「もっと頼ってくれたらやるのに」というのが本意でした。
坂本氏は指摘します。「彼女が最初に言った『会社を変えられる人材になりたい』という動機を踏まえれば、待つのではなく『この情報があればみんなハッピーに動けます』と自分から提案する。それがベンチャーで変革を起こす人材の動き方じゃないか」。
弊社代表は、PLや実績ベースの情報を細かく見せる仕組みを自分自身が怠っていたことに気づきます。すぐに着手できる改善点として共有が始まりました。
カルチャーづくりの話題ではバリューの定義に踏み込みます。
「バリューを掲げるということは、バリューに合わない人は採らない、もしくは辞めてもいいという覚悟を持つこと。これがすごく大事」。
庄内グループの新しいバリューの1つ目は「常に前と」。前のめりで推進し続ける姿勢を象徴する言葉です。一方で、優しく助け合うキャラクターの組織なら、それに合った柔らかい言葉を選べばいい——会社の個性に合った言葉を選び、それに共感しない人とは別の道を選ぶ覚悟をセットで持つ、というのが坂本氏の流儀です。
10数人規模の組織で、全員を同時に動機づけるのは現実的ではありません。坂本氏はキングダムの比喩で語ります。
「全員を一気に揃えようとせず、まず火をつけるのはこいつとこいつとこいつ、と決める。体の覚醒、学科隊の覚醒、隊長の覚醒——誰が覚醒すべきかを見つけて、そこに集中する。1人覚醒すれば周りに影響が広がる」。
覚醒する人の共通点は何か。坂本氏は明快に答えます。「自分が何を実現したいかをちゃんと持っている人。会社のやることをやる、というスタンスの人は会社が変わらない限り覚醒しない」。
採用でも坂本氏が必ず聞くのは「うちの会社に入ることを前提とせずに、今、何を実現したいのか」。10年後・5年後に何が達成できていれば自分の人生・キャリアがハッピーかを問い、その延長線上に自社での仕事が描けるかを見極めるそうです。
逆に「坂本さんと働きたいから来ます」というモチベーションだけの人は採らない。「社長を見ている人は、変わっていく社長について来られなくなる。最初は応援していても、変化に対応できなくなる」。
ビジョンを抽象的なまま掲げても、現場には届きません。坂本氏が強調するのは「実現できたと自分が納得できる具体の状態」を言葉にしておくことです。
「僕は『地方のモメンタムを変える』と言っている。じゃあいつ変わったと思えるか。真っ当な学生が地方に進む意思決定をした瞬間、モメンタムが変わったと言える。だったら学生向けの取り組みもやろうか、と逆算で動ける」。
話を受けて、サイト立ち上げ担当の丸山氏は「就活チャンネルが、今までの就活サイトでは取れなかった意思決定をするきっかけになった、という人が現れたら成功」、もう1人のメンバーは「社会人になった子から『これがあったおかげで就活がうまくいった』と言われる状態」と、具体のシーンを言葉にしました。
弊社代表は10年後の自分について「家庭環境があまり良くなかったので、最後は周りに愛されて死にたい。それも7人くらいに、本当に深く」と打ち明けます。坂本氏は強く頷きました。
「7人、めちゃくちゃいい。じゃあその7人を今リストアップしてみる。彼ら彼女らから死ぬほど感謝されるためにどう動くか、逆算で考えていけばいい。1人ひとりの欲は全然違うし、それを変える必要はない。それを堂々と持っている人が大事だ」。
持てたいから経営者をやっている人もいる。それでもいい。そこから「持てるためにどんな会社をつくるか」を逆算すれば、全部つながっていく——坂本氏はそう続けます。
対話の最後、坂本氏はこう結びました。
「会社のポテンシャルは、個人のビジョンの総和だと思っている。それがどれだけ大きいかが、どれだけの会社をつくれるかの器になる。社長1人分しかなければ、その会社はそれまでだ」。
庄内グループが地方で勢いを増しているのは、器の大きいメンバーが揃い、ビジョンに向かって各々がガムシャラに動いているからだ、と坂本氏は言います。
「役員は任命するものか、上がってくるものか」という問いには、「両方ありえるが、自分は上がってくる方が好き。ちゃんと結果を出して『この人だよね』と周囲に言わせて昇格させたい。それが本人の成長に一番つながる」と回答。安易な肩書き付与ではなく、結果による信認を重視する姿勢を示しました。
対話の締めくくりに坂本氏が掲げた言葉は「自己覚醒」。庄内グループのバリューの3つ目でもあるそうです。
「社長もメンバーも、もっと覚醒していこう。どれだけすごい人材が入ってきても、変わらないなら『いない』のと同じ。3人も含めて変わっていこう。それが組織の第一歩だ」。
会社のビジョンと個人のビジョン、抽象と具体、ワーディングと情報開示、そして全員一斉ではなく「火をつけるべき人」への集中——10数人規模のベンチャーが、求心力ある組織へ脱皮するための論点が、対話の中で具体的に整理された時間となりました。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
