経営者の悩みのほとんどは「組織崩壊」。キッズライン代表・経沢香保子氏が、創業期の採用、管理部門の重要性、運と縁を引き寄せる習慣、24年の経営で辿り着いた謙虚さについて語る。地道に黒字を積み上げる経営哲学に学ぶ、若手経営者のための組織づくり論。
起業から数年が経ち、社員が10人、30人と増えていくフェーズで多くの若手経営者が直面するのが「組織崩壊」の問題だ。プレイヤー兼経営者として走り続ける社長が、どうすれば健全な組織を築けるのか。
今回はベビーシッター・家事代行のプラットフォーム「キッズライン」を運営する経沢香保子氏に、創業期の採用、マネジメントの第二フェーズ、運と縁の引き寄せ方、そして24年の経営で辿り着いた「謙虚さ」について話を聞いた。
経沢氏は2014年にキッズラインを設立。これまでに220万件以上の利用実績を持ち、少子化対策や女性活躍推進の文脈でも注目される事業へと育ててきた。
「経営者の方からもらう悩みって、組織崩壊しているんですっていうのがほとんどなんです」と経沢氏は語る。会社は人で成り立っており、コンディションには波がある。それでも一定の成果を出し続けるには、絶対的に「いい人を採用していく」ことが鍵になるという。
そのうえで、最も重視するのが創業初期の採用だ。
「最初の7人か10人が社風を決めると思っているので、そこは本当に大切。社長が何をやりたいのか、どうしたいのかを、明確にみんなに伝えることが何より大事です」
組織が崩壊し人が離れていく原因は、「自分に何が期待されていたのか」が互いに不明瞭なまま欲求不満が溜まることにある、と経沢氏は分析する。
経沢氏は2回ゼロから起業しているが、いずれも最初のメンバーは「自分の発信できた人」だったという。
1社目は無料の求人サイトに自身の思いを書き、応募してきた中から創業メンバーを選んだ。新卒の女性とエンジニアの大学生男性の2人と、計3人でスタート。そのうちの1人は今も同社の取締役として残っているという。
「ハイスペックなエリート集団を集めるやり方もあると思うんですが、私はビジョンに共感してくれる人と一緒に作っていく方を選んできました。誰も見ていなくて誰かを救うようなことをやりたいタイプなので、思いに共感してくれる人じゃないと続かないんです」
スカウトや高度な採用手法もあるが、創業期はまず「創業社長の思いや言葉にピンとくる人」を選ぶ──これが2度の起業から得た経沢氏なりの結論だ。
採用が進めば、次は組織設計のフェーズに入る。経沢氏の感覚では、おおむね7人に1人マネージャーが必要になるという。それまでは「一緒に鍋を囲める」距離感で運営できるが、それを超えると役割の分担が必要になる。
「私は自分のことを分かっていて徹底的にやり抜く力はあるんですが、現場のマネジメントが上手なタイプではないんです。だから常に、マネジメントが上手な人と、管理に強い人をきちんと採るのが、社長業の第二フェーズだと思います」
とくに経沢氏が強調するのが「管理部門」の重要性だ。
「会社って意外と守りが大事で、管理部門がぐちゃぐちゃで顧問税理士に任せておけばいい、というのは限界が来ます。組織の土台は管理部門にある。サステナビリティの観点でも、攻めだけでは続かないんです」
管理部門の最初の1人目は、未経験者ではなく「管理部門の経験者」を採用したという。経験者をベースに肉付けをしながら、外部のアドバイスも受けて整えてきた。
前職のトレンダーズ時代には、創業当初は経沢氏自身の知名度で仕事が来ていた。しかし、上場を目指すフェーズに入ると、計画的な売上を立てるため営業部隊を組成する必要があった。
採用したのはリクルートで「ホットペッパー」の統括を経験した人物。営業のリーダーを据え、メンバーを付けて組織化していった。
そこで徹底したのが、ベンチャーらしからぬほどの「礼儀」だった。
- ご馳走になったら3日以内にお礼の連絡をする
- 翌日朝一番でお礼メールを送る
- エレベーターやタクシーの席順を守る
- 接点をとにかく誠実にする
「新しいSNSマーケティングや女性マーケティングの会社って、当時は『なんだか怪しい』と見られがちでした。電通さんの大きな予算の中の1%でも任せてもらうために、まずは礼儀正しさで信頼を得るしかなかったんです」
ナショナルクライアントから年間予算を獲得していくには、口コミと信頼の積み重ねが不可欠だった。「明るく元気で礼儀正しい営業集団」という設計は、上場準備フェーズの基盤を支えた。
組織が危機に陥ったとき、必要な人材がタイミングよく現れる──そんな「運と縁」を経沢氏は何度も実感してきた。それを引き寄せるために意識していることが2つあるという。
1つ目は、「人が困った時に助けるようにする」こと。
「後輩の女性起業家でも、社員でも、悩みを相談したら何らかの解決策を持たせてくれる人だ、と認識されるようにしておく。すると、ふとしたタイミングで誰かが手伝ってくれたり、5年前に口説いていた人が来てくれたりするんです」
