数千億規模を非上場で経営するDMM亀山敬司会長が、上場・非上場それぞれのメリットとデメリット、ストックオプションに頼らない社員のモチベーション設計、経営者の出口戦略について語った。
数千億円規模の事業を非上場のまま経営する企業は決して多くない。代表例として挙げられるDMM、アパホテル、アイリスオーヤマなどに共通するのは、あえてパブリックカンパニーの道を選ばずに成長してきたという点だ。
M&A CAMPの取材に応じたDMM亀山敬司会長は、「調達が必要ない会社が上場する意味合いはほとんどない」と語る。本記事では、亀山会長が考える非上場経営の本質、上場の真のメリット、ストックオプションに代わる動機付けの仕組み、そして経営者の出口戦略について整理した。
亀山会長がまず挙げる非上場のメリットは、シンプルに「顔を出さなくていい」という点だ。
「公人になるのは結構厄介で堅苦しい。世間体を気にしなければいけないし、それに加えて株主の顔色も見ないといけない。一目を置きながら生きていかなければいけないのは、まずひとつのデメリットだ」
さらに経済的な側面も大きい。スタートアップが何度かの資金調達を経て上場する頃には、創業者の持ち分は2割ほどになっているのが一般的だという。
「上場して頑張って利益を出しても100%は来ない。30%だけ。テンションで言えば、リスクもリターンも全部抱えたほうがやりがいはあるし、収入も含めてそうだ。だから非上場でやれるなら非上場のほうがいい」
では上場のメリットはどこにあるのか。亀山会長は「ビジネスモデルによる」と整理する。
「非上場だったら借金しなければいけないところを、上場すれば投資で済む。失敗しても金利はかからないし、責任を自分だけで取らなくていい。短期間で大きな資金が必要な場合、特にITで当初赤字でずっとやっていく必要があるようなビジネスでは、調達はありだ」
一方で、すでに利益が出ている会社にとっての上場コストは無視できない。
「売上20億で利益2億くらいの会社が上場するために投資を受けると、株を30〜40%は出さなければいけない。仮に利益1億の会社が上場すると、上場の維持費だけで5,000万から1億かかったりする。株主に年に1回謝るというか宣言するというか、そういうことを気にしなければいけない上に、自由度も減る」
調達が必要なフェーズでないなら、わざわざ自由を手放す合理性は薄いというのが亀山会長の見方だ。
もっとも採用や信用面では一定のメリットも認める。「上場会社のほうが親も安心する。会社に対する信用度も少し上がる。銀行や取引先への信用が上がるのはあるかもしれない」。ただし「変なものを持っていたら売れないし、タイミングが悪ければお金は入ってこない。それくらいのメリットしかない」と冷静に評価する。
スタートアップでは、社員に当事者意識を持ってもらう手段としてストックオプションを配るのが一般的だ。上場やM&Aの際に現金化できる仕組みで、社員の頑張りに連動する。
しかしDMMのように上場もM&Aも想定していない非上場企業の場合、別の仕組みが必要になる。亀山会長の答えはシンプルだ。
「もう昇給で、収入面でよくするということ。利益を上げたら、これくらい渡すよと。今だったら上場とM&Aが成立するまで何ももらえないんだろう? 夢だけもらっているような状態だ。それよりは、やった分だけ給料がもらえるほうが働く側もいい」
上場やM&Aを目指していると言いながら、実際には9割の会社が達成できないという現実もある。亀山会長は「経営者から見ればストックオプションという手はある。『夢があるよ』みたいな感じで。ただ、たいていそういうことを言っている会社は給料が安い。『株だけであとはタダで働いて』みたいな話はサステナブルではない」と釘を刺す。
亀山会長自身も、かつて上場に憧れた時期があったという。
「やっぱり上場なのかなと思ったときはあった。色々調べていく中で、銀行筋から株を買わないかという話があり、一部上場会社の株を7割ぐらい持ったこともある。社員を送り込んで立て直しをしていたが、利益が出た以上に、株のいろんな準備のためにすごくリソースが取られる。やり取りを見ていて『ああ、俺はやっぱりいいわ』となった」
上場企業の経営者と会う機会も多いが、その苦労を聞くたびに「俺のほうが幸せだ」と感じるという。実体験として上場企業を内側から見たうえでの結論であることが、この発言の説得力を高めている。
上場と非上場の比較は、最終的には経営者個人の出口戦略の話につながる。亀山会長は目的別に整理する。
「実は仕事は嫌いだけど金持ちになりたいという人なら、上場よりM&Aのほうがいい。会社を作って10億で売って『あとはさよなら』。これが10億の資産が欲しい人には一番おすすめだ。上場だとM&Aほど簡単に売れない。代表権を降りて誰かに任せ、株だけ少しずつ売っていくというのはあるが」
また、年齢が上がってから経営者が権限を委譲したい場合や、子供への承継を考える場合は、非上場のほうがやりやすい局面もあるという。
「子供に残すパターンが一番多い。子供に譲りやすいのは、パブリックじゃない『大家様』の状態だから。非上場だから誰も文句を言わない。子供に会社を引き継がせたいなら非上場のほうがやりやすい」
一方で、株主による監視が入るパブリックカンパニーは、創業者の好き勝手を抑制し、合理的な経営を維持する仕組みとしては機能しやすい。
亀山会長は自身を「とにかく自由が欲しいだけ」と表現する。ただし、自由=放埒ではない。
「社員に対してはやっぱり範を示さないといけないし、見本にならないといけない。俺がフラフラ遊んでいたら、社員がどう思うかという話もある。公正な判断ができるか、自分の好みでえこひいきしないか、新しいことにチャレンジするか。そういう合理性は必要だ。会社の業績を伸ばそうと思っても、現場のやつがやる気をなくすような会社は持たない」
趣味についても「あまり趣味らしいものがない」と語る。暇なときは「暇にしないようにしている」。プールで泳ぐ、勉強する、といった面倒なことを敢えてやることで自己肯定感を高め、体力やメンタルの維持に努めているという。土日は一応「ボーッと」するが、それでも「ちょっと考えちゃう。染み付いているんだろうね、商売というか」と笑う。
亀山会長の話を整理すると、非上場と上場の選択は次のように要約できる。
- 非上場は、公人にならず自由度を保てる。リスクもリターンも自分で抱えるためテンションが上がる。一方、信用面と資金調達力では上場に劣る。
- 上場は、短期で大きな資金が必要なITやスタートアップに有利。採用や信用度のメリットはあるが、維持費・株主対応・自由度の低下というコストがある。
- 出口戦略としては、現金化を急ぐならM&A、段階的なエグジットなら上場、子供への承継なら非上場が向いている。
- ストックオプションは「夢」を売る手段だが、9割は達成できない現実がある。給料で報いる方が社員にとっても誠実な場合がある。
上場が経営者の最終ゴールだと考えがちだが、亀山会長の語りは「上場ありき」の発想を相対化する視点を与えてくれる。自社のビジネスモデル、必要な資金量、経営者自身が手にしたい人生像──それらを冷静に見極めた上で、上場するかどうかを判断するという姿勢が、数千億規模を非上場で運営する経営者の言葉から浮かび上がる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
