デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表・斎藤祐馬氏に、伸びるベンチャーの共通項を聞きました。ビジョンの抽象化、新卒採用の重要性、ライフプランから逆算した起業のタイミング、組織の壁の越え方まで、1万人以上の起業家を見てきた知見を凝縮しています。
デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表として1万人を超える起業家と接してきた斎藤祐馬氏に、伸びるベンチャーの共通項を伺いました。中学生のころに父親が脱サラしたことをきっかけにベンチャー支援を志し、15歳で会計士を目指してデロイトに入社。IPO支援を経て今の会社を立ち上げ、14年が経ちます。
斎藤氏がまず挙げたのは、「シンプルに一言で何をやりたいかがクリアな会社は強い」という観点です。営業でも採用でも、一言二言で何をやっているかを伝えられないと広がっていきません。さらに、業界や社会を革命的に変えるような会社はマーケットも大きく、本人もぶれずに走り続けられます。
見ているスケールが大きい起業家ほど、10年経った時点で大きな会社をつくっている傾向があるといいます。最初は個人的な原体験からスタートしても、個人 → 会社 → 業界 → 社会と目線を上げていけるかが、成長の上限を決めるポイントです。
手触り感のあるサービスから現実的に取れるマーケットを試算した時、最低でも1,000億円規模、シェア10%で売上100億円程度を狙えるラインが一つの基準だと斎藤氏は語ります。
たとえば「新卒就活支援」であれば、より抽象化して「若者支援」と捉え直すことでマーケットは一気に広がります。斎藤氏自身も、当初は「国内のベンチャー支援」を掲げていましたが、現在は「挑戦者支援」へと抽象度を上げ、ベンチャー、社内ベンチャー、二代目・三代目経営者、政府・自治体までを対象に、グローバル展開を進めています。2030年には1,000人規模を目指しており、現在の社員数は約300人です。
一方で重要なのが、「経営者のモチベーションは、抽象化しすぎると下がる」という点です。たとえば「コンサルティング全般」まで広げてしまうと、自分の原体験から離れすぎてやる気が続かなくなる。「挑戦者を支援するプロフェッショナルファーム」という、自分のやる気とマーケットの大きさが両立する一点を見つけることが肝心だといいます。
抽象化の指針として斎藤氏が重視するのが、「誰の笑顔を見ると一番生きている感じがするか」という問いです。子育てで子どもの笑顔を見るとチャージされる感覚に近く、ここがぶれない範囲で事業を抽象化していけば、モチベーションを保ちながら拡大できます。
たとえば「かつての自分と同じような若者を支援したい」という起点であれば、就活支援から起業前後の支援まで、幅広い対象を一貫した思想でカバーでき、「ぶれている」と言われても説明しやすくなります。
メディアと事業を組み合わせて急成長させる戦略について、斎藤氏はピボットやリアクタなどを例に挙げました。ピボットは広告で、リアクタはマス向けにこだわって成長しています。
こだわりのポイントをピン留めしたうえで、人材や金融など稼ぎやすい業界を掛け算するアプローチが有効だといいます。ただし、M&A支援のように完全な縦展開は営業組織の構築が必要で、若いチームには相性が難しい面もあります。何を主軸にして、何をサイドに置くか――この設計が重要です。
斎藤氏が強調するのが、スタートアップにおける新卒採用の重要性です。コンサルティングファームが優秀な若手を集める構造で伸びてきたのに対し、スタートアップは中途中心で、優秀な学生がほとんど流れてこないのが現状だといいます。
中途だけで採用していると、上場後にロイヤリティの低い社員から辞めていったり、業績が悪化した時に「会社を大好きな人」が減っていたりして組織が崩壊しやすくなります。新卒で入った社員が幹部になっていく構造をつくれるかどうかが、中長期の組織力を左右します。
優秀な新卒の定義について斎藤氏は、「ロジカルさ」を一定基準に挙げます。スタートアップ的な高速PDCAは最初は苦手でも、半年〜1年で慣れて学習できる。ベースが優秀で機会が大量に与えられれば、3年で得難い人材になるといいます。かつてDeNAがソーシャルゲーム黎明期に高給で東大生を集めた世代が、今起業して成功している例も挙げられました。
組織が250〜300人規模になる過程で斎藤氏が学んだのは、「最初の20〜30人は起動力があり、報酬が下がってでも来る飛び道具的な人」を集めた方がうまくいく一方、「100人を超えてくると、安定的にロジカルに考えて動ける人が7〜8割いないと組織がまとまらない」という現実です。
中途で両方こなせる人材は希少かつ年収も跳ね上がるため、新卒採用で「コンサル的な堅さとスタートアップ的な機動力」の両方を3年かけて育てる方が現実的だといいます。
コンサルティング業界は人材流動性が高いことで知られますが、斎藤氏の会社では「3年5年で起業したい人」を年間数十人採用する方針を打ち出しています。直近4か月でも5人ほどが起業しており、卒業生がベンチャー界隈で活躍するほど自社の事業もやりやすくなる、という設計です。
離職率(退職率)の目安としては10%弱が「程よい緊張感と成長」のバランスが取れる水準。「長期で居続けることだけが正義ではない」という考え方が、ミッションと整合しています。
