「何億調達した」は自慢になるのか。DMM.com会長・亀山敬司氏が、ベンチャー経営者に向けてエクイティ調達・バリュエーション・撤退判断・株主対応などについて率直に語った対談。資金調達バブルの裏側で見落とされがちな経営の本質に切り込みます。
「何億調達しました」と発表する若手経営者は格好よく見える。しかし、それは本当に「稼いだ」ことになるのか――。DMM.com会長の亀山敬司氏が、若手経営者に向けて率直なメッセージを語った。エクイティ調達、バリュエーション、株主への説明、撤退判断、そして「弱者の気持ち」を理解する重要性。資金が集まりやすい時代だからこそ知っておきたい、経営の核心に迫る対談をお届けする。
聞き手が切り出したのは、最近のベンチャー界隈で頻繁に目にする「◯億円調達しました」というアピールについて。亀山氏はかつて、アメリカで「経営者の力量とは何か」を聞いた時の答えを引き合いに出す。
「『いくら借金できるか』だって言うんだよ。要はそれって信用力、調達力の話なんだよね」
VCがバリュエーション100億円で10億円を出すというのは、その経営者と事業に「将来1,000億円の価値になるかもしれない」という期待を持っているから。だが、亀山氏は冷静にこう続ける。
「所詮、空の話だから。信用は得たのは良かったけど、ある意味、口がうまかっただけって話もあるんだよ」
調達額をアピールすること自体は、採用やブランディングの戦略として正しい。「うちはこれだけの信用がある、VCに認められた会社ですよ」と言えば、人も集まる。問題はその先だ。
「調達したことで自慢するな。それを増やせた時に初めて自慢すればいい」
亀山氏は、自身の感覚として「PER(株価収益率)20倍ぐらいなら、なんとなく分かる」と語る。利回り5%程度のイメージだ。だが、赤字でも上場するベンチャーや、利益の40〜50倍、ときに無限大のバリュエーションがつく企業も存在する。
「将来の利益見込みで値段がついている。それは調達の段階も上場した時も同じ。VCが金を入れるか、一般の株主が入れるかの違いだけ」
そして、ここに最大のリスクがある。
「多くは、その通りに行かなくて、調達したけど翌年に倒産しましたって会社もいっぱいあるんだよ」
調達直後にオフィスを綺麗にしたり、派手な投資をする若手経営者を見て、亀山氏は思うところがあるという。
「『何、無駄遣いしてんだ』って思うやつ、結構いるんだよ。『オフィスを綺麗にしたら採用がいい』という理由もあるとは思う。でも、自分に問いかけてみてほしい。『綺麗なオフィスで社長』って気分に浸ってないか、振り返ってほしい」
話題はLTV(顧客生涯価値)に基づく広告投資の議論へ。会員1人あたり10万円の価値があると見込んで、5万円の広告費をかける。しかし1年で回収できるのは2万円程度。だから常に赤字を掘り続ける――これがサブスク型ビジネスの構造だ。
「5年後にはその会員が10万円の価値ありますよっていうのは、理論上は起きる」
では、その通りに行く確率はどれくらいか。亀山氏の答えは明快だった。
「常に変動するからね。5年先なんて初めの段階で分かるわけない。意外と解約率(チャーン)が少なくて12万円、13万円になることもあれば、思ったより途中でやめる人が多くて8万円や5万円しかないこともある」
見込みで広告を踏んだものの、実際には4万円しか回収できないケースも珍しくない。一度集めてしまった会員は取り返しがつかない。だからこそ、毎年、毎月単位で見込みを修正し続けることが重要だという。
「多くは見込みのままでやっちゃうわけよ。10万円×(顧客数)で計算したら、大抵下がる。1年経ったら8万円、6万円と修正していかないといけない」
一方で、競争に勝つためには「乱暴でも会員を取りにいく」決断も必要だ。1位のシェアを取れば、ライバルとの競争で会員が乗り換える前に、ブランドとして優位に立てる可能性がある。これは攻めと守りの「攻め合い」だと亀山氏は表現する。
聞き手は、自身が今年2月に資金調達を経験した実感を語る。計画通りに行かなかった時、株主に修正を伝えるのが「言いづらい」のだと。
亀山氏の答えは現実的だ。
「正直に言う方がいいと思うけど、言わないやつもいると思うよ」
