個人アクティビスト投資家として活動する田端信太郎氏が、上場企業経営者の取るべき株主との向き合い方を語る。メルカリ・山田進太郎氏への問題提起から、社外取締役のあるべき姿、「上場ゴール」批判まで、健全な資本主義のリテラシーを問い直す対談。
メディア出演でのパブリックイメージとは裏腹に、対面で接すると驚くほど穏やかで論理的——。個人アクティビスト投資家として活動する田端信太郎氏は、いま上場企業の経営者やステークホルダーに向けて発信を続けている。
メルカリ・山田進太郎氏に対する一連の問題提起を含め、田端氏が訴えるのは「経営者は株主と真剣に向き合うべき」という極めて正攻法な主張だ。本記事では、田端氏が語る活動の動機、振る舞いの哲学、そして「上場ゴール」と化したスタートアップへの警鐘までを再構成して紹介する。
田端氏は4月末から個人アクティビスト投資家としての活動を開始した。なかでも注目を集めているのがメルカリ・山田進太郎氏への問題提起である。
「企業家として山田さんが素晴らしいことは大前提として認める」と前置きしたうえで、田端氏はメルカリの現状をこう指摘する。USの事業がGMV(流通取引総額)でマイナス、日本の事業も伸び率が一桁にとどまる。そうした事実に対して、メディアインタビューでの受け答えに「外部からどう見られているか」のメタ認知が欠けていると言う。
「テレ東のインタビューでも、女子アナの方が『USは6〜7年赤字ですけど』とズバズバ聞いてくれている。にもかかわらず、社外から自分たちがどう見えるかへの危機感のレベルが甘い」
田端氏が問題視するのは山田氏個人だけではない。「あれだけの会社で、それなりの経歴のCFOや広報責任者を雇っていてこれかよ」と、周囲のスタッフによる事前のリスクコミュニケーションが機能していない点を厳しく指摘する。
かつてZOZO・前澤友作氏のもとで広報責任者を務めた田端氏は、「常に胸ポケットに辞表を持っている覚悟で接していた」と振り返る。
「インタビューで世の中的に通らない発言があると感じたら、まず私が辞めましょう、その後に好きな広報を雇って好きにやってくださいと言える覚悟で接しないと、創業社長は止まらない」
田端氏が前澤氏を高く評価するのは、耳に痛い意見を「うざい」と言って外しはしなかった点だという。
「創業社長は、ある程度うまくいくと『うるさい、どうせ俺がうまくいくって言ってるんだろ』と直言する人を遠ざけがちだ。前澤さんはそうではなかった。耳に痛いことを直接面と向かって言ってくる人は本当に貴重で、片手で足りなくなるくらい2〜3人いれば立派な部類だと思う」
社外取締役(社外取)の機能不全についても田端氏の批判は鋭い。社外取締役とは、社内の利害から独立した立場で経営を監督する役員を指す。
「社外取締役は、社長の友達でも部下でもなく、株主の利益の代理人であるべきだ。株を1株も持っていないくせに役員報酬だけもらって何が社外取だ、と思っている」
スタートアップが上場審査時に形式的に社外取締役を入れる慣行についても、「名前もなくホイホイ受けると、結局受けた人もハクが下がる」と苦言を呈す。
田端氏は現在、メルカリの取締役会の議事録閲覧を求めて東京地裁に申立てをしているという。「株主総会で取締役に印象論でバツをつけるのは失礼だ。社内できちんと議論されているなら、その記録を確認したうえで判断したい」と語る。
田端氏が活動の根拠としているのが、金融庁が機関投資家向けに示すスチュワードシップ・コードと、経済産業省が会社向けに示すコーポレートガバナンス・コードのガイドラインである。
「経産省のガイドラインには、上場企業は株主からの面談依頼や問い合わせに対して、株数に関係なくできる限り対応すべしと書いてある。100株の株主であってもだ」
NISAの拡充、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による運用——日本政府は明確に「日本株を上げる」方向に舵を切っている。だからこそ、上場企業は株主を向いた経営を真剣に行わなければならない、というのが田端氏の主張だ。
「TOPIXは今後採用銘柄が絞られる方向で、私から見れば残り3000社近い上場企業は実質的に『上場ゴール』を当局が認めようとしている状態。それでも採用される数百社ですら多いくらいだ」
田端氏がGMOインターネットグループ・熊谷正寿氏について語るエピソードは示唆に富む。田端氏が熊谷氏のプライベートジェットの燃料費を指摘した際、熊谷氏から共有されたのが、十数年前にオアシス・マネジメントがGMOに対して株主提案を行った際の株主総会プレゼンスライドだった。