日本のスタートアップ環境について斎藤氏は、1990年代後半の第一世代(藤田氏、堀江氏、三木谷氏ら)以降、ライブドアショックやリーマンショックで一度止まった経緯を振り返ります。当時のVCはほぼ金融系で、不景気になると引き上げられてしまい、IPO数は2008〜2009年に19社まで激減しました。
その後、独立系VCが増え、2015年ごろから大企業のCVCが急増。官民ファンド(産業革新機構など)も加わり、リスクマネーが豊富になりました。「起業して上場するまで」であれば、世界的に見ても日本はやりやすい環境だといいます。
一方で、社会のインフラになっているスタートアップや、グローバルで勝てているスタートアップはまだ少ないのが現状です。時価総額トップ10〜100の顔ぶれが数十年ほぼ変わっていない日本に対し、米国・中国はスタートアップが大企業を塗り替えてきました。「若い大企業が増えると社会が活発になり、若い人に希望が生まれる」と斎藤氏は語ります。
M&Aの件数は増えているものの、5億〜20億円規模までが中心で、それ以上の大型案件は限定的だと斎藤氏は分析します。スタートアップが20億円以上で資金調達した場合、IPO一択にならざるを得ない構造的な問題があります。
海外、特に米国の大企業は、インターネット領域で大きな利益を上げているため、買収後にのれんが棄損しても全体で吸収できます。日本ではインターネット領域で大きな利益を出している大企業が少なく、M&Aを正当化しづらい。さらに、経営者の年齢ギャップも交渉のカルチャー差につながっているといいます。
斎藤氏が指摘するのは、「本当は起業したかったけれど、できなかった人」が大企業に多いという現実です。結婚・出産・教育費といったライフイベントが進むほど、リスクを取りにくくなります。
そのため斎藤氏は、学生〜若手にはスタートアップ起業を、30代後半〜40代には社内起業を勧めています。社内ベンチャーであっても株を5〜10%持てる設計にすれば、大企業の規模感を活かして「大企業ドリーム」が成立します。マネーフォワードの中出氏のような事例(サイバーエージェント発の上場)が一つのモデルです。
優秀な人ほど良い会社に入って抜けにくくなる構造があるからこそ、3年・5年と期限を決めて準備することが重要だといいます。
起業家自体が希少な人材であるからこそ、一人が複数回起業する「連続起業家」が増えれば、起業家の延べ数も増えるという論点も提示されました。イスラエルなどでは4回目・5回目の起業に挑む経営者も珍しくなく、優秀なチームを抱えたまま精度を上げていきます。
KDDI傘下のソラコムが行ったスイングバイ・イグジット(大企業のインキュベーション期間を経て再上場を目指す)のような二段階イグジットも、より大きな会社を生む構造として注目されています。M3やモノタロウのように、大企業発のベンチャーで時価総額1兆円を超える事例もあり、独立系・大企業発の双方からエコシステムを厚くする発想が必要です。
斎藤氏自身は現在、外国人社員を英語の先生として迎え、毎日30分のトレーニングを受けています。社内の雑談を通じて学べるため、教室通学より定着しやすいといいます。楽天が公用語を英語化したことで、海外人材や東大生の採用に効果を出している事例も挙げられました。短期の有用性ではなく、中長期の採用力・ブランディングまで設計する視点です。
会社規模ごとの壁についても具体的なアドバイスがありました。
- 20〜30人:感情的なマネジメントでも回せるが、暗黙の呼吸で通じる限界が来る。行動指針や合宿で共有を図る
- 50〜70人:「1人がマネジメントできるのは1クラス分(50人)」が物理的な限界。ここで離職が増えやすい
- 100人〜:部署を5つほどに分け、各部長に採用・評価の権限を本当に委譲する。「1対N」を「N対1」に変える
斎藤氏自身、100人の壁では離職率が上がり苦しんだものの、リーダーが採用権限を持つようにしたことで突破できたといいます。「失敗させないと当事者にならない」「ここまでは自分に持ってこないでと明確に線を引く」ことが鍵です。
対談の終盤、斎藤氏は「方向性の大枠を間違えないこと」の重要性を強調しました。マーケットがない領域は「下りエスカレーターをかけ上がる」状態で、優秀な人ほど苦戦します。逆に、伸びているマーケットでは凡庸に見える人でも成功する。投資家がマーケットを重視するのも同じ理由です。
また、突き抜ける順序として「まず一つ、日本一を取りに行く」ことを推奨。中途半端に複数手を出すのではなく、どこかで圧倒的なポジションを取ったうえで、組織の作り込み(300人規模なら6〜7部署、各部に20人程度のユニット)に進むのが定石だといいます。
楽天・三木谷氏が「5,000人の会社をつくりたいなら、最初から骨格になる人材を集めるべき」と語ったというエピソードも紹介され、半歩先・1歩先・2歩先まで見据えた採用と組織設計の重要性が示されました。
最後に斎藤氏は、起業のアイデアがない段階の人に対しても、「起業家とたくさん会えば、自然と熱量が上がってアイデアが固まっていく」と背中を押しました。属するコミュニティが思考と行動を規定する、というシンプルな原則です。
ビジョンの抽象化、新卒採用、組織の壁、ライフプランから逆算した起業のタイミング——本記事では伸びる会社の共通項を多角的に整理しました。挑戦したい個人にも、組織を伸ばしたい経営者にも、長期で設計するヒントになる内容です。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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