VCがそこまで深く理解しているとは限らない。「課金の見直しをやってますから10万円行けますよ」と言えば、「あ、そうなのかな」となることもある。だが、後で苦労するのではないか――という問いに、亀山氏はこう続けた。
「次のVCの2回目の増資の時に、『これだったらこれ以上出せないよね』ってなるのもある。だからそこで葛藤がある」
上場を目指す時、上場した後も、「うまくいってますよ」と見せて株価やバリュエーションを維持する必要がある。これは「ハッタリ」ではないが、見栄を張らなければならない局面はある。
「ハッタリが行きすぎると粉飾みたいになっちゃう。最近もあったよね。ない売上をあるように見せるのは犯罪。でも『将来こうなりますよ』は詐欺じゃない。ただ、本当にそう思ってるのかよ、という話」
亀山氏自身は、これまでエクイティでの大型調達をほぼしていない。理由はシンプルだ。
「責任が大きいじゃない。なるべく少なくしたいなと思ってた」
調達していないからこそ、撤退判断が早い。「予定と違った」「10万円取れると思ったら5万円しかなかった」と気づいた段階で、すぐに撤退できる。だが、エクイティで多額の資金を集めたスタートアップは、そう簡単に引けない。
「ピボットすればいいって言うけど、『すいません、見込み甘かったです、業態変えますね』と素直に言って、『じゃあ次これでいいよ』ってなる時もあれば、ならない時もある」
資金面でショートしないように経営してきた亀山氏だからこそ、機動的な撤退ができた。これは、調達に走るベンチャーが見落としがちな視点だ。
ここまで厳しい指摘を続けてきた亀山氏だが、結論は意外なものだった。
「正直、嘘つかないで調達する分には、みんな出してくれるんだから。VCの方が会社の数より多いぐらい」
国の融資制度も整い、保証も以前より緩くなった。エンジェル投資家も急増している。亀山氏が起業した頃は、エンジェルなど数えるほどしかいなかった。
「今はちゃんとやることやってたら、失敗しても許容される時代かな。今までやらなさすぎたから、これでいいんだよ」
ただし、注意点もある。VC界隈に東大出身者や大手出身のエリートが増えたことで、「ヤンキーの気持ちが分からない」「彼らの思考を見下す」傾向が出てきているという。
「でも、そういった人たちをお客さんにしようとしているサービスもいっぱいあるわけ」
亀山氏は、アルファードを残価設定型ローン(残クレ)で売る事例を挙げた。1,000万円のフルローンは組めないヤンキー層も、400万円のローンなら組める。「手取り20万円でもアルファードに乗れる」と飛びつく。だが5年後、残価が組めずに借金で詰まるケースも出てくる。こうした顧客層の心理を理解せずに、いいビジネスは作れない。
話は社会全体の「分断」へと広がる。亀山氏は、政治や世代間の対立を見ていて感じることがあるという。
「分断が起きた時、どうしても相手をバカだと思ってしまう。でもそうじゃなくて、彼らがなぜそういう判断をするかを理解しないといけない」
かつてアメリカで、クリントン支持者がトランプ支持者を「偏差値が低い」と馬鹿にした結果、何が起きたか。同じ構造は、エリートのVCが起業家やその顧客を見下すことでも起きうる。
「むしろ、調達してないけど地味に建築業やって年商1,000万円の利益を出してる、しかも『僕のやってることなんてどこでもやってることだ』って言ってる奴の方が、ちゃんと立派だと思っちゃう」
亀山氏が若手経営者に伝えたいメッセージは、次の3点に集約される。
1. **調達額をアピールするのは戦略として正しい。ただし「稼いだ」わけではないと自覚せよ**
2. **見込みは常に修正せよ。空の話のままでは、苦しくなった時に逃げ場を失う**
3. **エリート思考で「弱者」を見下すな。彼らの論理を理解できなければ、いいビジネスは作れない**
そして亀山氏は最後にこう締めくくった。
「相手は踏まなきゃいけないから、調達はすればいい。国の金だろうがVCの金だろうが、やればいいんじゃない?」
資金調達のハードルが下がった今だからこそ、調達した資金をどう活かすか、何を見落とさないか――その自問が、若手経営者に問われている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