熊谷氏はそのプレゼンの冒頭で、「一部のメディアでGMO経営陣とオアシス氏との間に対立関係があるかのようなムードがあるが、それは誤解である。なぜならGMOグループの筆頭株主は私・熊谷であり、その株式価値に目をつけて投資・提案してくれる大橋氏が敵であるはずがない」と言い切ったという。
「立った瞬間の立ち会い方で勝負あった、という感じだ。耳に痛いことを言ってくれる人を遠ざけずに懐に入れる、その立ち回りはやはりすごい」
田端氏のメッセージは明快だ。「アクティビスト対策で一番効くのは、株価を上げること」。
「投資としてやっているのだから、めちゃくちゃ業績を上げて株価がアクティビストの想定以上に上がれば、売って出ていく。Twitterで節度ある対応をするより、何も言わずに業績を上げて株価を上げてくれればそれだけでいい」
田端氏が保有する3万株のメルカリも、4月末の指摘から6月のUS事業リストラを経て、株価は1600〜1700円台から2300円水準まで戻したという。「結果的に得をしたのは私以上にメルカリの山田さん本人。だから打てば響く人だ、言えば分かる人だという思いは未だに持っている」
田端氏は自身の活動を「体当たりの取材」と表現する。
「PIVOTや他のメディアで似たような発信はできるかもしれないが、彼らは立場上私のようなポジションは取れない。私はあくまで株を買って当事者になるから、株主総会に参加して『先陣を切ってきます』というスタイルが取れる」
注目すべきは、田端氏が銘柄を取り上げると、Twitterなどで「人間Googleクローラー」のように一般投資家から情報提供が寄せられることだ。タイミーとメルカリの取締役を務める渡辺氏が同一人物であるという指摘も、こうした協力者からもたらされたものだという。
「これは大義のある活動なのだと、勝手に協力者が現れることで分かってくる」
ただし、田端氏は文春砲のようなスキャンダル暴きはやらないと明言する。「私が事実確認できないようなフワッとした情報には踏み込まない。あくまで開示情報やIR、インタビューでの公表内容に基づいて指摘するスタイルだ」
田端氏は、エイベックス・松浦勝人氏の役員報酬について「利益20億円の会社で役員3人で報酬7億円はおかしい」とリプライしたことはあるが、それ以上踏み込まない理由をこう説明する。
「もし私の発言が一因で松浦さんが本当に辞めたら、翌日のエイベックス株はどうなるかをシミュレーションする。松浦さんのいないエイベックスは、ジョブズのいないアップルみたいなもの。株価は下がるかもしれない。そうなれば既存株主に迷惑がかかる」
どこまで踏み込むか、煽る場合でも「さん付け」や敬称を欠かさないなど、最低限のマナーラインは外さない——。これが田端流の責任ある発信の作法だという。
未上場のスタートアップで巨額調達を行いながらも、ダウンラウンド(前回より低いバリュエーションでの調達・上場)を恐れてキャッシュを眠らせている企業——田端氏はそうした実態にも疑問を投げかける。
「半分冗談で半分本気だが、彼らはそのキャッシュで上場企業を買った方がいいんじゃないか。今この瞬間、上場株でいい銘柄で安いものはいくらでもある」
田端氏が高く評価する銘柄として挙げるのが、英語コーチング事業のプログリットとモバイルバッテリーシェアリングのインフォリッチ。プログリットは上場時の時価総額30億円から150億円規模まで成長し、銘柄を取り上げた際にCFOからTwitterで好意的なリアクションがあったという。
「業績が伸びて、利益と時価総額の関係(PER)が常識的なレンジに収まれば、株価は素直に上がる。プログリットはまさにその好例だ」
田端氏の活動は単なる炎上マーケティングではない。背景にあるのは、上場企業が株主を向いた経営を行うことが、結果として年金運用を含む日本全体の国益につながる、という視点である。
「上場ゴールを決めて会社を私物化し、サッカーやバスケのチームを買って遊んでいるような経営者はけしからんと言わなければならない」
スタートアップ業界における「上場することがかっこいい」という価値観も、転換期を迎えている。亀山敬司氏のように非上場で大規模な事業を築く先例もあり、上場はあくまで手段に過ぎないという認識が浸透し始めている。
田端氏のアクティビスト活動は、本人いわく「アンパンマンにおけるバイキンマン」のような存在だ。経営者の耳に痛いことを直言する数少ない存在として、健全な株主との対話の作法を社会全体に問い続けていくだろう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。
