元スタートアップ経営者から出家した女性僧侶が、ペット供養や海洋散骨で生計を立てたいと相談。DMM亀山敬司会長は「悟りと煩悩は両立しない」と指摘し、意外な代替案を提示する。仏教とビジネスの間で揺れる経営者のリアルな葛藤を記録した。
今回亀山敬司会長への事業相談に訪れたのは、現在お坊さんとして活動している女性経営者のあささん。元々は歯科技工士で、3Dプリンターなどの3D技術と歯科技工の技術を組み合わせたスタートアップを9年ほど経営していた人物だ。
「コロナの直前ぐらいに、仕事以外の全てがなくなったんですよ。人間関係が」
仕事の人間関係も含め、家族・友人・働いていた人まで、関係性のほぼすべてを失ったという。モチベーションを失ったあささんは、自分のために生きようと決意し、会社を人に譲渡。釣りが好きだったこともあり、地方へ移住する。
移住先で「引っ越しそば」を食べようとGoogleマップで蕎麦屋を検索したところ、誤って大きな門前のお家にたどり着く。そこは蕎麦屋ではなく、住人から「あなたはあのお寺の住職のところに行きなさい」と告げられた。
言われた通りお寺を訪ねると、1300年の歴史を持つ寺で、住職が秘仏を見せてくれたという。「そのご本尊様が私の夢に出てきていて、『あ、私これ知ってる』と思った」。これをきっかけにあささんは出家。スタートアップ経営者から女性僧侶への転身という、極めて異色のキャリアを歩むことになった。
人間関係を失った経緯について、あささんは衝撃的なエピソードを語る。医療系スタートアップとして電子カルテ開発などを手掛けていたが、一緒に仕事をしていた妹のフィアンセが事業をそのまま模倣してリリースしてしまったという。
「揉めまして、妹は約破棄になりまして」
ビジネス自体は別に「やりたくてやっていたわけではなく、誰もやってないからそこの抜け道を行こうと思っただけ」だったため、未練はなかった。むしろ「今もうそれを続けていくのが苦痛なぐらい」だったと振り返る。
なお、現在も生計のために医療系ITの下請け仕事は続けている。大学病院などに3Dデータを提供するモデルで、これは安定的に成立している。
あささんの今回の相談は、お坊さんとして食べていきたいというものだ。一般的なお坊さんは檀家からのお布施や葬式・法要で収益を得るが、あささんがお仕えする1300年のお寺には檀家がいない。
「気祷寺(きとうじ)と言われて、人の願いを叶えるための護摩を焚く寺なんです。檀家さんがいないでそこのお寺はどうやって成り立っているかというと、その祈祷のご祈祷料で成り立っている。トントンとカツカツなので、お仕えしている人みんなボランティアです」
そこで自身で立ち上げたのが、以下の2事業だ。
- **ペット供養**:単価15万円程度。人間と同じように葬式を上げる(火葬は別業者)
- **海洋散骨**:単価45〜70万円程度。船上で読経などの儀式を行う
相場感は他の葬儀業者と同等。ただし「お寺やお坊さんが本格的にやっているケースはほぼなく、葬儀屋さんが主体でお坊さんはオプション」という構造。SEOでも葬儀屋に取られてしまい、立ち上げて3ヶ月、PPC広告も試したが集客が課題だ。
相談を聞いた亀山会長の見立ては厳しい。
まず、競合となる葬儀屋は初期投資数百万〜数千万を回収しながら、ブランディング・組織化・効率化を進めてようやく軌道に乗せている。これに対しユーザーから見ると、お坊さんが運営していようが葬儀屋が運営していようが、提供されるサービスの見え方はあまり変わらない。
そしてマーケティングの専門性もない状態で広告を打っても、9割型は失敗するという。
決定的なのは、亀山会長の次の指摘だ。
「煩悩半分だけ使わないと。悟りのために煩悩使うっていう。稼ぐということであれば、まず煩悩ありき。そこまでして頑張りたいと思えないと、結局事業として続かない」
あささん自身、「会社として大きくして上場させるとかではなく、勉強に没頭できるぐらいの金額が稼げればいい」というスタンス。さらに「割といい生活をしてきちゃった」ため、生活レベルも落としたくない。
動機が「不純」な競合プレイヤーに対し、あささんの動機は「商売人から見るととても不純な動機で商売をやろうとしている」と亀山会長は逆説的に評する。お客さん対応より祈りを優先するような姿勢では、ビジネスとして勝てない。
亀山会長の結論は明快だ。
「仏教を続けたいけど、自分がきちんと生活できていなかったら誰にも分け与えられない。まず自分の生活がきちんとできることが大前提」
そして事業として独立させるよりも、働いた分だけ確実に収入が得られる仕事をすべきだという。ただ、あささんは時間労働的な働き方には「とっても窮屈」と感じてしまうため、これも難しい。
ランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を聞かれたあささんは「あと半年」と回答。亀山会長は「事業をやったらむしろ早まる」と忠告する。
話の流れで、あささんが20代半ばまで夜の仕事をしていた経歴が明かされる。亀山会長はこのキャリアに着目した。
「お坊さんでスナックをやるとか、田舎の商業都市あたりでスナック『あまちゃん』みたいなコンセプトでやったら結構人気が出るんじゃない」
頭を剃った女性のお坊さんがママをやるスナック──最大の差別化要因になり、かつ家賃も安い地域なら利益率も高い。仏教と矛盾するように見えるが、あささん自身も「やることにこだわりはない。食べていけて勉強できる時間があればいい」と前向きに反応する。
夜の店でお客にお説教をする。お客は「俺もちょっと飲むの控えます」となる──こうした逆説的なポジショニングは、煩悩のど真ん中に身を置くことで、かえって独自性を生み出す可能性があるというわけだ。
お坊さんとしての勉強には学費だけで月20〜30万円、本山への交通費まで含めるとさらに加算される。「仏の世界も金しだい」とあささんは苦笑する。
仏教の教えを広めたいという真っすぐな志と、生活水準を落としたくない現実的な感覚。その狭間で揺れる相談者に対し、亀山会長が示したのは「副業で事業を成立させる難しさ」と「自分の強みを活かしたポジショニング」という、極めて実務的なアドバイスだった。
結論として悩みは「全然解決していない」状態で対談は幕を閉じたが、起業家が事業構造をどう設計すべきか、そしてビジネスにおける動機の純度がいかに重要かを浮き彫りにする、示唆に富む内容となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


2026/2/26

2025/11/3

2024/3/7

2026/4/25

2026/2/9

2026/2/4