ベビーシッター・家事代行のC2Cサービス「キッズライン」を13期にわたり経営してきた経沢香保子氏が、グループジョインによる売却を経て経営者を「卒業」。DMM亀山敬司会長を相手に、売却に至った背景、上場の「200億問題」、そして今後の人生の選び方について語り合った対談を再構成する。
経沢香保子氏は26歳でトレンダーズを起業して上場まで導き、その後ベビーシッターと家事代行をスマホで呼べるC2Cサービス「キッズライン」を立ち上げた。13期にわたり経営を続けてきたサービスは、共働き世帯の増加とともに「今の時代になくてはならないもの」に成長。経沢氏自身は52歳で経営者の立場を後進に譲り、グループ会社「みんな」(みんなのマーケット)へジョインする決断を下した。
本対談は、売却直後のリリースが出された直後のタイミングで実施されたもので、DMM会長の亀山敬司氏を相手に「売却後、何をするのが一番役に立つのか」を率直に相談する内容となっている。
キッズラインは2020年6月28日に上場承認が下りる予定だったが、安全管理に関する事案を受けて延期。その後、安全管理への投資と業績改善を進め、2年前から再び主幹事証券会社をつけて上場準備を進めていたという。
しかし、再挑戦の前に立ちはだかったのが、いわゆる「200億問題」だ。経沢氏は次のように説明する。証券会社が引き受ける条件として「200億円以上のバリュエーションがつくと想定される会社のみ」というハードルがあり、売上・利益だけでなく事業の幅や、創業者がいなくてもマネジメントシステムが回る組織を作る必要があった。
経沢氏は「5年ぐらいかかるかな」と見通したうえで、52歳の自分が57歳でようやく上場するというスピード感に違和感を抱いたという。「その5年を、私より楽しめる人の方がいいんじゃないか」と考え、副社長を社長に登用した上で、自身は経営の第一線を退く道を選んだ。
声をかけてきたのは、家事代行・ベビーシッター以外のC2C領域を手がける「みんなのマーケット」だった。「やりたいこととビジョンが一緒だから選択肢としてはあり得る」と判断し、LOI(基本合意書)を経て売却に至っている。
ここで亀山氏が「うちに持ってくれば良かったのに」と冗談まじりに切り返すと、経沢氏は周囲から「LOIの前に複数社に声をかけた方が値段は上がったはず」と言われたことを明かす。それでも複数入札にしなかった理由について、経沢氏はこう語る。
「今回売った目的は、たくさんお金が欲しくていくらでファイアしました、ということじゃない。一緒に上場するんです」
トレンダーズを上場させた経験から、経沢氏は「会社が上場するとみんなのキャリアが上がり、家族も喜ぶ」という体験を強く記憶しているという。100億規模同士の合算で「200億問題」をクリアし、若返りも図れるグループジョインは、ビジョンと社員の幸せを両立させる方法として腑に落ちるものだった。
対談の核心は、経沢氏が亀山氏に「今後の人生をどうしていくか」を相談する場面だ。「ファイアするつもりは全くない」と断りつつ、まだ次に取り組むべきテーマが見つかっていないと打ち明ける。
亀山氏の回答はシンプルだった。「まだやればいいじゃん。暇なんだろ」。経沢氏は、女性活躍など「まだ誰も取り組んでいないことで、これは私がやらなきゃと思えると情熱が入る」と自身の特性を語り、現時点ではまだそのテーマが定まっていない状態だと述べる。
当面の方針として経沢氏が挙げたのは、25年の経営経験をYouTubeやノートで発信することだ。妊娠と出産のタイミング、危ない社長の見分け方、セクハラに遭わないための方法、資金調達の考え方など、女性経営者が直面しやすいテーマを連載形式で語っていく構想を持つ。
「これまでは事業を通じて女性の働き方やライフスタイルを変えてきた。今後は事業というより言葉の力で人を元気にすることができるか、まずは1年やってみたい」
YouTubeは週2回配信を予定。対談バージョンと一人語りバージョンを織り交ぜ、最初の対談相手はリアルバリューでも縁のある皆川氏、続いて田端信太郎氏、田中Kei氏らを予定している。「お酒を飲みながら、これまで言えなかった本音を引き出したい」というコンセプトに対し、亀山氏は「やっぱりどっかで炎上するんじゃない」と笑う。
もう一つ、経沢氏がふわっと描いているのが、起業から5〜10年が経過し、エグジットの道筋や組織づくりに悩んでいる女性経営者の支援だ。
「IPOやM&Aで結果を出した人が、後ろを振り返って手伝うことには意味があるはず。困っているなら全力で助けたい」
これに対し亀山氏は、「社外取締役として入っていく方法もある」「100億規模の会社の社外取は経費の使い道にも影響する」とアドバイス。一方で「自分でやると、また起業になってしまう」と釘を刺し、経沢氏も「どこかの顧問的に入るくらいがちょうどいいかもしれない」と頷く場面もあった。
対談の終盤、亀山氏が投げかけた問いが印象的だった。「楽しむのがいいか、稼ぐのがいいか」。経沢氏が「両方はダメなんですか」と返すと、亀山氏は「両方はね、結構相反するところもあるよ」と応じる。
亀山氏自身は現在64歳。「若いのがやってるのをフォローしていく感じ。みんなが考えてくれる流れができてきた」と現在のスタンスを語り、組織のあり方について「継続してやっていれば、だんだんそうなる」と経験者ならではの視点を共有した。
経沢氏が経営者として2社を立ち上げ、いずれも大きく育てられた理由を尋ねられて即答したのは「組織」だった。「いい組織を作れるかが全て。1社目は苦労したけれど、コツを掴んでからは組織作りが得意になった」と振り返っている。
売却から間もない時期の率直な対話は、エグジットを果たした経営者の「次」をどう設計するか、という普遍的なテーマに踏み込む内容となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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