統計学YouTuberサトマイ氏が、生産性を1.5倍にするタイムボクシング、組織を強くするキャリア安全性、燃え尽き症候群の対処法、そして成功する起業家の意思決定パターンまで、経営者が知るべき科学的アプローチを解説する。
M&A CAMPに登場したのは、統計学YouTuberとして人気を集めるサトマイ氏。普段は需要予測やマーケティングリサーチ、新規事業開発の事前予測を通じて事業計画策定を支援している。本記事では、統計学的視点から経営者の意思決定や組織運営を読み解く対談の内容を再構成して紹介する。
まず取り上げられたのは、経営者個人の生産性を高めるテクニックだ。フィルタード社が実施した時間術ランキング調査において1位となったのが「タイムボクシング」と呼ばれる手法である。
これはイーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏も実践しているとされ、活用すれば「週40時間分の労働を60時間分に相当させる」、つまり生産性が1.5倍になるという。
やり方は極めてシンプルだ。
- 1日のタスクをすべて書き出す
- それぞれを「何時にやるのか」まで決めて事前にスケジュール化する
サトマイ氏が推奨するのは、ノートに時間軸を書いた上で、タスクを付箋に書いて貼り付ける方法だ。「予定は変わるので、付箋なら入れ替えが効く」という理由である。経営者は日々飛び込んでくる新しい案件に対応しているうちに、人材育成のような中長期的な仕事が後回しになりがちだが、時間を区切ることで隙間が生まれ、本当に重要なタスクに時間を割けるようになる。
調査の2位は「優先順位を決める」、3位は「ノーと言う」だった。共通しているのは、やるべきことに集中し、やらなくていいことはやらないという選択である。
とくに「ノーと言う」ことが苦手な経営者は多い。サトマイ氏が示した断り方のポイントは、消極的な理由ではなく積極的な理由で断ることだ。
「忙しい」「お金がない」といった消極的な理由は相手にマイナス印象を与えてしまう。一方で「今日は家族との時間を大切にしたいから」というように、自分の価値観に基づいた理由を伝えると、相手にも価値観が共有されやすく、セルフブランディングにもつながるという。完全に断るのではなく「行くけれどお酒は飲まない」といった折衷案も有効だ。
4位の「動く」は、休憩中の散歩や運動を指す。サトマイ氏自身もデスクの脇にステッパーを置き、45分ごとにタイマーで強制的に身体を動かしているという。1時間を超えると逆に生産性が落ちるため、長時間のミーティングやデスクワークは避けたほうがよい。
5位は「デバイスのコントロール」。私たちは1日に150〜221回もスマホをチェックしているとされ、視界に入っているだけで注意力が削がれる。サトマイ氏は仕事中、スマホをベッドに置くなどして物理的に距離を取っているという。
なお、サウナの効果については「データはあるが、サウナに入れる人=もともと体が丈夫な人なので、生存者バイアスがかかっている」と慎重な見解を示した。エビデンスは特定条件下で見られる法則であり、自分に当てはまるかは吟味が必要だという。
組織の生産性についての話題では、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」で有名になった心理的安全性に加え、近年提唱されている「キャリア安全性」が紹介された。
キャリア安全性とは、「この会社にいて他社でも通用する自分になれているか」という感覚である。心理的安全性が高い、いわゆるホワイト企業であっても、Z世代を中心に「このままでいいのか」という不安から退職する事例が増えている。
キャリア安全性を高める方法として、サトマイ氏は副業の解禁や新しいチャレンジの場づくりを挙げる。重要なのは、副業をしていることを本業側にオープンに言える状態を作ることだ。隠した状態ではフィードバックが起きず、本業へのスキル還流も生まれない。
さらに、新しいアイデアは「会話の量」で決まるというデータもあり、休憩時間中に「最近どんなことやってるの?」と気軽に聞き合える雰囲気作りが、組織力を高める上で有効だという。
M&A後に燃え尽き症候群を経験した取材者の質問に対し、サトマイ氏は「燃え尽きた経営者は目標ではなく目的を見失っている」と指摘する。
目標は到達できるもの(モテたい、お金持ちになりたい等)だが、目的は太陽のように到達不可能で、そちらに向かって進んでいること自体が幸福をもたらす指針だという。2018年の神戸大学による日本人2万人調査でも、人生の意味や目的を持つ人ほど幸福度が高いことが示されている。
目的を見つけるには、自分の「フェチ」を探すこと、すなわち時間を忘れて没頭できるフロー状態に入れる対象を見つけることだとサトマイ氏は語る。1週間ごとに振り返りを行えば、年間52回のPDCAサイクルを自分自身に対して回せる。
この考え方は、サトマイ氏の新刊『あっという間に人は死ぬから』にもまとめられている。
「やらなければならないこと」とどう向き合うかという問いに対しては、神経症傾向の話が展開された。
メンタルが弱いとされる神経症傾向が高い人は、物事を0か100かで考えがちだ。「やりたくない/やる」の二択ではなく、得意な人にお願いする、なぜやりたくないのかを掘り下げるなど、グラデーションを意識することが重要だという。神経症傾向は性格特性の中でも比較的変えやすい部分であり、認知の歪みを整えるワークによって改善できる。
なお、MBTIなどの性格診断についてはエビデンスがなく「エンタメ」の範疇だと指摘。占いも同様だが、サトマイ氏は「自己成就予言」を活用するために、いいことしか言わない占い師に意図的に診てもらっているという。
最後のテーマは意思決定だ。サトマイ氏は驚きの研究結果を紹介する。著名企業のCxOクラスの意思決定の的中率は、コイン投げと変わらないというのだ。
その上で示された有効な手法は2つ。
1. 迷ったときはコインを投げて、表が出たら実行する。実際に行動した人ほど後から「うまくいっている」と感じる傾向がある
2. 直感に頼り切らず、一晩寝て再考する。直感より再考した答えのほうが成功確率が高いというデータがある
ただし、成功する起業家には明確な共通パターンがある。それは「リスクを必ず想定し、飲み込めるリスクならやる」というワンクッションを意思決定に挟むことだ。
対談の締めくくりに、経営者にとっての統計学の意義が語られた。サトマイ氏によれば、業績に最も影響する変数は「組織力」であり、組織力を高めるのは「意思決定の明文化」である。
統計学の真価は、数式そのものよりも「数字を共通言語にできること」にある。広告のA/Bパターン比較のように、数字で測って勝ちパターンを決めるという文化を社内に根付かせれば、意思決定が明文化され、組織力と業績が連動して高まっていく。
経営者自身が統計学に詳しくなる必要はないが、数字で会話できる土壌を組織に導入することが重要だ — それがサトマイ氏の結論である。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