スピリチュアルではなく、いわゆる「陰徳を積む」感覚。経営者こそ運気を大事にした方がいい、というのが経沢氏の考えだ。
2つ目は、「敵をできるだけ作らない」こと。
外食の場では、その場にいない人を褒める。悪口を言わない。ネガティブな話には乗らない。「闇堕ち」しそうな気持ちは信頼できる人にだけ吐き出して解消する。
「派手にせず、過剰にせず、淡々と地道にやる。それを24年続けてこられた要因のひとつかもしれません」
経沢氏の経営スタイルには、もうひとつ際立った特徴がある。「黒字経営へのこだわり」だ。
「黒字じゃないと息を吸ってはいけない、くらいに思うタイプ」と本人は笑う。10億円の売上で12億円使っていれば、結局はいつか破綻する──そのシンプルな商売観をベースに置く。
一方で、現在のキッズラインは2社目の起業ということもあり、立ち上げ初期は最大で月1,000万円以上の赤字を掘っていた時期もあった。そのリスクをカバーするため、経沢氏自身が個人で月300〜500万円を稼ぎ出していたという。
- 講演活動
- テレビ出演
- オンラインサロン運営
- noteの有料マガジン
- 女性起業家コミュニティの運営
「個人で稼いだものを自分のBSに集めて、月の赤字は500万までと決めていました。社員に権限委譲してチームでやっていたから、自分も戦闘力を出さなきゃという気持ちもあった」
結果として、これらの発信活動は採用チャネルや初期ユーザーの獲得経路としても機能した。創業3年目には単月黒字が見え、5年目には1度目の上場準備にまで進んだという。
「短期的なことはあまり考えず、地道に10年やって基盤を強く作ったら、その会社はずっと残ると思っています。長期でやることが結局、一番の近道かもしれない」
インタビューでは、発信活動と組織づくりの両立をめぐる悩みも語られた。経沢氏自身、トレンダーズ時代にはコンサル業や個人としての発信で稼ぎながら経営を続けていたが、ある日それを全部やめると決めた。
「全部やめて組織を作ろう、と思った日があったんです。子供が生まれて病気で、このままじゃ回らないと感じた時でした」
2社目のキッズラインでも、ある時点でオンラインサロンもnoteもやめ、経営だけに集中するフェーズへとシフトした。
「失ってもいいから組織作りをしよう、というぐらいの気持ちにある時シフトチェンジしないと、ずっとギリギリで回り続けてしまう。組織ができればまた発信に戻れると思います」
発信を続けるか、組織づくりに振り切るか──若手経営者にとっての永遠のテーマに、経沢氏は「期間限定で自粛する」という選択肢を提示した。
今期、経沢氏が時間の使い方として意識的に変えたのが「会食を週1回にまで減らす」ことだという。空いた時間で取り組んでいるのが、会計や会社経営に関する「学び直し」だ。
「経験で学んできた知識を、もう一度体系的に学ぼうと思って。3時間勉強する日を作ってストップウォッチで測ったり、ちょっと中学受験生のマインドに戻っています」
相談に来る後輩起業家に対し、自分の経験値だけでなく、もっと網羅的に答えられるようになりたい──そんな動機もあるという。
24年の経営を振り返って、自分の中で大きく変わったのは「謙虚さ」だと経沢氏は語る。
「上場した時とかは、やればできるみたいな全能感がありました。でも人生ってほとんど運で決まっていて、それを自分の実力と勘違いすると組織が崩壊したりお客様の信頼を失ったりする。昔の尖って面白かった自分はいないかもしれないけれど、感謝する心や謙虚さが本身から出るようになってきました」
後輩の女性起業家には「一生奢る」と決めている、というのも印象的なエピソードだ。組織作りの難しさ、資金調達の壁──現実にぶつかる後輩たちに、自分が提供できるものを差し出していきたい、という思いがそこにある。
経沢氏の話に通底するのは、「派手さよりも地道さ」「短期的な勝ちよりも長期の基盤」「自分の実力よりも運と人への感謝」というスタンスだ。
- 最初の7〜10人で社風が決まるからこそ、創業者の思いに共感する人を選ぶ
- 7人を超えたらマネジメントと管理部門の専門人材を入れる
- 礼儀と誠実さを徹底し、敵を作らず、困った人を助ける
- 黒字を守りながら長期で基盤を作り、必要なら発信を一時的に手放してでも組織に集中する
組織を作るというのは、社長が「場」を作り続ける仕事である──キッズラインのオフィスで見たメンバーの熱量と落ち着きは、その積み重ねの結果なのだろう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。


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